信託義務化が変えた景色
信託が義務化されて、FXやCFD取引のために業者に預けたお金は原則100%保全されることになってもうじき1年になる。その間どの業者も倒産していないので、この機能が脚光を浴びるようなチャンスはないが、この法律が施行されてから、業者の中ではある意味「革命的な違い」が生まれていることにお気づきだろうか。
■業者がつぶれても心配ない
信託義務化がされる前までは、業者の破たんリスクがダイレクトにお金を預ける投資家のリスクとしてつながっていたため、当局も業者の市場リスクの中身には神経質になっていたと思う。いわく、どれくらい頻繁に顧客から放り込まれるポジションをヘッジしているのか、日中のネットポジションはどれくらい大きくなるのかといったことに気を使わなくてはならなかったはずである。ところが一旦この業者の倒産リスクから投資家の資産が切り離されると、業者がつぶれても個人投資家はほぼ100%(※)保護されるため、あとは業者自身のリスクコントロールの腕前次第ということになり、その結果つぶれたらつぶれたで仕方ないねと、極端な言い方をお許しいただければ、そういう風に“平気で”いられるのである。
※完全に100%とは言い切れない仕組みはかつて説明したとおり。
■カバー取引は完全自己勘定
それまでは、業者がカウンターパーティ(CP)に差し出す証拠金に顧客から預かった資産の一部が充てられていたが、いまやそれはなくなり、自前の資金を差し出すかCPから与信枠をもらってやるかのどちらかなので、CPと行う取引は完全自己資金での取引となり、外部からとやかく言われる筋合いはなくなったのである。したがって、いままで“世間がうるさかったから”、なんとなく誤解されているという胃もたれ感を伴いながらも、ディーリングはなるべくおとなしく、できる限り適宜カバーをとり、余計な自己ポジションをとらないとうスタンスであった業者でも、信託以降は、CPに積んでいるのは自己資金なのだから、その範囲であれば、オーバーヘッジだろうがノーヘッジだろうが誰からも文句を言われる筋合いはないということになる。つまり、完全にこれは「自己勘定としてのディーリングブック」として存在し(そもそもカバー取引は金商業ではないので、信託義務があろうとなかろうとそうなのだが)、それを高らかに公言してはばからない環境となっているということである。これは、極狭スプレッドやノースリッページを提供する、DI(Dealer Intervention)モデルでないとそういうサービスが提供できないアグレッシブな業者にとっては、最大の追い風である。そもそもそういうのが店頭(OTC)として本当の姿だが、信託義務化まではそういう正論を口にすると、客の金を私的に使っているとかいう批判を浴び、またそういう批判に対して正論で切り返しても、誰もわかってくれないどころか、ややもすると悪人扱いされそうな雰囲気すらあったものである。かつてそういうジレンマがあったのだが、この信託分離保管によって、それが大方なくなってきたのは、個人的にはスッキリするのである。
日本は信託100%義務化で個人投資家を守り、あとはOTCとしての仕組みに委ねながら、自己資本規制比率をもって、業界からの退場の基準とするという枠組みがはっきりとした。一方米国は、個人投資家の資産を形式上分別させてはいても、業者の信用リスクからははずしていない。純資産の最低額を2千万ドル+預かりの5%と定めるにとどめている。よって、ディーリングの中身に結構細かく口を出す。米国ではDIモデルとNDDモデルがそれぞれメジャーどころで市場を2分しているので、それぞれのモデルについてNFAはケースバイケースの指導を行いながらこれを監督している。
■FXCM 米国 NYSE上場
余談だが、NDDモデルのFXCMが12月2日に上場した。昨年から競争相手のDIモデルのゲインキャピタルも上場を狙っていたが、結果、FXCMに抜かれた。米国のFX業者としては初の上場である。その資産規模(会社の価値)550億円(660 Million dollars)から830億円(1 Billion dollars)になるのではないかという分析もある。とりあえず当日は売り出しと同じ15ドル近辺で推移している。米国におけるこのビジネスモデルの期待値のベンチマーク的地位を獲得したということは言えそうである。
(12月2日記)