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尾関高のFXダイアリー

「米国レバ規制、100倍で決着?」と「分別保管と投資家保護基金」

■米国のパブコメ


 CFTCに寄せられる一般からのコメント(所謂パブコメ)が以下のURLで見ることが出来る。これらは個人法人からCFTCに送られたメールやレターのPDF化された画像である。そのまま生で掲載しているところが開いたときに“おおっ”と思う。むろん名前も送り主の入れた本名かペンネームかはわからないがそのままである。隠していない。拾い読みしていると結構時間が経つのを忘れる。ちなみにFXだけのページではないので他のCFTCが所管するものも含まれる。
http://www.cftc.gov/LawRegulation/PublicComments/2010/


現在ご存知のとおり米国でのNFAによる「自主規制」としてのレバレッジ規制は100倍である(一部マイナーは25倍)。これをさらに厳しく30倍〜50倍に下げようというのがCFTCの規制案であったが、これに対するパブコメとして個人、公人から約9千通にもおよぶ反対意見が寄せられ、これを受けたか、ロビイングの効果か、議会に提出する前につぶされたようである。これで100倍が実質上確定したというのが業界の現状認識のようであるが、形を変えてまた出てくる可能性は否定できない。

業者からは言うまでもなく、聞くところによるとCFTC内部でも反対意見があったり、レターの中にはとある上院議員(はっきり名前が出ている)からのものがあったりして結構見ていると面白い。日本のように匿名化され、誰が賛成で誰が反対かわからない状態でまとめられたパブコメ掲載も便利かもしれないが、米国のように少なくとも誰が(それが実名でなくてもいい)言った言葉かを公開しながら進んでいくのは見ていて気持ちがいい。


■反対意見のポイント


 反対意見の多くは以下のポイントを主張する。これらは日本でも同様に指摘されたが、海外流出の可能性(いまや事実)は米国のほうがより現実的に思われる。


◎規制を厳しくすれば英国・欧州に流れるだけだ。それは国益に反する。
◎そもそも個人でコントロールするべきもので規制するべきものではない。
◎デイトレーダーに100倍は丁度いい。これ以上は不要だか下げても困る。
◎国内FXの会社がつぶれると地域雇用に悪影響が出る。雇用創出というプラス面をないがしろにしては困る(いかにも政治家の意見らしい)。


日本は、「国益」を損なっても少数の自らレバレッジを管理できない人たちを守るために全体にその不利益を強いる方を選んだとも受け取れるが、ただ文化的背景、国民性の違いというのもあるので一概にどっちが正しいとかいうことではない。アジア(日本、香港、シンガポール)は一般的に金融規制が欧米よりコンサバに見える。


■海外への逃避


 ちなみに欧米のFX業者に日本からの口座開設申し込みはだんだんと増えてきている気配を感じないでもない。特にイギリスへ。個人で、単にレバレッジだけを理由に英国で口座を開く場合、注意すべきことは、レフコショックのときのようなことが起きれば、イギリスの裁判所に債権取り立ての申し立てをしに行かなくてはならなくなるというリスクである。そんなこと起きないだろうと思うのは個人の勝手だが、レフコの被害者だってそう思っていたに違いない。


■分別保管と投資家保護基金


 話はすこし脱線する。イギリスの場合も日本のように100%実預託額の信託は義務付けられている。そして、FSCS(http://www.fscs.org.uk/)という日本でいうところの保護基金により、業者が分別した額で返済に回された額が満額でない場合、最大5万ポンドまでは保証してくれるが、セミプロ、プロというカテゴリーに入れられるとその権利はなくなる。この辺の話は私の最近の訳書「CFD完全ガイド」(David J. Norman,同友館)に書いてあるので参考にしていただきたい。

そういう意味では日本も、証券会社(取引所)のそれには上限がある。「全額保全」とうたっていても、確実に倒産時点での実預託額全額が返ってくることを保証しているものではない。くりっく365は日本投資家保護基金により一般顧客は顧客一人当たり1千万円まで損害を保証するとうたっているが、これは取り次ぐ証券会社を通して補償され、対象はいわゆる「総合口座勘定」の残高となる。一般にその預金額(拘束されていない分)はMRFにオーバーナイトで運用され、投資信託として分別されているのが現状である。

日本の証券会社(取引所も含む)はみな投資家保護基金に加盟することが義務づけられている。しかし、それと預かり資産を義務として分別管理し、それがどこまで守られているかは別の話だということを投資家の方々はご存知だろうか。

なぜ、分別しているのに倒産したときに返還されるべき額が不足したりするのかというと、証券会社の分別金の処理に過誤や不正があったり、残高のMRFへの出金の手前で口座が凍結されたり、そもそも証券会社の分別管理対象額の残高変化分の信託銀行への振込み(計算日)は週一回だから、倒産時点のそれとぴったり一致することはないのである。そうした要因でズレた分をこの基金の1千万円が助けてくれるというわけであるが、一週間に実預託額が数千万円から億単位レベで変動するような大口の投資家にとっては十分とは言い切れないかもしれない。


■国同士の奪い合い


 話を戻す。こと金融に関してはボーダーレスな時代なのだから日欧米と協調してルールを擦り合わせていくということは出来ないものだろうか。なにも脱税やマネロンを阻止するときだけに限ることはない。自国の規制の結果として抜け駆け的な金融特区が世界地図上に国として存在してしまうことにもっと神経質になるべき時代である。いまやGDPは国同士の奪い合いの時代である。無から有を生み出すことばかりを純粋に狙ってばかりもいられない。中国、シンガポール、ドバイなどは国家が主体となってビジネスを世界で展開している。明らさまに“国営企業”が世界市場を漁る時代であるのに、ましてや自国から資産や税収のチャンスが出て行くことを阻止していかないと、海外から呼び込むなどという話は絵に書いた餅以下である。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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