外国為替取引ニュースサイト

  1. トップページ
  2. >コラム・レポート
  3. >尾関高のFXダイアリー
  4. >IEとEE :IEモデルからEEモデルへの流れ

コラム & レポート

バックナンバー

尾関高のFXダイアリー

IEとEE :IEモデルからEEモデルへの流れ

 最近日本でもEEモデルを採用する業者が増えてきたと前回(ゲインの話の前)の終わりで触れた。今回はその話である。以前にもここで触れたことがあるが、約定の概念の切り分けとしてIEとEEがある。分類の重点を“どこで約定を決定するのか、内部(自社内)か、外部(カバー先)か”に置いた概念に基づいた呼称である。


■改めてIEとEE


 EEとはExternal Executionの略で、訳すと外部約定、反対の言葉がIE(Internal Execution)で内部約定という意味である。通常、DI業者とかリクォート業者と呼ばれるのがIEで、カバー先とどういうヘッジ取引をするかとは関係なく顧客の約定を自分自身で判断する。それがディーラーの恣意的な判断であろうと、システムが自動でやろうと、その判断の最終主体が業者自身であれば、IEとなる。そのため、スプレッドは自由に変えられ(固定にもできる)、ストップにスリップなしとか、100%一発約定保証的なサービスが可能となる。

一方、EEの場合は、来た注文は全部カバー先へと投げられ、カバー先が約定を返したときのみ、それに紐づいた顧客の注文を約定させるというものである。つまり約定に関しては証券等の取引所取引への「取次ぎ」そっくりとなる。ここがIEとEEとの比較において決定的な違いをあらゆる側面に与える。

EEでは、スプレッドは常にカバー先のプライスに手数料分のマークアップを乗せただけなので、変動するし、スプレッド幅の動きもきれいにインターバンクのそれをなぞる。また、したがって固定スプレッドは出来ないし、売りと買いをマリーすることもできない。IEはディーリング収益を追求できるが、EEではほぼ完全に取次ぎモデルとなる。

例外は取引所取引で、ここはインターバンクのカバー先から例外的に約定を保証するレートをもらっている(らしい)ので、約定機能はIEなのだが、それ以外はEEと同じ取次ぎモデルで動く。


■アグリゲータ


 EEモデルのエンジン部分として機能するのが、インテグラルやカリネックスというリクイディティアグリゲーターの金融システム会社である。これらのエンジンを搭載してシステムを構築するか、あるいは自前で作るか、もともとEEでやっている業者のホワイトラベルをするかである。両者は業界に長く、枯れているが、最近の問題としては、一件単位の注文額が小額になり、サーバーの負荷が大きくなるとともに、平常時と異常時の負荷の乖離が激しくなることがその運用を困難にしている。特に銀行側はCLSとの絡みもあり、ネッティング(アグリゲーション)機能の進化と同期しながらのさらなる機能向上が求められている。この点、個人的には大変興味深く追いかけているテーマでもあるが、あまりに裏方事情になるので、ここでは割愛する。


■経営の安定性の追及、必然の流れ


 さて、スプレッド競争が厳しくなると、収益率が当然下がる。そうなるとパイを大きくするか、ディーリング収益率を上げるかのどちらかになる。パイを大きくするのは主にマーケティング的なアプローチかM&Aであるが、同じフローからより多くの収益があがるようにするには、ディーリングのリスクテイクを大きくするしかない。そしてこれは、金融庁も先般わざわざ指摘するように、時に大きな損失を招くことがある。この業界にも経営は常に安定的な収益を求めるという命題が通用するとすればこれはあまり望ましくない。ましてや、スプレッドが1.0を切るようになると、人間によるこまめなディーリングではあまり儲からないはずである(そもそもこまめなカバーは不可能)。昔は指値も多く、そこからの収益は取りやすかっただろうが最近は成行きの注文が大半(8割以上?)だろうから、ディーラーが落ち着いて利益が出るようなカバーをとる余裕などない。結果、ドンと受け止めてまとめてヘッジということになるので日々のディーリング損益は大きく振幅することになる。これを見て経営者が“いやだな”という気持ちになると、次に注目するのがEEモデルの良さ、となるのである。


