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尾関高のFXダイアリー

ゲインのケースがもたらすもの

ゲインのケースの詳細


 前回の話の延長で、前回は内容をはしょった感じがしたので今回はその補足である。NFAのcomplaint(PDF)を直接読まれた方はここで触れる話は不要である。前回ちょっと遠慮してG社としたが今回からは実名で通す。

ことはアメリカで起きていることであり、またそれはアメリカ当局の考え方であるからそれは日本の当局とは違う。その点を断った上での話しである。

前回はユーロマネー(FIX)の記事に沿って3つしか挙げなかったが、細かく正確に言うと、NFAはゲインに対して5つの協会規則違反を挙げている。以下その私なりの“超訳”である。


1)顧客に週末の証拠金の変更(引き上げ)通知をしないか、あるいはそれに対応する時間的余裕を与えない状態でしか通知しておらず、結果顧客のポジションが証拠金引き上げのタイミングでロスカットされてしまい、その多くの場合が顧客の取引損となっていること。


つまり、NFAは協会員に対して、証拠金の変更(引き上げ)は顧客に事前に通知し、その変更に顧客が対応する時間を十分与えることを要求しており、証拠金の変更は顧客が追加証拠金を入れるか、自らの判断でポジションの全部もしくは一部を決済する時間的余裕を与えなくてはならないということになる。


2)ヘッジのロジック、サービスにおいて、業者側が不利になるときはそのスリップを顧客につけ、逆に業者に有利になるときはその利益を業者内にとどめ、顧客には還元しないという運用をしていたことと、それら約定のログ記録を適切に保管していなかったこと。

これは米国の場合規制の前提が業者の多くは基本EEモデルある等の特殊事情やシステム上の機能・設定の存在理由等を十分把握した上で事象をとらえないと誤解をする。ただ、見た目EEっぽくても、実際にはそうでないことも多く、ゲインのそれはあきらかにIEモデルである。1秒ずらすというアルゴリズムが介入しているからである。ヘッジのタイミングをちょっとだけ(1秒)ずらしてマーケットのズレをトライするという、“ちょっとした”調整が入っていることが大きなポイントで、そういう業者の都合で“色気”を出してリスクテイクをするがゆえに、本来ならそのまま約定したかもしれない成行きがシステムによって拒否されたり、スリップしたりし、その色気によって生まれた損失のツケを顧客に転嫁する、という点が“不公正”であるということである、と私は理解している(細かいことを言い出すと切りがない)。

また、意図的かつ大量に同社UK法人に顧客を誘導している点も批判的に触れているが、文面を慎重に読むと、口座を移したことそのことではなく、ゲインはNFAの出したレバ規制や両建て禁止ルールを遵守できないMT4を利用した取引口座は止めると報告してきたのに、実態はUKの口座に移していたから、これに対してNFAが“騙された”と取ったのかもしれない。そのようにも読めるがいまひとつはっきりしないので、もう少し調べてみることにする。私も、口座の海外誘導は、批判されることはあっても、それそのものについては違法とか協会規約違反とまでは言い切れないと思っている。

NFAは以上の行為において、そのコンプライアンスルール、2−36(b)(1)と(4)、2−36(c)、2−36(e)(※)違反であると言い切って提訴(Complaint)している。


※ RULE 2-36. REQUIREMENTS FOR FOREX TRANSACTIONS
(b) Fraud and Related Matters
No Forex Dealer Member or Associate of a Forex Dealer Member engaging in any forex transaction shall:
(1) Cheat, defraud or deceive, or attempt to cheat, defraud or deceive any other person;
(4) Engage in manipulative acts or practices regarding the price of any foreign currency or a forex transaction;
(c) Just and Equitable Principles of Trade
Forex Dealer Members and their Associates shall observe high standards of commercial honor and just and equitable principles of trade in the conduct of their forex business.
(e) Supervision
Each Forex Dealer Member shall diligently supervise its employees and agents in the conduct of their forex activities for or on behalf of the Forex Dealer Member. Each Associate of a Forex Dealer Member who has supervisory duties shall diligently exercise such duties in the conduct of that Associate's forex activities for or on behalf of the Forex Dealer Member.

