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尾関高のFXダイアリー

IEとEE :「FX業者に対する一斉調査の結果について」を読んで

 メインタイトルを「IEとEE」と題し、ここから4回に渡って約定、ディーリングにかかわる問題について愚見を申し述べたいと思う。

だいぶ前の話だが、金融庁が表題の調査結果を公表し、その中で(1)顧客及びカバー取引先との取引の状況、(2)ロスカット取引の状況、(3)相場急変時のリスク管理の状況、(4)自己勘定取引におけるリスク管理の状況等、について調査を行った結果を開示している。今回はこれについてである。

▼外国為替証拠金取引業者に対する一斉調査の結果について=金融庁


2. 調査結果の概要
(1) 顧客及びカバー取引先との取引の状況
○カバー取引に係る業者のリスク管理について
「顧客と取引を行った業者は、顧客との取引により発生し得る損失を減少させるために、銀行等(カバー取引先)を相手方としてカバー取引を行います。」

 金融庁はいつもこの「顧客との取引により発生し得る損失を減少させるために」という表現を使う。そういう回りくどい表現に固執する意図は私にはよくわからないが、意味としては、顧客との取引によって生まれた自己のポジションから利益を実現するため、損切るため、また自己の市場リスクを減少させるために、ということである。広く一言で言うと、「市場リスクをコントロールするため」である。インターバンクがやっていることと何も変わらないし、築地の魚市場でも同じことである。買いっぱなしでは腐ってしまうから早く売らないといけないし、自分で食うわけじゃないので買いすぎたら早く売り裁かなくてはいけない。


「一般的に、カバー取引を行わない場合やカバー率が低い場合、相場の急変などのリスクを業者が負うことになり、結果的に業者に損失が発生することがあります。」

 カバーをしない業者がまだいるのか、という邪推をさせる表現であるが、そうなのだろうか。データを見るとフルカバーが約7割で、カバー率半分以下が2割であるが、顧客の取引がぶつかってマリーしている分をカウントするか(ネットの考えかた)しないか(グロスの考え方)で回答の数値は違う。その点明記されていないのでわからない。

 例をだす。客が100買い、120売ったとする。業者は今、ネットで20の買い持ちである。このうち10だけをカバーして、現在10買い持ちである場合、ネットに対してのカバー率は50%となり、グロスに対しては 10÷(100+120)=4.5%となる。どっちの計算基準で業者は回答しているのか、この公表からはわからない。個人的には、定期的に(数十秒毎とか1分毎)溜め込んだ自己のネットポジションをどうヘッジするかがリスク管理なのでネットベースで見れば十分だと思う。一方、DMAのモデルで売りだろうが買いだろうが、来たら100%カバーに投げるというケースではグロスしかないのだが、これは頻度がリアルタイムなので差し引きネットで見ることができないからそうなる。

人間でもシステムでも1分毎とか10分毎とかに溜め込んでネットポジション分を自動で100%ヘッジするというなら100%と考えていいと思う人もいるだろう(まさか売りと買いを別々に溜め込んでカバーに行く業者がいるとは思えない)。だから、「カバー100%です」という答えには、時間の区切りの条件もつけた回答でないとどれくらいのリスクを内包している“100%カバー”なのかはわからない。


「顧客と取引を行った業者が、カバー取引を行う方法としては、個別取引ごとに即座に行うもの、一定時間又は一定金額が集まるまでの間業者がポジションを保有し顧客との取引から時間をおいて行うもの、業者の判断に基づいて行うものがあります。」

「一般的に、顧客との取引とカバー取引とに時間差が生じたり、カバー取引を業者が自ら判断して行ったりすると、相場の急変などのリスクを業者が負うことになり、結果的に業者に損失が発生することがあります。」

 「個別取引ごと」(すなわちグロスヘッジ)が71%もあるのは驚きである。99社x71%=70社である。そして「自動的に執行」が80%なので、70社のうちの大多数がリアルタイムでのグロスヘッジを行っている計算になる。おかしいと思うのは、リアルタイムなら必ずグロス(個別取引毎)になるはずなのに、それが80%対70%になっている。リアルタイムヘッジですと答えた業者の10%(約10社)は自動ヘッジではないと答えている。一体どうやってヘッジしているのだろう。また日本は大体がDI業者ばかりだと思っていたのだが、いつの間にかひっくり返っているらしい。この統計値がいまひとつ信用できない根拠として指摘しておきたい。要するに質問に使う言葉の定義が違う意味で受け取られやすいということだと思う。

