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尾関高のFXダイアリー

株も為替も乱高下

 株と為替の乱高下があった翌日の5月7日の朝、私が働く会社があるビルに来ると、物々しい警備とカメラが取り巻いているではないか。一体何事かと思いながら中に入ると、ゴールドマンサックスの株主総会の受付が始まっていた。なるほど今お騒がせのGSの総会となれば、これくらいの物々しさは当たり前なのだろう。しかしよりにもよって昨日の今日とは、お見事。つまり、(B)illionと(M)illionの誤入力による売りすぎとか、間違った株価情報を流してしまったとか、いろいろ原因説は流れているが、6日午後2時20分ごろ、突然ニューヨーク証券取引所のダウ平均が10,600ドルあたりから700ポイント近く、一旦9,941ドルあたりへと暴落したかと思ったら、あっという間に10,532ドルあたりまでリカバリーするという大波乱があったその翌日なのである。GSとしては縁起が悪い。よりにもよって総会の前日にそういうことが起きたのは神の嫌味か悪戯か。

その数日前には、タイムズスクエアで爆弾テロ未遂事件があるし、今日(5月7日)も、マリオットホテルで不振な鞄発見という爆弾騒ぎ(結局ただの鞄だったらしいが)があり、最近はいろいろと騒がしいニューヨークである。

ちなみに私は今日の帰りに、地下鉄でボーっとしていたらしく、気がついたら降りる駅をひとつ乗り過ごしてしまった。さらに、列車に乗り換えると、なんと乗り込んだ車両の電灯がつかない。エアコンもつかない。せっかくの新聞が読めない。暑い。


 話を前日に戻す。5月6日午後、NY証券取引所において、突然株価が暴落暴騰し、連鎖的にFX相場も乱高下をした。ここでは株式市場の乱高下の理由はどうでもいい。問題は、今の時代、あらゆる市場はアルゴトレードとかリスクのポートフォリオ管理とかで、がんじがらめに連動し合っているので、株式市場の異常はあっという間に他の市場へと機械的に連鎖してゆく。これにより多くのインターバンクマーケットメイカーにおいて混乱が生じた。こういう場合、マーケットメイカーたちがとりうるリスク回避手段というのは、
1)プライスをワイドにする
2)約定可能額を絞る
3)インディケーションだけに切り替える
のどれかにしてほしいのだが、ときにフィードエンジンそのものを止めてしまうことがある。EBSやロイターが止まると結構みんな止まる。

今回の場合、一時的にはワイドにするも、その手がかりすら見つからず結局止めてしまうというパターンに陥った銀行があったようにも見える。さすがに株式市場が突然これだけ乱高下するというのは想定外の事象である。そうなると用意しているシナリオがないため、狼狽して「止める」ことが起きうる。


 こうした「流動性が消える」という問題と、異常なアクセスや過激なレート更新によるサーバーダウンというような問題は、マーケットメイカーとしての銀行も含めネット取引には常について回るプロバイダー側のリスクであるが、同時に、結局これらは投資家側が“負ってしまうリスク”でもある。仮にそうではなく業者が負うべきリスクだとしても、投資家が受けた被害の代償を手にするまでにかけなければならない精神的苦痛を考えると、できる限りそういうリスクを事前に排除するか、あるいはそのリスクを飲み込んで対峙するかのどちらかしかないという意味で、投資家が背負わなくてはならなくなるリスクなのである。くりっく365のランド円事件にしても、提訴している投資家の方たちは長い苦痛に耐えなくてはならない。最終的に希望通りの額を勝ち取ったとしても、それまでに費やした時間と金と精神的エネルギーを考えると、あまり喜べないはずである。そういう意味でこれらは投資家が避けることのできないリスクなのである。

そういうリスクがいやなら最初からレバレッジを低くしてやる(最大2〜3倍)とか、暴風雨の中に自ら飛び込むようなマネはしない、つまりシステム障害が起きそうな状況で取引を実行しない、というような方針が必要になる。


 目の前で激しく上下する相場を見ると、ついつい手を出したくなるのが人情である。しかし、普段そういう取引をしていない人が突然手をだして儲かったときは、単なるラッキーでしかない。

逆に暴風雨に飛び込まないけれど、相場が自分のポジションと逆に動いており、もうじきMCがかかりそうだという時に、MCはいやだから証拠金を追加でネット入金した人は、改めてその追加の入金は予定内だったか予定外だったかを考えてみる必要がある。いくらレバが低かったとしても、最初にこの相場に投入しようと決めていた予算を超えて入金しているとするなら、それは危険な(後で後悔する可能性が高いという意味のリスク)兆候である。自分はこれ以上どこまで耐えるつもりなのか、というテーマでもう一度戦略と予算を見直すほうがいいかもしれない。

一旦MCになるなら、なればいいのである。最初からそうなれば、そうするつもりではなかったのか。それが自分の興奮を冷まし、一旦冷静になって戦略を練り直すための退却のチャンスを与えてくれる。だからMCになりそうなときに、あわてて追加証拠金を入れるという行為は、あまりいい結果をもたらさない。切られたレベルと違うところから入り直しても気にしない、問題はその先のシナリオである、という考えに頭を馴染ませるのは、言うは易く行うは難しであることは、私自身もよく知っているが、理想はそうでありたいものである。
 
 さて、この乱高下でNASDAQは一定の水準から60%以上離れた価格での約定をロールバックすると宣言した。これがCFDを取引する業者にどういう影響を与えるのか。これを次回にでも考えてみたいと思う。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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