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尾関高のFXダイアリー

IEとEE :寡占化とEE化

 IEとEEにまつわる話の4回目である。レバ規制後にはかなりEEが増えてくるというのが私のシナリオなのである。一時期規制環境が欧州型になるかとおもったが、今は米国型の規制の流れになりつつあると思っている。そうなると、このIEからEEへの流れが現実味を帯びてくるし、すでにその兆候は始まっている。


■EEの決定的な違い


 IEとEEでもうひとつ決定的に違うのは、そこに流動性が紐づくかどうかという点である。IEの場合で 90.50−52というレートを出していると、同時に数十人の顧客が90.50で売ろうとして合計5百万ドルだったとした場合、個々のトレーダーの発注最高額が1Mまでとかに制限されていても、合計はそれ以上になる。これを業者は全部受けてしまえば、その瞬間から業者は90.50よりも上で5Mを売りさばかなくてはならなくなる。その瞬間5Mとか10Mを1Mレベルでの50ビッドで受ける銀行はいないというのが大体のパターンである。ドル円等はまだましだがポンド円や他のマイナーになるとそういうことは当たり前である。ましてや閑散とした時間帯はさらにひどい。そんな作業を数千人が同時にログインしてきている状態でこなすのは不可能なので、結果全体のネットしたポジションの動きを見ながらタイミングをずらしてリスクテイクすることにならざるを得ない。もしくは人間の代わりにアルゴリズムを入れて一定のヘッジ自動化を測る。かといって、結論から言うが、絶対儲かるアルゴリズムはない。大きく儲けるときもあるだろうがその分リスクもでかくとることになる。常に表裏一体の事象である。これは業者にとっては冷や冷やする話だが、業者がつぶれても信託があるから安心と考える顧客にとっては都合のいいサービスである。

IEのプライスにはデプス(板)がない。単一のレートのみで、あとはそのレートでどこまで受けるかというリスクアペタイトの問題、プラス実際にこれ以上は無理というときに機動的に約定を止めたりプライスをずらしたりする(*)機能がどれくらい搭載されているかで決まってくる。一方EEの場合は常にデプスが伴う。必ず売値買値の気配値の横にはいくらまでという取引可能額が表示されている。これは株などの取引所取引と全く同じである。


※勘違いする人が多いポイントだが、この場合のずらしは悪いずらしではない。むしろ当然のずらしである。だから相場が動くのである。インターバンクでも一行だけが突然他行と違うレートを出し始めることがあるが、それはその銀行だけが大量の売りや買いを浴びせられ始めた瞬間を見ている場合が多く、そしてそれは瞬く間に他行に波及してゆく。

■仕組みの比較


 ここからシステム目線になる。IEはカバー先の条件をまったく考慮しないので約定のロジック開発や運用が自己完結し、楽である。したがってシステム運用上も安定感が出しやすい。一方EEではつねに一件ごとの約定にカバー先とのメッセージのやり取りが入るので複雑化する。よって安定感を出すのが難しい。また、IEはマリーすることができるのでデータ処理上の負荷を減らせるが、EEは一件毎、グロスで対応していかなくてはならないので一気に処理上の負荷が高まる。システム開発、リソース、メンテナンスコストはEEのほうがはるかにかかるし、API(メッセージの受け渡しをするための接続仕様)もしょっちゅう変わったりして、ITスタッフも面倒を見るのが大変である。そのためそうした銀行とのインターフェースとしてインテグラルやカリネックスが採用される。かれらは長年の経験をつんでいるので対応に安心感がある。わずらわしい個々の銀行との接続仕様変更とかに付き合わなくていい。コストが見合えば、楽になれるモデルである。


■史観的変化


 かつて、1998年にこのビジネスを立ち上げたとき、私は店頭であることでこのビジネスを銀行の為替業務の延長線上で見ていた気がする。そのため、IEとしての機能を保持し、それを磨いていくことになんら疑問もなかったし、そこにこそビジネスチャンスがあると信じていたのだが、いまやFXは株に次ぐ投資ツールとなり、リテール化され、そのステータスはコンビニに陳列される商品並みとも思えるほど大衆化し、感覚的にはプロ相手に押し込める常識や理屈などおよそ“通用しない”代物になったと思わざるをえない。

つまり、今までの正論が正論で通らないのである。店頭だからいいじゃないか、為替業務としては銀行がやっていることと同じだからいいじゃないか、という理屈より、リテール商品を扱う、コンビニで売っているお菓子を作っている業者と同じ目線の常識に立って、市場リスクを完全に排除し、取次ぎ(EE)モデル化してゆくことは、広く一般消費者、個人投資家を相手に組織が巨大化する過程においては必要不可欠な進化ではないかと考えるようになっている。市場リスクは、それ相応の自己資本をもち、資本(BIS)規制を受け、適宜厳しい検査をうけ、それ相応の内部管理体制をとっている、格付けがBBBとかA以上の金融機関に任せるほうが社会の構造としてよりよいと感じるのである。

個人的な価値観だが、この変化により、ビジネスモデルを創造する素材、機械としての面白さを追求するオブジェとしてはその価値を失いつつある。むしろこれからは前述の通り、マーケティング、M&Aがドライブする業界になる。自動車にたとえれば、いかに自動車の機能性能の開発をするかよりも、いかにかっこよく目立つように会社をアピールするか、車を売るか、そして競合他社で弱いところを買収するか、あるいは異業種とコラボしてシナジーを追求するか、という戦略が主流となりつつあるように見える。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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