一方、リアルタイムではない業者が30%、つまり約30社と少数派だが、この中には業界の大手が入っていると考えられるので、実際の取引高ベースで考えると決してマイノリティーではない可能性が高いと思っておくべきである。


「顧客から受けた注文・ロスカット注文の執行に係るカバー取引の発注のタイミングとしては、業者の判断によらず自動的に行うものと、業者が相場の気配等から独自に判断して行うものがあります。」

「一般的に、カバー取引を業者自らが判断する場合には、判断の誤りや相場の急変などにより、結果的に業者に損失が発生することがあります。」

 頻度はべつとして自動カバーしているのが80%というのはかなり意外な数字である。いわゆるディーラーインターベンションでやる業者が2割になったというのは思った以上に変化が早い。ただ、自動とはいっても反対の選択肢が「業者の判断」となっているので、「自動」の意味が、なにもいじらずにストレートにカバーなのか、いろいろなアルゴリズムを入れて自動なのか、その辺も回答者の基準がぶれないようなアンケートになっていたかどうかがわからない。当然アルゴリズムを介在させれば「自動」だが「業者の判断」があるということになる。“自動ヘッジ”アルゴリズムのパラメータをいじるのは“業者の判断”だからである。自動か手動か、業者判断があるかないかはそれぞれ別の次元の条件であり、「自動でありかつ業者判断がある」という組み合わせも十分ある。


「なお、業者とカバー取引先との間でシステムトラブルが発生して、カバー取引が行えない場合には、その間の相場変動のリスクを業者が負うことになり、結果的に業者に損失が発生することがあります。」

 業者が損してつぶれても信託保全があるから投資家は保護される建前があるのだが、それが100%うまく働く保証がないから、こういう警告が自然と出てくるのである。仮に100%もどっても、そのドタバタに巻き込まれて受ける精神的苦痛はいやなものである。出来る限りつぶれなさそうな業者を選びたいというのは誰でも思うことだが、このリスクは開示される顧客数や取引高や収益とは直接的な逆相関はない。つまり儲かっているから、業界ナンバーワンの取引高だからつぶれにくいという考えは成り立たない。リーマンという名前を思い出せばぴんと来ると思う。


(2) ロスカット取引の状況
「ロスカット注文とは、損失額を一定の額に収めるために、顧客との間であらかじめ交わした契約に基づいて執行される売買注文をいいます。外国為替証拠金取引業者に対しては、ロスカット・ルールの整備・遵守が義務付けられています。」

屁理屈で恐縮だが、「ロスカット注文」は顧客が任意に出す損切りの注文(それがリミットでもストップでも)を指すのがそもそもの意味であり一部ではいまだにそういう意味で使われるので気をつけてほしい。口座の証拠金が不足して強制的にロスカットを発動するサービスは本来「ロスカット注文」とは呼ばず「マージンカット」(=証拠金不測によるポジションカット)と呼ぶのだが、だんだん言葉の使い方、定義が規制当局主導で変化しつつある。


「一般的に、監視間隔が長い業者の場合、相場の急変時などにロスカット注文の執行のタイミングが遅れ、顧客に不測の被害が生じたり、業者の財務状況を悪化させるおそれがあります。顧客の側においても、契約内容を確認してロスカットに関するルールを十分理解した上で、取引を行うことが重要です。(合計が100%を超えているのは、複数の監視間隔を併用している業者があるためです。)」

つまり投資家としてはその業者のMC監視間隔がどれくらいかを口座を開くときに聞いておくべきであるということであり、業者側から言えばこれはリアルタイムであればそれを宣伝していいサービステーマである。

「リアルタイム」54%だが、その横に「1分以内」がある。では1秒毎は、どっちで回答しているのだろうか。リアルタイムは厳密には、レートの変更があるたびに行うものなので時間の概念の仕切りはない。リアルでもレート変更が5分間なければ、その間再計算もされないかもしれない。1秒毎ならほぼリアルタイムだから回答にリアルタイムを選んだとするならそれは理論的には間違いである。

