外国為替取引ニュースサイト

  1. トップページ
  2. >コラム・レポート
  3. >尾関高のFXダイアリー
  4. >業界の今と明日@2012.7

コラム & レポート

バックナンバー

尾関高のFXダイアリー

業界の今と明日@2012.7

■取引高とカバー先


金先協会発表の当年6月の数字を見ると、店頭業者53社の取引高合計が、153兆1,094億円(前月比19.4%増)、ドルに直すと1,962,941 mio USD、ほぼ2兆ドルとなっている。個人的な推測だがそのうち20%ぐらいがカバー先でヘッジされているとすると、その額は大体400,000 mio USD, 4千億ドルとなる。業界トップの月間取引高分ぐらいに見える。この4千億ドルの争奪戦がお店の裏庭であるカバー先市場で行われている。


どの業者でも大体目にするカバー先は名だたる外銀であり、一部資本関係上邦銀の名前が出ているところもある。また、最近は銀行からの余与信がきつくなったり、プラットフォームの制約上等の理由から国内外の先物業者がカバー先になっているケースも増えた。また、海外からは銀行証券だけでなくヘッジファンドもカバー先として進出してきていることはご存じの方も多いだろう。


■カバー先の変化


今までカバー先=インターバンク=大手国際銀行証券、というイメージだったが、現在は、カバー先=システム紐付き=大手FX業者(システム自社開発)=スプレッドのいい相手=ヘッジファンドや大手先物業者=彼らのヘッジ先としてのインターバンク、という図式に変わりつつある。スプレッド競争が激しくなりすぎて、あるいはリーマンショック以降のドッドフランク法の影響により、一部の大手銀行証券は手を引いたところにヘッジファンドとか先物業者の形態をとりながら、0.1とか0.2の極狭スプレッドを出しつつ内部でのカバーのロジックを駆使し利益を出すような、流動性から収益を生み出すトレーディングハウスがFX業者と銀行証券の間に入ってきた。


リスクを取る(つまり内部でディーリングをする)FX業者にとってはよりタイトなスプレッドを出してくれるなら相手が銀行だろうがヘッジファンドだろうがどっちでもいい。その場合取引先リスクがゼロもしくは1.2%から25%に跳ね上がるが、その程度で困るような自己資本規制比率でなければ気にすることはない。

現在個人投資家がドル円で0.2とか0.3という極端なスプレッドを享受できる前提は、こうしたアルゴリズム等で顧客からのフローを利益に変えられるカバー先が存在するからに他ならない。また、FX業者内部で行われるディーリングによってその業者が黒字を維持することも合わせて重要な要素である。業者とカバー先どちらも儲からなければこの市場そのものが消えてしまう。無論、消える業者や銀行はあっても新たに代わりを務める業者や銀行が出てくれば、すなわち代謝が行われる限りは大丈夫であるのは言うまでもない。

しかし本質的には、このビジネスにかかわる業者、極狭スプレッドを出し続けるカバー先がともに利益をだし続けないとこうした極端なスプレッドを投資家に対して維持してゆくことは不可能になる。


■システム戦略


一方で、このビジネスモデルはどんどんとシステムオリエンテッドになってきた。システム固定費が上がると、ASPの出番となり、他業者が使うASPを使うと業界での差別化が困難になるジレンマの中でトップを走る業者の下にいる第2グループは何とか健闘している状況に見える。世界的に見ても強いFX業者はそのシステムをASPで調達しない。あくまでも金融においてシステムはその業者の顔であり商品そのものであり、競争力の源泉そのものである、というのが私の考えである。だからこそ一番大切にしなくてはならないし、一番厳しくあらねばならない対象なのである。


業界のトップを走るにはシステムは内製化してゆくことになる。そうしないとアイデアの保有、開発スピード、品質責任が全うできないし、コスト管理がむずかしくなる。ASPでやる場合はひたすらその同位性を他の方法、主にマーケティングやブランディングで差別化してゆくしかない。見た目のGUIのデザインを変える程度でどれだけのインパクトがあるか。それ以上に前述の、アイデアの保有、開発スピード、品責任が主体的にコントロールできない。これは大きなハンディとなる。その欠点に対して逆にどこまでASP側がコミットしてくるかというのがこのリスクから逃れるわかりやすい脱出口であるが、そこに行きつくには業者とそのASP業者との戦略上の信頼関係が大きく影響する。このモデルは第2グループとしての位置づけに甘んじるモデルと言っていい。成功すればだが、そうした努力を怠るとあっという間に負け組になってしまう。

結局第一グループのモデルで走るにはそれなりの資本も必要で、そうなるとより大きな金には新たな金が引き寄せられるという法則通り、大資本で臨む経営はよりマーケットを席巻し、中途半端な資本で正面から戦うと飲み込まれる。では、小資本ならどうするかといえば、正面の戦いをやめるということになる。


