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尾関高のFXダイアリー

ポジスリとネガスリ

 ヒットしたレートよりも不利に約定するのをネガティブスリップ(私は“ネガスリ”と呼ぶ)、有利にスリップするのをポジティブスリップ(同、“ポジスリ”)という(できればこの用語を流行らせたい・・・)。ゲインの事件を受けてか、FXCM USAはいち早く米国で他社に先駆けてこのプロフィットテイキングの機能を稼働させ始めた。本年7月のことである。同じシステムを使うFXCMジャパンでも同様に開始した。これは英語だとPrice Improvement, Positive Slippage, Better Fillとも呼ばれる。みな同じ意味である。


■実際の運用


 今まで順指値はそれで約定するか、しないかだけだった。大方の業者においてネット取引における成行きは実質「IOC(*)の指値」なので、これにもスリップが適用され、たとえば、88.55で売った(クリックした)と思ったら、88.56(1銭ポジスリ)で成立したとか、小数点3桁クォートしている業者でなら、10分の2〜3ぐらいのベタープライスで成立することは普通に期待できる。ちなみに、このずれの原因の90%以上はタイミングのずれからくることは容易に想像がつくと思う。発注のタイミングとプライスを提供する銀行側のプライス変更のタイミングが1000分の1ミリ秒単位でずれればそういうことがおきる。

さて、EE(NDD)モデルだとこれが理論的に簡単に(受動的に)発生させうる。私が勤めるFXCMジャパンでは、全体の取引件数の20%〜25%がポジティブかネガティブにスリップし、その比率(頻度)は若干ポジティブのほうが多い。スリップする幅は、統計的モードでみて大体0.4ピップぐらいである(7月12日から8月30日までのデータ分析による。分散や偏差については、分析継続中)。
* Immediate Or Cancel, 一回トライしてダメならキャンセルする注文


■NFAの意思


 米国NFAはこれをルールとしては採用していないが、2008年ごろからそうであるべきだ、つまりネガティブのスリップを客に押し付けるならポジティブのスリップも客に還元するのが公平というものだろう、という意思を表明している。これと今回のゲインのケースにおいて提訴されている内容の一部とは全く同じではないが方向性は同一である。IEモデルかEEモデルかで、正負どちらにせよどれくらいスリップしているからどれくらい客につけるかというロジックははなはだ違うものになるし、IEの場合はそのロジック構築が(その合理性において)面倒である。その辺をわかってなのか、NFAは規則としてそれをまだ採用する動きはない。


■日本ではまだマイナー


 日本でもいくつかの業者はすでに導入しているが、指値と成行きでは別になっている場合もある。日本の場合、そもそもストップにスリップを発生させないサービスが大手で行われている現状があるため、またほとんどがIEモデルであるため、こうした動きが生まれる地合いが薄い。ストップでスリップさせていなければリミットでベターフィルする必要もないだろうといえばそうである(ネガスリもなければポジスリもない)。ここはあくまでもEEモデルでやっているところでないと余分に儲けているいないの判断はできない。IEでやっている場合は、ヘッジで損したり得したりを繰りかえしているし、そもそも個々の注文に対してどうかという検証すら不能なので、こうした議論はあくまでもEEモデルを採用している業者にしか使えない。


■余談


 余談好きで申し訳ない。現在の本業界の議論として「透明性」とは、突き詰めて言うと「インターバンクの動きと同じであるべし」、「インターバンク市場のべストなスプレッドとプライス水準に同期した価格提供(手数料分のマークアップを考慮して)をすべし」ということに等しい。インターバンク自体の透明性という視点はあからさまに議論の対象外にされている。ならばインターバンクそのものは実際どうなのだろう。

インターバンクでは常に、関連市場情報の公平さが守られ、最良なアービトラージが行われているという前提がある場合にのみ、「インターバンク市場は公平で公正で透明だからそこから逸脱しないプライシングをする業者も透明で公正だ」と言えるのだろうが、一体誰がその大元を監視し、保証してくれているのというのだろうか。結局、はじまりはインターバンクである。だから何がどうであろうともインターバンク市場の動きは公正で公平で透明である、という大前提から始まるしかない、という前提で皆動いているのである。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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