では、現実的にはリアルタイムと1秒毎とどっちがいいかと聞かれれば、それ掛けるサーバーのパフォーマンスなのでなんともいえないと答えざるを得ない。以上は技術的な話として、である。


(3) 為替相場が急激に変動した場合のリスク管理の状況
「為替相場が急激に変動した場合の対応として、カバー取引先との取引ができない場合には顧客からの受注をストップする、あるいは、業者において自己勘定取引を停止するなどの対応を行っています。」
「一方で、カバー取引先との取引ができない場合、相場の急変などのリスクを業者が負うことがあり、結果的に業者に損失が発生することがあります。(合計が100%を超えているのは、複数の対応を併用している業者があるためです。)」

 上段でフルカバーが70%だったのに、受注を停止するという業者が56%というのはどういうことだろうか。これも矛盾している(二つ目)。フルカバーしている業者は、インターバンクとの取引が不能になったら客との取引を停止せざるをえないのだから論理的にはこの数字は一緒かそれ以上になってもおかしくないのだが。70%−56%=14%はフルカバーできなくても受注を停止しないということになる。それではフルカバーではない。つまり自己のリスクテイクで銀行同様のマーケットメイカーとして自らプライス(流動性)を提供するということになる。

実際、インターバンクとの取引が全面停止したという経験は過去11年間あまりでNYテロのときだけである。ヘッジ先を一つしか持たないと危険度は相当高いが、国際的に名の通ったおなじみの銀行を5つ以上持っているならばあまり心配はしない(PBの問題は別)。銀行並みのリスク管理と財務体質があって自分でマーケットメイクをしてやるという業者ならそういう状態でもプライスをワイドにしてレート提供可能なのだろうが、いまは提示レートの大元が止まれば、システムでつながっていると水道の蛇口を止められたことになり、提示をワイドにするもなにもあったものではないので、マーケット全体が停止したら止めるしかないはずである。


(4) 自己勘定取引におけるリスク管理の状況
「自己勘定取引(業者が自らのリスクで行う取引)を行っている業者と、自己勘定取引は行わずカバー取引のみを行う業者があります。」

「一般的に、自己勘定取引を行っている場合には、相場の急変や取引の失敗などのリスクを業者が負うことになり、結果的に業者に損失が発生することがあります。」

 自己勘定取引をしている、と素直に回答する業者はたぶん実際自己勘定取引口座を経理的に見ても登録して別口座管理でやっている業者だろう。しかし実際には、顧客のカバーをするときに発注額を意図的に減らしたり、増やしたりすればそれは自己勘定取引と同じ効果を生むし、前述の「アルゴリズム」を取り入れてヘッジするならそれも自己勘定取引と同じ要素を持つことになるので、こうしたやりかたも対象に含むとなると、16%ではすまないだろう。業者内部の市場リスクの観点からすれば、自己勘定をもっているかどうかは問題ではなく(単なる形式にすぎない)、リアルタイムのフルカバーからどれくらい乖離したポジションコントロールをしているかが透けて見えないとせっかくそのリスクに警鐘を鳴らしてもらっても顧客側にはそれを知るすべがない。

念のため擁護するが、自己勘定取引をするからといって危ないとか悪いということにはならない。むしろそうしたファシリティを健全にきっちり運用できているならその業者の管理レベルは高いとすらいえる。逆に自己勘定をやっていなくても、うまいマーケティング効果等により客が急増して取引が膨大になっているのに、経験の浅い人間のディーラーが手作業で、粗末な反応の遅いディーリングモニターを見ながらやっているほうがよっぽどリスクは高い場合もあるだろう。


せっかくの警鐘ではあるが
近年結果的に投資家が一番こたえるリスクは、第一に「市場リスク」である。これは業者とは関係ない。これがあるから利益も出せるのでこれに関して文句はいえない。そして次が、取引システムが障害等を起こす「システムリスク」である。そして最悪なのはこれらが連続的同時に併発することである。信託保全が義務化された今、それが100%機能するという前提がある限り、最近の投資家の関心は、信用リスクよりもむしろシステムリスクのほうにあるのではないだろうか。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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