■正面の戦いを避ける


ようするにニッチに走るということになる。その一つがバイナリ―オプションである。何もバイナリ―に固執することはないのだが、これが一番素人にはわかりやすい。ルーレットの赤か、黒かにかけるのと何も変わらない。傾向が見えるほど=確率が上がるほど倍率が下がるのはなんでも同じである。CFDもそういう位置づけだった。私が2006年に始める時にも言っていたのだが、たいしたマーケットには育たない。実際育っていない。しいて言えば、原油の高騰と金の高騰のおかげでそこそこそれらは取引があるようだが、ダウジョーンズだのFT100だのという株のインデックスものは鳴かず飛ばずである。


■市場を見直す




バイナリ―に限らずオプション全般を取引できるようにして、できるなら個人だけでなく法人も客層に取り込めないだろうかと常々思う。現在銀行で取引する多くの事業法人の方々の中でこの市場を利用している方もだいぶ増えたのではないかと思う。銀行との関係がある方はなかなか変えづらいだろうが、そうでなければ銀行で取引するよりも便利で安いことは間違いない。ただし為替予約となると一般にそれに対応する業者は少ない。かつて私がH証券でやっていた時は大体のG10通貨(はては南アランドまで)のデリバリーに応じるサービスはやっていた。今でも対応する業者はいくつかあるはずである。


対象


最近の流れから考えて、タイバーツ、マレーリンギ、インドネシアンルピー、シンガポールドル、インドルピー当たりの実需は増えてきているのではないだろうか。一般のFX業者は法律や、カバー先とのいろいろなしがらみからスポット以上のポジションを持ちづらいので、客に対して1か月や3か月のフォワードを契約することは困難だが、そもそもオーバーナイトのスワップの付け方がほぼインターバンクとのコスト無視状態の今、それをどうこう言うこともないのだから客には3か月ものを提供しながらカバー先では日々のトモネマーケットで転がしてヘッジするという手はある。そもそもヘッジもろくにしていないのならこういう話もどうでもいい。ただしその場合金利リスクが顕在化するので多少なりとも自己資本規制比率に影響を与えることをお忘れなく。一週間を超えるポジションに対しては金利リスクを計算しなくてはならない。忘れると当然それを無視してしまうので検査のときに指摘されるとえらいことになる。


■次の展開


さて上記の対応をしていくと当然その視線の向こうに見えるのは、海外進出である。最近香港に支店を出したとか、ロンドンに出したという話を聞く。どちらも共通するのは非居住者へのマーケティングを禁止していない。ついでにオーストラリアも禁止していない。つまり、日本からやると海外の居住者に営業できないが、いったん出てそういうところに居を構えれば、世界中の投資家にアプローチができる。世の中の金持ちグループというのはそれなりに横の情報網があるもので、その中の一人を取り込めばそこから芋弦式に富裕層を取り込めるのではと期待してしまう。アジアにおいて華僑、印僑の存在は大きい。

余談ながら投資家保護の視点から海外から営業をかけてくるよそ者業者に対して警告を発し、当該国金融当局に対してもそうしたやからの営業を抑制するよう依頼する(実際に行われているかどうは知らないが)という努力は、どう評価したものか悩む。結果としてそれは日本人の成長の機会を阻むことにならないだろうか。トラブルという副作用を懸念して本来獲得するべき免疫力を作るチャンスを逃すことにならなければいい。無論国益の観点からすれば日本に住む日本人には日本の法人である業者で取引してほしいものである。



海外で営業を始めるにはいろいろ大変なことが多いだろうが、それでもチャレンジする業者がいることは頼もしいことである。狙うはアジア、それは間違いない。が、一方で自分の作ったシステムをぶら下げてアメリカや欧州に打って出る業者がいても全然おかしくない。海外から日本に進出するよりも日本が欧米に進出するほうがその「必須ギャップ補正度」としては低いとすら思う。日本人は相手に合わせることを前提に物事を見つめる。欧米人はえてして自分の成功体験をそのまま持ち込もうとする。相手を信用して決めたら任せる日本人に対して、欧米人は最後まで自分が選んだ相手を信用しない、もしそれが本当であるなら、信用しない文化で信用するのは大変だが、そもそも信用しないのは簡単にできる。だから日本人は海外で成功し、多くの外資系は日本で成功しない。日本人にはいい話のようだが、一方ではガラパゴスになる一因ともいえる。以上、ステレオタイプ化するつもりは毛頭ない。外資系でもばっちり成功している外資系はたくさんある。

論点を繰り返すが、欧米の金融は海外でのビジネスから利益を生み出し本国へと送金する。まるで植民地支配時代のように。金融に限らず、海外ビジネスとはそういうものだが、メーカーとなると現地化という問題から必ずしも本国へと利益を送金しない。ひるがえって日本の場合、海外に出ていく金融が少なすぎると思うのである。最近この業界も海外に出るようになりだして、内心日本人として癒される思いもないわけではないが、一つ問題がある。タイプとして海外で海外の(現地の)顧客を獲得する目的で出ていく業者と、海外から日本の顧客に手を伸ばす業者がいる。前者は個人的にも、国益としても理想的だが、後者は単なる法の目を潜り抜けて日本の市場を餌食にしようとする行為にほかならず、残念な動きである。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

ニュースクラウド