世に言う「ストップ狩り」と流動性
相場水準があと10ポイント下がると多くの顧客の口座にマージンカットがかかり、業者が儲かるのでわざとインターバンクの実勢レートよりも配信レートを左にずらしてカットを誘発させる、という業者の悪質な行為を“ストップ狩り”と巷では呼ぶらしい。よくできたネーミングで感心する。最近はそういうあからさまな悪徳業者はいないと思いたいのだが、まだすこし残っているのだろうか。しかし、業者にとってこれは諸刃の剣で、目先の利益に固執するあまり顧客の寿命を縮め、結果業者自身の寿命を縮める。良識ある業者であればしないはずである。
■いやなら止める
OTC、相対、店頭と呼ばれる業者において、彼らがどういうレートを出すかは、インターバンクを参考にしながらも、運用ポリシーとそれを実現するIT技術の相乗効果として現れる。どっちの原因であろうとそういうストップ狩り的な事態が起き、不愉快な思いをしたのなら、その業者との付き合いを止めるというのが最善の策である。
ストップ狩りがおこなわれたかどうかを判断するためには他の規模の大きい“複数”業者の配信レートをチャートなどで確認することで可能である。一社ではいけない。しかしそのズレがドル円の場合で数銭だと、意図的なストップ狩りであると断定はできない。DIでカバーをする業者の場合、その瞬間に彼らがさらされたポジションのリスクに応じてずらすことは妥当であり健全だからである。あくまでもずらす根拠は業者のディーリングブック上の状態の反映(たとえば、ロングを持ちすぎているなら、売りたくなるので、レートを若干左にずらす=オファーを魅力的にする)であって、顧客が売るか買うかを知ってずらすということではない。どちらにせよ要は程度問題である。
■外為証拠金市場から動き出す世界相場
そもそもプライスをずらすという行為がマーケットメイカー側にあるから相場は動くのである。出しても、出しても売られ続ければ、そのマーケットメイカーはビッドをどんどん下げていく。このとき他のマーケットメイカーがどうであるかなんて関係ない。他のマーケットメイカーは自分のこの局所豪雨的状況をまだ知らないのだから。それを知った瞬間他のマーケットメイカーも一斉にビッドを引くのである。この場合のマーケットメイカーとは銀行等だけでなくDIでカバーする業者も含む。ましてやインターバンク市場よりも先に顧客からの大きな流動性にぶつかる業者の場合、カバー先よりも先に相場の動きをつかんでいることになる。かつてそんなことを言えば“こざかしい(一個人投資家ごときでありえない)”と笑われたかもしれないが、今それを笑うインターバンクのディーラーはいないと思う。
たとえばポンド円を東京時間午前3時に 4千万ポンド売りたいと顧客がやってきたとき(やってくるのである!)、インターバンクの画面上では、150.84−87だったとしよう。そして業者も同様。しかしこの84−87のレートはせいぜい100万ポンド分を前提に出しているレートで、実際に4千万ポンドで銀行をそんな時間に呼べば、間違いなく、150.50−151.00のような思い切りワイドなレートになる。ここで、実際にこの客が150.50で売り、そのカバーを業者がカウンターパーティでしたら、その瞬間世界中のポンド円が一次的に左にずれるということが実際に起きる。こういう場合、4千万ポンド売りたいと思った人に、150.84ではなく150.50で売らせたことになんら問題はない。むしろ正常な行為である。その後相場がもとにもどるか、連続して下がりだすか、そのずれた場所でじっとしているかはその後の他の参加者の動きによる。
こうした“ずらす”行為を素人まがいの為替業者にされるよりは、本流の“正統派”インターバンクにして欲しいというのならNDD(私の造語でいうDMMA)を採用している業者で取引をすればいい。その代わり、レートごとの流動性には限りがあるので、上の例で言えば、最初の3百万ポンドは150.84で売れたが、その後は全部売り切るまでに何回かに分割しながら最終的に150.40まで売り込んだ、というようなことが起きる。なぜなら業者に最初から4千万ポンド分という高額取引を保証するビッドアスクを配信する銀行はいないからである。普通は、2,3百万ポンドである。インターバンクは、FX業者よりもリスク管理は厳しく複雑なので、ぎちぎちに流動性を絞ってくるためそういうことになる。それよりもDIスタイルでやっているどんぶり勘定的な業者のほうが、リスク管理が大雑把な分より有利なレートで約定する可能性もあるが、それはケースバイケースなので実際に両方のタイプを経験して自分で判断することが望ましい。