3)ゲインは、米国にてゲインへ顧客を紹介する法人(Solicitors:仲介業者)と契約をしているが、そのうち215社がCFTCの登録を受けていない業者であった。2−36(e)違反

法令順守管理責任の不履行ということである。日本でもどこまでがブローカーや代理業かという線引きが難しいかもしれない。ネット上のバナー広告を出すだけなら白だが、そこで多少なりともアドバイスや口座開設の手助けをするとかなり代理行になってくるし、売買の助言などがにおうと、投資顧問業になってきて相当グレイとなる。白と言い切れなければ登録をしておくべきだし、そういう業者(媒体)を利用する業者にも注意が必要となる。


4)NFAの監査において要求される調査に対し適切に対応しなかった。提出書類の不備、遅延、未提出。2−5(※※)違反

これをやってしまうと、もう何もいえなくなる。遅延も数日のレベルではなく数ヶ月のレベルになると言い訳も情けもきかない。


※※ RULE 2-5. COOPERATION IN NFA INVESTIGATIONS AND PROCEEDINGS.
[Effective date of amendments: July 24, 2000.]
Each Member and Associate shall cooperate promptly and fully with NFA in any NFA investigation, inquiry, audit, examination or proceeding regarding compliance with NFA requirements or any NFA disciplinary or arbitration proceeding. Each Member and Associate shall comply with any order issued by the Executive Committee, the Membership Committee, the Business Conduct Committee, the Appeals Committee or any NFA hearing or arbitration panel.

5)社内業務の管理監督不行き届き
2−36(e)違反


プロフィットテイキングオーダーの普及


 スプレッド競争が激しくなると、単純なEEモデルでは利益率が落ちてゆくので何かしたくなる。また、取引単位が小さくなって、取引件数がやたらと増えると銀行側からも「束ねてくれないか」という要望がくることがある。さらに束ねることで収益率を上げられるという自信が業者側、とくに経営者がインターバンク出身だと持ちやすい。そういう背景から、自然と、時間的ズレを与えて、ほんのすこしずらして束ねようとか、わずかながらでも有利なヘッジをしようという意志が働きやすい。このとき業者に有利に働くのが、リミットオーダー(成行きリミット含む)はその値段でさえ約定すれば文句は言えない、というルールである。そのかわりストップのスリップではある程度自腹をきる業者も多い。

透明性、公平性という曖昧な大儀のもと、いまここにメスが入ろうとしている。あえて私は「曖昧な」と言わせていただくが、ストップオーダーでロスが出た分は客に転嫁するのなら、逆に、リミットで入れたオーダーもカバーでそれ以上に有利にヘッジできたらその分の利益の分け前を顧客にも渡すべきであるという考え方が育ちつつある。とくにNFAはそういうスタンスであるように見える。こうなるとリミット注文はすべて、リミット注文ではなく、プロフィットテイキング注文という扱いにしなさいとなる。

EEモデルの場合は1対1で銀行とのヘッジがされる限りこのロジックを入れる根拠が客観的に明確になる。証拠を出せといわれれば出せる環境にあるし、見方を逆にすれば、証拠が出てしまう。本来、そこで得られる利益はスプレッドをより狭くするとか、約定率100%とかの他の面でのサービス向上の原資として利用される限り、あまり目くじらをたてるものでもないと思うのだが、少なくとも米国において議論の大勢はそうは流れていない気がする。EEモデルがメジャーになっている分日本とは議論の重心が違う。

IEモデルの場合も自社で管理する基準となるレートの注文到着のタイミングのレートと注文値段を比較してベターならその分を客に還元するというモデルを作ることは可能だが、問題はそこで計算されるベタープライスどおりにその業者がヘッジできるかということである。IE業者にとってはリスク管理がより困難になる。システム開発もエンジンの心臓部だけに慎重になる。一方EE業者にとっては内部で蓄積できる利益がその分減るので、収益率が下がるということになる。リスク管理上は何も変わらず、ゼロのままである。そうなるとスプレッドに影響がでるかもしれない。

今回のゲインの問題で、少なくとも米国ではリミットオーダーが実質プロフィットテイキングオーダーに急激に変わっていくことはほぼ間違いないと思われる。


 日本はまだこの辺の問題に焦点が当たるビジネスモデルとしてのIEとEEの概念の区別や、それに沿った規制の区別(規制当局の差異認識感応度とでも呼ぼうか)といったものがされていない、もしくは未成熟だし、業界や市場においても既知の概念として定着していないので単純に当てはめることはできないだろう。ただし、システムを経由してその影響がじわじわと出てくることは間違いないし、マーケッティング的にも、スプレッド競争、そして次が約定率競争、そしてさらに次がリミットのプロフィットテイキング化となっていく。つまり業者から利益がどんどん顧客へとはがされていくということである。過激なディスカウント競争の果てに何が起きるか。このシナリオはFX業界だから特別ではないと思う。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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