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尾関高のFXダイアリー

ゲイン、アイコンに罰金が科されたことから見える将来の形

NFAゲインアイコンに罰金を科した。両者とも数十万ドルという結構な金額である。どちらもMT4(メタトレーダー)がらみの問題である。MT4を通して顧客に不利になるような価格操作を行ったということらしい。その詳細についてはゲインのケースで以前この場で書いているとおりである。結果的に、MT4=価格操作ありき、みたいな印象を市場に与える結果となった。MT4を売るボストンテクノロジーにしてみればいい迷惑であったろう。


■なぜこうなったのか‐前カバーと後カバー


 DIモデルでヘッジを行う業者が、自身のマーケットリスクを減殺するために、いろいろな手法を採用するのだが、これをする動機は提示したレートで顧客注文を約定するという前提があることにその端を発している。「利ざやが確定しないまま取引が成立する」つまり「後カバー」ということである。これはDIモデルのネイチャーである。顧客との取引を成立させた後に、カバーを獲りに行くのだからそこには必ずタイムラグがある。ましてやその間にシステムの複雑さが絡み余計に時間がかかるとなるとさらにカバー取引が遅れることもあるだろう。そのタイムラグはすなわち業者の市場リスクとして跳ね返る。そのリスクを回避するには、プライスを広げて顧客に提示するしかない。その時単に広げるだけでは顧客からそっぽを向かれるので、売り買いの方向をみてスプレッドを変えずに一方にのみずらすとか、取引額に応じてスプレッドを調節するというのは昔からインターバンクでは使っている手法である。これ自体が不法行為だとは思わない。1万ドルの注文に対するプライスと1千万ドルに対するプライスが違うのは当たり前である。流動性の問題がある以上そうなるのは当然である。だから相場が“動く”のである。ベストプライスで無限の取引額を受けていたら相場いつまでも変化しない。問題になるのは、そういう仕組みをちゃんと説明しないでこっそりやったり、顧客が事前に同意しないレベルでのスリッページを事後的に「強制」したりすることである。そういう意味だと私は解釈する。だから罰金なのである。ちなみに、この「後カバー」を人間がやろうが、自動プログラムがやろうが同じことである。念のため。


■ハイフリークエンシートレーダーが与える影響


 従来デイトレーダーとかシステムトレーディングという言葉に象徴される1日に何十回も取引する人を最近こちらではハイフリークエンシートレーダー(High Frequency Trader)と呼ぶらしい。おもに自動売買システムを操るハイエンドな個人や、マネジドアカウントを扱う連中を指している。一方自分の判断で画面をカチカチクリックして取引する相対的に取引頻度の低い投資家をスクリーンクリッカー(Screen Clicker)と呼んでいる。


すこし以前触れたテーマの繰り返しになるが、顧客が増え取引が増えると、その中にHFTから放り込まれる取引が増大する。彼らはボラティリティが上がるとがぜん活動を活発化する。わずかな動きの中で数ピップを狙って打ち込んでくる。こういうタイプの取引に対して、DIモデルでやっている業者のカバー成績というのは決してよろしくない。スプレッドを狭くすればするほど苦しくなる。ここでも人間がカバーしようが自動プログラムであろうが同じである。客に負けてしまう。相手は何百人という数で一気に攻めてくるが迎え撃つのはせいぜい数人のディーラーか、スピードに対応しきれない未完成なプログラムである。勝ち目はない(例外がないわけではないがまれである)。結果、業者は相場が静かなときにこつこつ稼いだ利益を荒れ相場で吐き出すという現象にさいなまれ始める。そうなると、プライスをいじりたくなるのである(ゲインとアイコンはここでMT4をいじった?)。米国の場合、業者の数が少ない分多くの個々の業者の取引高はそこそこのものである。彼らは一様にそういう苦境を経験しているだろう。そして、その上位の一部がDIモデルを辞めて早々とNDDへとモデルチェンジしている。これは上記の苦境を生まない。利ざやが確定しない限り顧客約定をしない「後カバー」だからである。そのためどれだけ取引が増えようが、HFTが暴れようが取引高が増える分収益は上がる。この点取引所取引と同等なビジネスモデルである。そのかわり、ファンド風な言い方をすれば、ディーリングから生まれるアルファ収益はない。すべてベータ収益である。規模の拡大のみが収益を伸ばす単純なモデルであり、ブラックボックスがないので顧客の信頼は得やすい。


■NDDへのシフト


遅かれ早かれ、米国FX業界のモデルはこの後カバーであるNDDへとシフトしていくことになると私は思う。今回のNFAの判断というか考え方は明らかにその方向へと業界にプレッシャーをかけたのではないか。すでにNDDモデルでやっている業者はほくそ笑んでいるかもしれない。

翻って日本の場合はどうか。現在の金商法の中でのFX業(店頭デリバティブ取引)の建てつけはあくまでも店頭(OTC)であり、その中で市場リスクをとることを前提としたものになっている。自己資本規制のロジックなどは銀行(=OTCの代表!)に課すBIS規制のそれそのものである。規制側からこの流れ(NDDへのシフト)を作るには矛盾がある。むしろレバ規制による淘汰が生き残り組の業者一社あたりの取引高を増加させ、さらに投資家の中のHFTの比率が増加し、それらの圧力に押しだされるように自主的にNDDへと移行してゆくというシナリオが、かなり先かもしれないが、あるかもしれない。しかし今のようなHFTの活動はレバ25倍では期待できないというファクターをどれくらい差し引かねばならないかは現在、明確には言い切れない。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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