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尾関高のFXダイアリー

ヒステリックな競争

 日々それぞれのFX業者がいろいろなメディアで展開する顧客獲得のための戦略を見ているとそこに色濃い日本文化を感ぜずにはいられない。ユーモラスなテレビコマーシャル、車から電化製品という豪華景品から、一見ミスマッチとも思えるが、ここまでしつこくやられるとさすがに慣れて、ほほえましささえ感じてくる食料品の景品(これは主婦層を狙ったものか、だとすればあまりに短絡的、されど効果的)、簡単にもらえるクオカードなどの金券、無料で行われる著名エコノミスト等のセミナーなどなど枚挙に暇はない。

アメリカでも著名人のセミナーはあるが有料であることが多い。テレビコマーシャルはまずない。ロイターやブルームバーグといった特殊なチャンネルではあるが、民放で見たことはない。豪華景品などまったく見たことはないが、“今口座を開くと換金できないけれど証拠金として使えるクレジットを口座に付与します”というプロモーションは見たことがある。セミナーやコンベンションに行くと、いろいろとグッズがもらえたりするが大体その会社のロゴが入っているので、なんとかFXというロゴ入りのTシャツや帽子をもらってもあまりうれしくはない。結局家でたんすの肥やしかゴミになるのが落ちである。
 
欧米から見ると、金融のイメージを根底から覆すようなイメージキャラクターを採用し、異常なまでに狭いスプレッドを提供し、キャンペーンでいろんな景品を出し、アフィリエイトには高額の報酬を払い、なおかつ100社近い業者が存在しうる業界というのは相当異質に見える。さらにその乱立ぶりがいまだに継続しているのは驚嘆に値する。


「みんなそれで儲かっているのか」、と聞かれると、根拠薄く「そこまで私は知らないけれど、結構苦しいところが多いことは事実だと思う」、と答えている。「日本では買収、吸収合併はあまり進んでいないがなぜだ」、という質問には、「そういう文化だから」、と答えている。これもいい加減な答えであるが、「企業マインドが違うんだ」と。さらに誤解がないように付け加えることは、欧米はルール上、証券会社が先物を売れないので、彼らが入ることはできず、自然FX業者は独立系のみとなる一方、日本は縦割りなので証券会社がFXを売れる。そのため、既存の証券がこぞってプロダクトラインの品揃えの一環として参入するからあっという間にカウント100社とかになるが、独立系だけだと40社ぐらいだから、そういう意味では、正味40、50社だと思ってもらっていい、と答えている。しかしそれでも多い。アメリカは12社ぐらいだが、さらにここからまだ買収劇は続き、10社以下になるのは時間の問題という業界経営者もいる。その分生き残った業者は国際化をさらに進める。

 さて、こうした金のかかるマーケティングをしつこく行う一方で、かたやスプレッド競争には拍車がかかり、取引所FXの手数料値下げ合戦も1円刻みにラリーが続き、30円台(どうみても原価を割っているように思える)と、ヒステリックなまでに加速しているのを目にするにつけ、何かしらこの業界の将来に不安感を抱いてしまう。これらは来たるレバ規制の影響を想定して、少しでも多くの顧客を他社から分捕りたいという意思の現れであるということは容易に想像がつくことなのだが、たぶん欧米ならそういう際(キワ)まで自分を追い詰めて疲弊するよりは、その前に有利な条件で他社に売却するほうを選ぶのだろう。最近のODLやCMSなどの例はまさにそのシナリオどおりの決断をしているように見える。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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