日本証券業協会の報告書を読んで
■宣伝
本題に入る前に、少し宣伝をさせていただきたい。今回イギリスのジェイムスノーマン氏著の「CFD Definitive Guide」という本を翻訳した。同友館より「CFD完全ガイド」というタイトルで2月15日から発売中である。
翻訳は初めてだが、かなり砕いて訳しているので読みやすいのではないかと思っている。投資家、業者、規制当局関係者、弁護士、システム開発者などさまざまな分野の方にぜひ読んでいただければ幸いである。
■日証協の自主規制
さて今回は、日証協のWGから自主規制等に関する報告書が公開されたわけだが、とくに目新しい内容があるわけではなく今までの議論の流れの通りの結論に至っているように見える。以前、私はレバレッジの規制を個別株、株価指数、債券という種類で分けるのはナンセンスだと申し上げたが、当然私のその声は届かず、協会が自主規制する前に金融庁が決めてしまった。今後大切なのはこの決めた数字が硬直化しないことである。金融庁には環境や状況が変化したら柔軟に変更する自己調整機能を維持してもらいたいものである。
[参考] 証券CFD取引W・G最終報告書、現状認識と規制内容=日証協(PDF)
■今後のCFDにかかわるポイント
私にとって今後日本のFXとCFDにまつわる重要なポイントは、
(1)FXとCFDを同一口座で一元管理することと同時に一緒に信託できるか
(2)今回透明性の解釈と問題意識とその解決策の実践
(3)海外のシステムに依存しているが、今後日本製のシステムが出てきたときにどういう変化が起きるか、そこからどういうトラブルが発生しうるか
(4)TFXのCFD上場はどういう形ででてくるのか
である。
(1)については、パブコメの一部回答の中にそれを許すと読めるものがあるので一応CFDとFXを同じ口座で管理することが可能となりそうであり、当然、信託も一緒にできそうで、投資家にとってはいい話である。が、中で証券CFDとFXでそれぞれの証拠金を区別できるようにという条件がついているところが、またかという気がする。まるで、2勢力(無論、金先と証券)の陣地の線引きをしているように見える。便宜上分けることはいかようにも可能だが実質それが意味するものは何もない。無駄な労力を業者に課すだけである。
(2)について日証協の最終報告書では金商法第37条の3等があるから自主規制は設けないと書いてある。ちょっと残念な気がする。投資家にとってもっとも影響を与える本質部分である「価格がいかにして生成され取引システム画面上に提示されるのか」、そしてその価格は原資産のそれとどう違いなぜ違うのか、約定に至るまでの注文リクエストはどのような形で送信され、どこで約定判断が下されるのか」、といったメカニズムを出来る限り公開することが透明性であり公平性であるという考え方をもっとこのビジネスの中心におくべきなのである。それに開示義務と監視義務を課すことは、法律や規制より協会の自主規制にあったほうがいい。なぜなら本来それは業者が他社との差別化のために“やりたい”はずのことだからである。契約締結前交付書面にカバー先の概要、委託証拠金の管理方法の記載を義務付ける自主規制だけでは本質的な透明性の開示にはならない。なぜなら、指摘される第37条の3の中では、唯一、七号の「金融商品取引業の内容に関する事項であって、顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」が上記で私が指摘する概念に相当できる表現だが、この法文をもってそこまでを必要条件として定義することは不可能なのである。だから自主規制でさらに細かく何を開示するべきかを定義することが合理的かつ現実的で“透明だ”といえるというのが私の主張である。
今までの証券会社の最良執行方針のベースは、取引所取引だっただけにどこでも手数料が違う以外大体同じで、見なくても大した問題はなかったが、OTCが絡むCFDの場合はこの部分が各社まちまちになり、ある意味サービスの差別化の大事な部分でもあるので、投資家の目線から言えばこの価格と約定に関する業者の自主ルール(優先順位)とそれを実現するために実装しているメカニズム(システム)の説明は聞きたいところである。
(3)についてはいくつかのASPが開発をしているようである。これが個別株を扱わないのであれば、ことは単純であるが、扱うとなるとかなりの危険を伴う。システムの出来栄えだけでなくそれを運用管理する作業者の熟練も高度に必要になる。イギリスのCFD業者でもたまに個別株の分割や合併の情報更新を忘れてとんでもないことになったという事故は起きている。この辺を既存のサービスからうまく自動で取り込むという発想はいくらでも出てくるが、それを海外の取引所銘柄までやるとなると結構な開発プロジェクトである。FXシステムのように単純ではない。
