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尾関高のFXダイアリー

取引所の姿(誤発注による東証とランド円騒動のTFX)

 みなさんは、以下の東京証券取引所の斉藤社長のコメントについてどう思われるだろうか。


『発行株数の3倍にあたる大量の注文は止めるべきだった、とした点について、(東京証券取引所の)斉藤社長は「取引所が人の注文を勝手に止める権限はない。相当の違法行為がない限り、介入しないのが自由市場の考え方だ」と反論した。』(産経新聞

たぶん、TFXはマーケットメイカーが出すレートと個人顧客のそれとは別である、と反論されるであろう。マーケットメイカーには誠実に市場の実勢レートに則したレートを提示する義務がある、というのが度重なるTFXのコメントからにじみ出てくる考え方のように見えるが、「誠実」という言葉の中身は定かではない。マーケットメイカーが出すレートは一般の投資家の注文とどのように扱いが違うものなのかをもっと正確に定義し開示する義務はないのだろうか。それも透明性の一部だと思うが。


システム上のロジックの矛盾、清算値と値洗いの関係の問題、バグレート排除のロジック等、テクニカルな諸問題は突っ込めばいくらでも出てくるが、それ以前の議論として根底にある私の疑問や考えは、


▼そもそもOTC市場で成熟している金融商品を取引所が上場する社会的意義があるのか。ましてやOTCですらほとんど流動性がないマイナー通貨まで扱う意義とは。

▼取引所は、本来伝統的に一物一価の法則が成り立つものを扱うことを前提にあらゆる関連法、慣習等ができあがってきているのではないのか。似たような金融商品でも店頭とはスペックを変えて出すぐらいの分別は必要ではないのか(いつも例に出すCMEがそうであるように)。

▼清算にかかわる部分だけは貴重であったがそれすら信託義務化によってほぼその希少価値を失っている(今の金銭信託の仕組みにも欠点は多いが、だからといって取引所のそれが万全であると誰が言えよう)。

▼マーケットメイカー制度を採用するときに、「OTC市場との裁定の義務」をマーケットメイカーが負っているという明確な契約はあったのだろうか。またそうであったとしてそれはIT技術的また運営ルール的に担保されていたのだろうか。これを「誠実」という言葉だけで担保されたと考えていたのだろうか。


私個人としては、冒頭の東証斉藤社長の「取引所が人の注文を勝手に止める権限はない。相当の違法行為がない限り、介入しないのが自由市場の考え方だ」に賛同する。斉藤社長は「東証は」とは言っていない。「取引所(というものは)」という意味で言っていると解釈している。

本来なら参加者が、OTC市場とずれたレートが出たら無視するか、おいしければ叩き込むという裁定取引(アービトラージ)をすればいいのである。しかし、今回のTFXのランド円問題は、そういう投資家の判断による裁定取引とは無縁の、「自動強制ロスカット機能」が、単に気配値がワイドになっただけで、口座保有者の意思とは関係なく発動(暴走)したという『設計上の問題』なのである。これは取引所システムよりは取次業者のシステムの問題である。この主たる責任はそのシステムを設計開発した側(主に要件定義者)にあることは間違いない。また、取引所のシステムと取次業者の取引システムとのロジック上の整合性も含めて検証されるべきである(個人的には清算値がらみのロジックを注視している)。


本来取引所取引は、公平性の観点からオークション方式が一番理想的である。流動性を確保するべくマーケットメイカーが必要であるとしても、電子注文ブック(約定マッチングエンジン上)では電子的振る舞いとして、一般投資家のそれと同様に扱われることが理想である。今回のランド円の問題は、そうでないとそこからさまざまな不測の問題や制約が生まれてくるということを証明するいい例である。

マーケットメイカーには、一定のアルゴリズムに従って自動的に頻繁に売買値を変更するインターフェースがあればいい。あとは一般の投資家のそれと同じでいいし、逆にそれ以外の仕様が違っているのは「取引所は取引を取次ぐだけである」という観点からよろしくないのではないだろうか。前号でも触れたとおり現在の「くりっく365」という商品はOTCという見方でないと理解できない。

「価格の透明性」とは取引所においては「一物一価」であり、その「情報が開示」されているということにほかならないと私は思っている。変な値段がついてもそれが事実であるなら、公開されればそれでいい。あとはそれを知った側の判断である。つまり、取引所取引は、それ以外において同じ商品は取引されていないことが大切なのである。だからこそ、取引所の存在価値は絶対なのである。原則、取引所で採用する銘柄を取引所外で取引すれば違法となるが、その逆はない。なぜそうなのかをもう一度よく考えてみる必要があるのではないだろうか。


 今回東証は4分の一(107億円)の責任を負わされる判決となった(現時点では控訴するかもしれない)。同産経新聞の記事では、発行数よりも3倍も多い数量を発注できる仕組みがいけなかったらしい。つまり、ありえない発注ができないようにしなくてはならないと読める。しかし、発行数ちょうどで入れていても同じことが起きただろう。ならばどれくらいまで、あるいはどういう発注確認機能を開発すればいいのか、というグレイな議論が始まるが、だからこうしなさいと裁判所が言うわけもない。グレイゾーンを手探りで進むしかない。

IT革命後の便利さと、使い慣れないことからくる危うさの両面が、東証にもTFXにも見える気がする。何を定義し、どう解釈し、運用していくべきか、また店頭市場と同様もしくはスペック上近接する商品においてはどういう距離を保つべきか、店頭と取引所の互いの存在価値をどう高め合えるか。そうしたことをもっと議論していかないと、取引所はまた新たな混乱を生むかもしれないという漠然とした危機感がある。いまのところ、ことFXにおいては、株式会社である取引所(TFX、大証ともに)が、ただ単に店頭で人気のある金融商品をそのまま利潤追求を目的として焦って追いかけているように見られてもしかたがない状況ではないのだろうか


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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