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尾関高のFXダイアリー

「スプレッド広告表示の適正性維持に関するガイドライン」私のパブコメ

 私ならどうしたかという提案である。今からでも、自主規制なので、この提案を協会が代替案として、可としてくれればそれはそれで通る話である。法律ではないから。

▼[参考]金先協会:スプレッド広告表示の適正性維持に関するガイドライン(PDF)


■各社で決めること


 広告するスプレッドが適切であるかどうかを判断するため、各社有効なシナリオを設定すること、らしい。各社で決めなさいということ。協会は決めないのである。ここで統一的客観性が失われることになる。規則として決められない、なじまないことも多いのでそれはそれで仕方がない。が個々にもう少し見てみると、やりようはあるようにも見える。


■提示スプレッドの規制の基準


『第3 条2 項関係
広告する(した)スプレッドと提示する(した)スプレッドの合致状況を確認し、判断する基準を具体的に定めることとしています。例えば、スプレッドの広告値を2 銭〜5 銭とする場合には、過去および広告後の提示スプレッドが、
[1] 2 銭〜5 銭の範囲内にある割合
[2] 2 銭〜5 銭の範囲内にあって、その中心値(加重平均値)
[3] 最低値である2 銭以下である割合
について、それぞれ数値基準を設け、広告内容(2 銭〜5 銭と表示すること)の適否を判断します。
なお、[1]については、突発的な事情(リーマンショックのような通常想定しえない事象、あるいは市場の予想を大幅に上回る経済指標の発表など)のない限り、その範囲内にあることを前提とし、[2]については中心値が中央よりも顧客有利な方向にあること、[3]については通常、顧客が期待する程度の割合を満たすこととし、それぞれに自社の判断基準(数値基準)を設定する(文書化する)ことを想定しています。』
(8月25日「スプレッド広告表示の適正性維持に関するガイドライン(案)の要点説明」より抜粋)

全体として、数値の客観性とか妥当性は薄いのだが、誰かかがとりあえず、で決めるものなのでそれはそれでしかたない。しかし、[1][2][3]は総じて細かすぎではないか。私はこう提案したい。そういう小技に走った恣意性の高い数値基準よりも、どっちにしても提示スプレッドのデータをため込んでおかないとこうしたことはどうせできないことなのだから、それができたという前提で、


1.単純平均値:とりあえずの平均値。対表示件数、対取引高ではない。
2.加重平均値:対表示件数、対取引高ではない。
3.標準偏差(1シグマ):「原則0.5銭から1.0銭」とか「原則1銭固定」の代わり。
 中心から68%カバー。
4.標準偏差(2シグマ):極大極小値の代わり。本当にある極大極小値よりは数%ほど
 内側になるかと思う。中心から95%カバー。

■一切除外しない


 これでいいではないか。ちょっと統計をかじった人なら誰でも知っている世界的な普遍性と客観性がある計算式である。業界全部が一様にこれを出してくれれば、投資家は非常に比べやすく誤解が生まれにくい。各社で考えなさいということだから、全社がこういうルールで自主的に統一してくれればいいのではないかと思う。困るのは、データを保存する仕掛けづくりだけになる。20通貨以上のティックデータをため込むのは大変なのである。

この統計学的数値作成に際して問題なのは、イベントによる市場の混乱など、突発的という事態である。これは各社で定義しろということだが、やはりそれでは投資家にはわかりづらいだろう。わかりづらくては意味がない。また業者の言い訳の温床になる。私の答えは、“一切除外しない”、である。業界全体が同じ計算式でやるなら、除外する必要などない。各社各々というくだりから、もう客観性は担保されていない。大きなスリップが一件だけ発生し、それをその日の最大として出すかどうかという逡巡も標準偏差(2Σ)を利用すれば悩まなくて済むし、特殊な例がことさら強調されることもなくなる。

むしろ、偏差の計算に際して、それ(ティックデータ数)が膨大すぎること、さらに市場の動きは24時間サイクルで見て、その流動性が高い時間帯とそうでない時間帯があることの2つの点を考えると、上記1)〜4)の数値を出す場合には、


1.提示されたすべてのデータを対象とすること。突発的な事象だから除外するという例外は
 一切設けない。どうしいてもそれが困難な場合は、「間引く」という行為が始まるが、
 これをされたらもうデータの信用性は“がた落ち”である。それでも現実にムリと
 言われたら、どう間引いているかを明示するしかない。
2.システム障害等によるバッドティックは、それらにからむ約定を無効として調整した
 場合は除いていい。
3.上記1)〜4)までの数値は時間ごとのそれと、一日全体のそれを計算し、開示する
 こと。(これにより、朝方の流動性低下した時間はどうかということが見える)

の3点を考慮し、開示するのがいいのではないだろうか。スプレッドとスリッページは分けて考えるので、つぎはスリップの問題。


■スリップは良くも悪くも開示


 これはスプレッド広告をしなければ対象とはならない話だが、する限りは社内でデータを分析して根拠を作らなければならない。つまり、作ったものは開示したほうがいい。スプレッドは開示するなら、提示するスプレッドどおりに実際約定するかどうかもはっきり開示しないと、まさに「おとり広告」の隠れ蓑になってしまう。そういう理屈で、これも開示しましょうか。という話の流れである。


■以下の通りにスリップを計算して開示する


 提示した価格(スプレッドではない)すなわち客が取引システム上で叩いた(クリックした価格、あるいは(逆)指値)と実際の約定価格の差(ピップス)を計算し、その;


1)単純平均
2)加重平均(件数ベース、取引額は無視する)
3)標準偏差(1シグマ)
4)標準偏差(2シグマ)

を開示する。スプレッドと同じ項目である。システムの対応としては、必ずクリックし発注されたレートと約定したレートが別々にしかし紐付いた状態で記録されていないとこれができない。
これが単純でいいと思うのだがいかがだろうか。検査する側もこれならデータさえもらえれば独自に簡単に計算ができ検証ができる。開示された細かな計算ルールだと業者まかせになるから本当にどうかという検証が可能なのか心配である。これが実現すると、「原則1銭固定」などという広告を出そうが出すまいが、HPでの数値を見ればそれがどれくらいかということがよくわかる。例外を認めなければ、その数値(標準偏差)が意味することに誤解は生まれない。上記のデータ分析の更新は1〜3日遅れでもいっこうに構わないが、日々出し続けることが信頼につながると思う。一貫性と継続性である。これをルールとして出していたら、そんなきちんとしたデータの集積は困難だから勘弁してほしいという苦情は出たかもしれない。

業界のデータの開示はできるかぎり普遍的で、客観的であることが望ましい。それをベースにした広告であれば、その広告が虚偽か、おとりか、不適切かどうかという判断がとても明確になってゆくのではないかと思う。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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