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尾関高のFXダイアリー

取引所のアイデンティティ

 取引所取引とは何か。その定義はどこに書いてあるのか。現在捜索中である。結局取引所取引とは取引所が提供する商品がすべてそうであるということになりはしないか。つまり、その仕組みに対してではなく「誰が提供するものか」でしか定義できない。

むかしから、その成り立ちを知るものにとっては取引所とは、「一物一価の原則」を実現するべく、同じものは他で取引されない取引所固有の商品であり、取引所は「売り手と買い手をつなぐだけの機能」を果たすと同時に、その「決済リスク」を取引の間に立つことで肩代わりし、より安心して投資家が取引できる環境を提供することであったと思う。そこには、公平性、公正性、また気配から取引に至るまでの透明性というものがあると同時に、売り手買い手の「匿名性」(これが相当大事なのであるが)を守ることによりその価格探求(Market Exploration)の効率を高めてきた。

現在、FXが上場されていることで、これが「取引所による相対」かどうかという見方については私もいつも頭の中でその定義をひねくり回す。そうすることにどれほどの意義があるか私にもよくわかっていないがついついやってしまう。たぶん「取引所による相対」ということば自体が私の脳の襞(ひだ)に馴染まないからなのだろう。


■価格形成と約定ルール


 FX上場における取引所の特殊な部分はこの価格形成と約定ルールに集中する。くりっく365は、マーケットメイカー方式であるとうたっている。つまりこれは、顧客同士が当たることがないということを指す。必ずマーケットメイカーと顧客が当たるようにしているので、マーケットメイカー同士が当たることはない。そのようにシステムが作られている。これが本当なら銀行Aのビッドと銀行Bのオファーが同じであってもAとBで取引成立というようにはしないし(その場合どうプライスを操作しているのだろう?これも透明性のもとに開示されるべき点であるはずだが・・・)、顧客Aのビッドと顧客Bのオファーが同じでも同様に当たることはないはずである。たぶん取引システム上見えもしないのだろう。見えるのはマーケットメイカーのプライスだけである。これは伝統的な取引所のオークション方式からすると邪道であるが、世界的にこうしたマーケットメイカー方式は一部の上場デリバティブで採用されている。なぜ邪道かというと、本来どういう板があるのかを見せるから透明なのであって、そこに顧客の板はおろかインターバンクの板すら見せず、ベストビッドオファーだけしか見せず、さらに顧客同士をぶつけないのでは透明性もへったくれもない。しかし、視野を広げてみれば、ことFXにおいては世界中で取引されるOTCの為替取引高の何万分の一(?)程度のそれを見たところで大した意味もなく、そう考えればむしろローカルの歪んでいるかもしれない情報を見て誤解するよりはベストビッドオファーだけ見ているほうが、邪念がわかずに結構なことかもしれない。

では、一般の株式においてマーケットメイクはないかというと、実際マーケットメイクする証券会社はあるが、あくまでも一般の顧客同様に買値や売値を(片方だけだったり両方同時だったり)入れるだけなので、マーケットメイカーはいるが、くりっく365が言う“マーケットメイク方式”ではない。

最後に大証FXはどうかというと、一応オークション方式をうたっているが、今回からマーケットメイカー同士はぶつけないということになったので微妙にずれがある。ただし顧客同士がぶつかることは可能なのでより「伝統的な取引所の姿」に近い。


■一物一価の原則


 これも完全に条件を満たしていない。取引所がマーケットメイカー=銀行とする取引はインターバンク方式である反面顧客とやる取引は指数先物スタイルである。つまり、たとえれば取引所は原油を輸入してガソリンに精錬したものを顧客に提供しているようなものであり、これは店頭業界では最初からそういうものとして提供しており、まったく同じものを売り手から買い手に渡すということはしていない。これが「伝統的な取引所の姿」からすると革命的に違う点である。取引所においてこの部分が決定的に相対(あいたい)的な新機能となりその分(原油をガソリンに変える精錬の部分)の管理運営責任が新たに取引所には生まれたことになる。昨年10月のランド円の問題もこの不慣れで非伝統的な作業領域から生まれたものであることは明らかである。使い慣れない武器をもてあそんだら暴発し、流れ弾が顧客に当たったようなものである。とりあえずその責任をその武器を売りつけた相手に転嫁したものの、現在顧客から訴えられている状況である。


■決済リスク


 これはきれいに「伝統的な取引所の姿」どおりである。そもそも変えようもない。


■匿名性


 これも守られている。


話はずれるが、そもそも金融先物取引所や証券先物取引所がFXを上場するというしっくりこない事態が起こるのも、それぞれの取引所の台所事情が芳しくないからである。景気がよければ絶対こんな玉虫色のスペックで参入などしなかっただろう。また、狭い日本に今の取引所の数は多すぎるとは誰でも思っているに違いない。さらに商品先物取引所はどこも大赤字である。彼らに光明があるとは思えない。一方東証や大証にしても次のカンフル剤が見えてこない。個別株オプションの上場はどうなったのだろう。コメの先物市場の上場は結局不可能なのか(世界の歴史上最初にやった国なのに)。商品と金融と株式が別々の取引所という日本縦割りスタイルがいつか、現物と先物(+デリバティブ)という横割り区分で物理的に組織を再編するという可能性は果たしてあるのか。各省庁はやはり協力的に動いてはくれないのだろうか。欧米のスタイルがそうである限り、日本の市場の不便さは消えないし、赤字垂れ流しで何の打開策もない商品先物取引所が大切な基金から担保らしいものもなく金を借り延命措置を取り続けるのは果たして今にして妥当な判断だといえるのだろうか。欧米に合わせるという前提なら、究極の変化は、現物(株、債券)は東証、先物デリバティブ(商品先物、通貨先物、日経225、TOPIXなど)は大証。これで十分ではないか。場所がひとつになっても縦割り監督官庁がそれぞれ尻尾を握りたければ握ればいいではないか。はやくワンストップ・イクスチェンジになってほしい。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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