そこで大方の開発パターンはヘッジ先を欧州のCFD業者にする前提で開発することが多いだろう。証券CFDの場合インターバンクは相手にならない。銀行(ユニバーサルバンク)はCFDという商品は提供しない。あくまでも取引所取引の取次ぎをするのみである。自前でNASDAQやLSEに繋ぐ(つまり客にはCFDを提供し、反対側のカバーは取引所取引を行うという今のFXのスタンダードなやりかた)というプロジェクトにするだけの力量があるなら話は別である。しかし、ヘッジ先を欧州のCFD業者にすると、すでにそのほとんどは日本で展開しているので今からの参入スタイルとしてはあまり意味がないように見える。自前で取引画面のデザインを作り変えても中身はヘッジ先のそれと変わらない。
DMAにかかわる経験を伴うこなれた技術ノウハウは、欧州の、それも独立ASPではなくてCFD業者が独自に抱えるITエンジニアの中にもっとも多く蓄積されている。実際のところプロジェクトマネジメントは彼らでもプログラミングの実行部隊の多くはご推察の通り、中国、ロシア、インド等に散らばっている。
欧米では一国内において、業者の違い=システムの違い、であることが当たり前であるし、約定というミッションクリティカルな仕事をするシステムのため開発スタッフは物理的に外でも契約的に中に囲うのが普通である。一方、同じシステムなのに10を超える業者が乱立し、ほとんどシステムを外注するのは日本の特徴である。たとえ話をひとつ。レンタカー会社で車を借りて、不良箇所が原因で事故を起こしたら、レンタカー会社がまず顧客に責任を負うが、このレンタカー会社はそれをメーカーに転嫁できると考えるのが普通である。しかし、こういう金融システムビジネスの場合、それは困難である。簡単にいうと責任範囲の限定がしづらくシステム会社が計り知れないリスクを負えないからである。ならば自己完結した責任を負う方が効率的であると考えるから欧米の業者はみな自分でエンジニアを雇って中で開発する。そのほうが結果的に優れた戦略的競争力を生み出す。むろんそうなると資本力も大切になる。日本のように資本金数千万円でずっとやっていくということが可能な環境にない。だから欧米では小さな独立系というのはすでに淘汰され、メジャー10ぐらいまで収斂している。欧米においては、ここからさらに吸収合併、少数巨大化は進むのである。
最後に(4)についてだが、一応今年中にはTFXはCFDを立ち上げると言っている。そこで扱う銘柄がどういうものになるか私はまだ知らないが、隣で東証がやっている国内銘柄を個人投資家向けに出すとしたら、それはどうかと思う。欧州でそれが成立するのは多くのCFD顧客がファンドだからである。ファンドマネジャーはいちいち商品別に別口座でやるのは面倒になるので、全部CFD(FX含む)で信用を一本化してやりたいというニーズがある。また短期的な取引がメインなファンドなら印紙税の節約がファンドのパフォ−マンスに効果を出すというメリットもある。個人投資家においても欧州の場合土壌が最初から国際的である。ドイツ人がフランスの取引所の上場銘柄を取引するのはほとんど東京と大阪程度の違いしか感じないだろう。
私がCFDを2006年に手がけたのはあくまでも海外の株式や、先物市場に簡単にアクセスするツールは日本の一部のマニアに受けると思ったからである。日本人がCFDでわざわざ日経225先物やソニーの株をやることはあまり想定していない。とくに既に証券口座を持っている人ならなおさらである。一方で、FXから入ってきた人がついでにちょっとだけ日経225で遊んだり海外の指数先物を取引したりするなら同一口座でできるかぎりポテンシャルはある。が、さほど大きく育つとも思えない。その考えは今も変わらない。
日本人にとってのCFDの魅力はあくまでも海外の市場をFXと同じ口座で、同じ仕組みで簡単に取引できるという点であると思う。あとは、どれだけの投資家が海外の市場に目を向けるかということと、取引コスト(手数料やスプレッド)がFXの低スプレッド業者によって徹底的にスポイルされた日本市場で、どれくらい訴求するかということである。FXを扱う証券会社は既存の商品ラインとバッティングするのであまり日本国内銘柄はCFDで提供したがらないのが常識といえる。さらにいえば、CFDで出す手数料よりも今のネット証券の手数料は安いように見える。
■日証協と金先協会の協力
日証協は証券CFDについての自主規制機関として動いている。また、金先協会はFXに対してそうしている。無論、両協会にかぶる証券系、独立系が多く存在する。欧州(EU)、豪では、FXはすでにCFDの一種として包括的に規制されている。CFDに関しては日本もこれにFXを含めて、日証協と金先協会が合同で「CFD(FX)自主規制委員会」として動いたほうが投資家から見てわかりやすいのではないかと思うがいかがだろうか。その際はぜひ商品先物もお誘いあわせの上お願いしたいものである。