■EEモデルの長所


 EEモデルは原則手数料ビジネスと同じ結果をもたらし、業者内部に市場リスクを発生させないように仕上げてある。ただし、収益率はきれいに取引高に相関する。利益を上げたければより多くの取引が生まれるよう、せっせと顧客を増やすしかない。単位あたりの収益率はいまや極限まで下がっている。EEモデル主導の米国では買収が多いのもそれが一因であると思う。多くの顧客を抱え、利益が十分乗るだけの取引が生まれる業者であればEEモデルのほうが業者も規制当局も「安心して寝られる」経営モデルである。だから最近スプレッド競争に疲れてくるとEEモデルが注目を集めることになる。


■EEモデルの短所


 一方、いったんIE業者の「ヒステリックな競争」による“あま〜い”サービスに馴らされたユーザー側にとって、EEモデルによるサービスに不満が出ることは否めない。たとえば、固定スプレッドではない、スリップ発生が多い、約定拒否がある、などである。これらはどれもインターバンクでは当たり前なことで、いわば卸売業界の常識がEEモデルによってダイレクトにリテール市場に流れ込んできただけのことである。しかし、EE業者側もそんな言い訳を言ってばかりもいられないので、そうした比較劣位をカバーするためにいろいろな発注タイプや機能を開発しており、それなりに捨てたものではないというのが私の印象でもある。成行きのスリッページにこだわる気持ちは十分理解できるが、いまや十分の一クォートがはやりだしている状況で、成行きが0.3とか0.5ピップほどスリップするのは誤差の範囲だと許容し、最終的な勝ち負けはそれ以上に、建てたポジションが利益を出すかどうかという点を重視するという考え方がどこまで投資家に浸透するかがEEモデルの生き残りの鍵でもある。


■EEにまつわる今後の展開


私の描くシナリオはこうである。「風が吹くと桶屋がもうかる」ほどの遠さはないと思うが、


⇒スプレッド競争が限界に行きつく。
 ⇒規模の大きいIEモデル業者ほどリスクテイクに危険を感じるようになる。
  そして、競争に太刀打ちできない中小業者は苦しくなる。
   ⇒規制当局もEEモデルを薦める(現時点ではそこまでの意識には至ら
    ないかもしれないが、米国では既に一つの規制上のスタンダードである)
     ⇒EEを導入する!(すでに一部の大手は実行している)
      ⇒経営は安定するが収益率は下がる(それでいい!)。
       ⇒しかしもっと成長したいのでより多くの顧客数が欲しくなる。
        ⇒マーケティングにもっと力をいれたり、資金力のある業者は
         他社を買収したりして取引高を増やそうとする。
          ⇒FX専業の寡占化が進む。一方既存証券会社のFX部門は
           FXが本業本流とは思っていないのでM&A的には大して動かない。

■ユーザー側にとってのIEとEEの意義


 ユーザー側にとってどうかと言えば、要はIEモデル、EEモデルの癖を見抜くことである。あとはユーザーの選択、嗜好のみがそれらのモデルに存在意義を与えることになる。つまり、投資成績をダイレクトに左右する問題ではなく、取引環境の快適さ(フラストレーション)に影響を与える問題ということである。

このモデルの変化は、主に業者側の内部の経営上の問題と規制上の方向性に起因する「モデルの発展型」として捕らえるべきものであり、これと透明性との関連性というのは当初その意義は大きかったが、今はあまりない。特に、IEモデルの大手のほとんどがインターバンク(EBS等)の水準とほぼ同じレートを出し、それをユーザー側が簡単に客観的に第三者サイト等で確認することができ、さらに、それら業者がストップ狩りをせず、レートを顧客ごとにずらしたりしないという前提があれば、透明性の意義(アリバイ)をEEモデルに求める議論は不毛となる。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

ニュースクラウド