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尾関高のFXダイアリー

信託義務化本番(2)義務化されると黒字でも倒産する

>>「信託義務化本番(1)信託できない業者」はこちらから


■信託義務化されると黒字でも倒産するケース


 簡単にモデル化して説明すると、100億円を預かっていた業者でカウンターパーティ(CP)に客のカバーポジションが600億円分(想定元本)あったとする。主にドル円でドルロングとしよう。このCPは5%の証拠金をこの業者に課しているので、業者は客の100億円から30億円を差し出していた。しかし、2月1日からはこの30億円も信託にまわさなくてはならない。となると、この業者はCPへの証拠金30億円分をどこからか調達しないと、カバーでとっているポジション600億円分を決済しなくてはならなくなる。銀行はその点容赦はない。30億、40億の資本金をもつ業者は極端に少ないが、想定元本で600億円程度を持つ業者は(比率的に見て)それ以上あると思われる。

CPから縁を切られると業者は完全に客に向かった状態になるため、客のポジションはドルロングが大半であるという一般論で言えばそこから円安になった瞬間理論上破綻する(実際に倒産するには取り付け騒ぎでも起きなければならないが)。これを防ぐためには業者は資本を「現金」で積み増すか、その余裕がなければ借り入れをおこさなくてはならないのだが、今のご時勢この業界に対して銀行が融資を買って出るという感触はない。あるとすれば他業種やファンドでこの業界参入をもくろむ人たちが出資するケースである。彼らにそっぽを向かれたらこの業者はもうおしまいである。他者と合併するにしても同じような状況であれば一緒になっても結果は同じである。

たとえ営業利益が出ていても、自己資本規制比率が500%であってもカバー取引ができる相手銀行がいなくなればこのビジネスはできない。顧客のキャリーポジションが多ければ多いほどこのリスクは高まる。また悪いことにリーマンショック以来CPとなる銀行も業者に対して証拠金率の引き上げをしつつある。この傾向はレバ規制という業界への逆風によって加速する可能性もある。銀行も商売であるから勝ち組にはいい条件を出す反面、負け組みと判断した業者にはそのハードルを上げることがある。そうなるとその業者の死期は早まる。貸しはがしと理屈は同じである。


■ビジネスが成長するのを手放しでは喜べない産業構造


 かくして、この信託義務化とそれにつづくレバ規制によって業界の再編が進むことは間違いない。投資家サイドにとって大事なのはそのとき発生する地震で怪我をしないように空き地に避難するか、屋台骨のしっかりとした家に鞍替えするかである。

 以上の話で見えてくる人には見えてくるのだが、顧客の数が増え、ポジションが増え、預かりが増えると、これはまさに業者としては成功の証なのだが、それに従ってキャッシュフローを潤沢にしていかなくてはならなくなる。CPに対するキャリーポジションが増えた分だけ自己資金からCPに差し出す証拠金額は増えるからである。クレジットラインを出してもらったとしてもその上限にタッチすればあとは現金を出すしかなくなる。つまり、ビジネスが成長するのを手放しでは喜べない産業構造になったということである。さらに煎じ詰めると、それだけの資金力を資本だろうが借り入れだろうが、キャッシュを集められる業者でないと安易に成長することを望めないという制約をもたされたということなのである。これが信託義務化の最大の“効果”なのである。


■信託といえども100%とは限らない


 信託が義務化された後自分の業者が倒産したら必ず100%今見ている実預託額(有効額、純資産)が返って来るとは思わないほうがいい。常に信託される額と実際の取引システム画面で見ている実預託額とには最大2日ほどの時差があると思っておいたほうがいい。破綻したという事実が出た後でもポジションを閉じる過程において数字は変わってくるだろうから、一日の変動率が1%であれば、2日分で2%なので、破綻時点の実預託額から比較した場合は98%から100%の範囲で返って来ると思っておけばおおかた間違いはないのではないだろうか。あくまでも目安としての話。

 下にFOREX PRESSの表をまとめると、全部で92社(取引所はまとめて2社と計算)中、現在1社の信託先がブランクとなっている。信託銀行としては、最初に始めたソシエテから、簡単さ(?)で受けた日証金、そしてあとから食い込んできた三井住友の三行が目立つ。三井住友はカウンターパティも出来るし信託も出来るという利点が受けているのか。たしかに信託をする銀行がプライムブローカーまでやってくれるのが最高である。


■現在の信託受託銀行(出所:FOREX PRESS 2月4日現在使用)


信託先企業数その他
日証金信託銀行29こちらにてご確認下さい
三井住友銀行17こちらにてご確認下さい
ソシエテジェネラル信託銀行9こちらにてご確認下さい
みずほ信託銀行6SBI証券、SBIF、NTTスマトレ、FXCMJ、FXプライム、フォーランドF
三菱UFJ信託銀行4ソニー銀行、カブドットコム証券、トレイダーズ証券、三菱商事F
野村信託銀行3ODL JAPAN、野村證券、外為どっとコム
住友信託銀行3住信SBIネット銀行、マネックス証券、マネースクウェア・J
DB信託3EMCOM証券、MJ、FXトレード・フィナンシャル
三井住友銀行/みずほ信託銀行2マネーパートナーズ、サイバーエージェントFX
トランスバリュー信託2 3東海東京証券、フォレックスクラウン、AFT
取引所取引2東京金融取引所、大阪証券取引所
日興シティ信託銀行1日興コーディアル証券
ソシエテジェネラル信託銀行/三井住友銀行1豊商事
ファースト信託1サクセット
日本エスクロー信託1My外貨
野村信託銀行/三菱UFJ信託銀行1ヒロセ通商
IB(introducing Broker)につき不要6アールスリー、ART、サザ・I、サンC・M、ネクストI、ロンナルF
不明1 0AFT(2/11にAFTより連絡あり)
total(取引所取引含む)92-

■信託とCPが同じ銀行で完結する場合


 上述した“効果”の話に絡むが、成長は資金調達能力が同時にあって初めて追求することが可能になるのが信託義務化の効果(業者にとっての副作用)だと言ったが、これを緩和するスキームが、信託銀行がCP、あるいはPBになるケースであり、CPとして信託財産を手元で管理する分、業者に対してクレジットを出すか、証拠金率を割り引くかの措置をとってくれるケースである。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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