やっぱりそれで訴訟されるのか
このテーマで今回2つ。
北欧のFX業者(銀行)がポルトガルの法人から提訴されそう
雑誌ユーロマネー(Fix)に掲載された記事であるが、要するに客(法人客)のポジションを見ながらプライスをずらすという行為をされたために1千万ユーロ損したので返せという訴訟準備をポルトガルのF社がしているという話である。英語の表現が" is to sue”なので現在提訴準備中なのだろう。
日本でもストップ狩りとか、プライスをわざとずらす(シェイディング)とかいうことが問題視される記事を見たりするが、たしかにフェアではない感じがして、不法行為のように見える。が、インターバンクはそもそもそういうことがまかり通る。しかしその代わり客である法人はいやならほかの銀行と取引ができる(ほんとにできるかどうかは別にして)ので、そこに抑制がはたらくという理屈が通り、また資本取引なので、A銀行で買って、B銀行で売るということが可能となるため、不法性の議論が出る隙がない。
一方、リテールの先物(デリバティブ)取引になると、業者Aで建てたポジションはAでしか売れないので他の業者をバーゲニングできない。その役目を業者が負っているともいえる。なので、この客はロングを持っているから次に来たときは売りである可能性が高いからプライスはすこし左(低め)にずらして出そうということがワークしてしまう。よってその行為は不法性が高い(相手だけカードを開かせてポーカーしているようなものだからである)という印象をもたれることもわかる。ここがインターバンクのプロ同士の「資本取引」と、リテールの先物取引の違いから来る決定的価値観というか合法性判断基準の相違である。
インターバンクの流動性をかき集めてそれをわかりやすい取引環境に落とし込んで投資機会を提供するいわゆる「ファシリテーター(FX業者)」は、この「中立性」というものを、自然と負わねばならない立場にあるというのが日本でも欧州でも普遍性を持ち始めた考え方と言えるのではないだろうか。ちなみにこの「中立性」とよく言われる「透明性」は互いに影響しあうものだが、強制しあうものではない。
さて、提訴されそうなこの業者のCEO(私も何度か会ったことがある)は「受けて立つ(not intimidated)」とおっしゃっている。立場により見える色が変わるテーマなので、これが欧州の法的土壌でどう消化されていくのか、興味津々である。
ゴールドマンが提訴された
似たような話でゴールドマンが提訴されている。結構大きな話題となっているが、これもどこまでが不法行為か、詐欺(違法)かという主観的な、見極めの困難な話しになっているように思う。だからこそ役員やキーマンのメールなどから、粗探しのように、「ここであなたは”くず商品”と言っているではないですか」というようなやり取りが生まれてしまう。それに対して「くずだってそれなりの価値はあるから値段次第で買うということもある。それが市場だ」という反論もうなずける(この喚問したSECの人の言葉を、くず屋さんが聞いたらどう思うか。くずは売っちゃいかんのか?!と。買う人がいるから売れるんだ、と)。どこまで深彫りされていくのか私の中で注目度は高いが、結局SECは不起訴(和解?)とする可能性が高そうである。しかし、株主集団訴訟は止まらないだろう。唯一、大株主バフェット氏は株主でありながらもゴールドマンを擁護する立場を表明している。裏側の利害が見え隠れするものの、それを横において、私もバフェット氏に共感する部分はある。最近よく聞く「市民目線」からみれば、総じて「アウト」といいたいところなのだろうが、その短絡さに危惧を抱くのは私だけだろうか。SECとて、メイドフ事件の屈辱晴らしにやっきになりすぎという面もみえなくはないというのはうがちすぎか。
どっちのケースも「まさかこんなことで提訴されるとは思わなかった、けどその可能性を1%も考えなかったわけじゃない、でしょう?」と促がされそうな点で似ていると思う。もし1%も考えたことがなかったというと、逆に愚者扱いされてしまう話に見える。
新しい概念やそれに基づいた物、サービスが生まれると、それにまつわる価値観、善悪の判断などがついていけなくなったり、一次的に混乱したりすることがあるという良い例かもしれない。