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尾関高のFXダイアリー

整理 3つのポイント (今回のランド円にまつわる事故の顛末)

前号の一部について、誤解や不明を避けるため、もうすこし細かく説明をさせていただきたい。


1)オープンポジションをビッドアスクで評価するか仲値で評価するか


前号で、仲値評価とビッドアスク評価でどう違うかという話をした。その一例がこんな感じである(下表)。例は、ドル円で、2ピップスプレッドから突然片サイド10%(計20%)スプレッドがワイドになってしまったとする。今回のランド円は片サイドで20%以上だったが、ドル円では10%ということはロシア危機(LTCMの破綻)以来ない。

上の例でも下の例でも、仲値方式だとビッドとアスクが同率で開く限りはその中心値にさしたる差がなく、結果評価損益もおなじとなり、マージンカットにはならない。一方、ビッドアスク方式だと、私のロングポジションの評価レートが89.20から一気に80.28になってしまうので、マージンカットとなる。



今回の事件はこの、“スプレッドが異常に開いた”ことが原因で、取次業者のシステムがカットを発令しそのとき取引所にあったビッドを全部叩きに行ったのかとも思うが、そうであった場合、問題は、やはり業者が使っている取引システムに搭載される値洗いとマージンカットの仕様・機能ということになる。しかし、これが間違っているわけではないところが、ややこしいところである。実際にそれだけスプレッドが開く市場であるなら、それだけのリスクを担保しなくてはならないのだから、このやり方もありといえばありである。

上の仮説が正しければ、全体としてシステム上障害があったわけではなく、あくまでもシステムをデザインする際の準備と対応の問題であり、対応が困難であれば、そういう事象が発生しやすい商品は上場しないほうが投資家の保護という目的にはよいのではないかという考えが浮かんでくる。


2)マイナー通貨の流動性


相場が荒れるとインターバンクでもメジャー通貨(G7通貨)の取引が主となる。そういうときに誰にも求められていないマイナー通貨の取引レートを無用に配信することはリスク管理上あまりしたくないので止めてしまうかもしれない。そもそもランド円に限らず他のマイナークロスはオンディマンド通貨である。つまり、顧客の求めに応じて、たとえばランド円なら、ドル円とドルランドの市場レートから掛け算して妥当なプライスを提示し、ヒットされたらすみやかにドル円とドルランドにポジションを分解するか、キャッシュでランドと円でバラバラにしてブックに放り込むものである。常時タイトなスプレッドを期待するほうが、される側としてはきつい要求である。ただしそれを約束した上でマーケットメイカーになったのなら、その分の責任はあるのだろう。店頭業者からみれば、そうしたリスクは常に業者側が受け持つ前提でマーケットメイカーと契約することがほとんどだろう。だからこそ、異常事態に対する備えだけでなく、その異常事態とはどういうものがあるかについてより深く対応をおこなってきているはずである。また、それでも異常事態が発生したときは過誤訂正をおこなうことが相対取引であるがゆえに(一定の条件はあれ)できる。取引所はそれをしない、はずだったが、いまや取引所もできる、となっている。


3)OTC市場との裁定という考え方


つまり、前号でも述べたように、TFXという取引所は「取次」業務の一部かつ根幹を担っているというより、その実態がよりOTCに近づいてしまっている。これはマーケットメイカー方式を採用しているということと、そもそもOTCの巨大市場が真横に存在し、規定されないのにそれとの「裁定」が求められているという事実による。

“規定されない”とは、たとえ取引所のビッドアスクがインターバンク市場、かりにそれをEBSにおいてと定義して客観性を与え、それとの乖離があったとしてもそれとの裁定を考慮しないと最初に宣言するか、あるいは今回のように、あくまでも裁定を図り、乖離があった場合は取引所側を間違いとして修正をする、と宣言するか、ということである。その点がなにも事前に明確にされていない状態で、現状は後者の宣言があったかのごとく事は動いている。最大の問題点というか矛盾点はここではないのだろうか。本来、取引所は同様の商品が店頭等であったとしても店頭(OTC)市場等、他市場との価格裁定を保証する義務はないはずである。それは参加者が行うことである。そういう面から押してゆくと、今回の過誤訂正は不要ではないかとも言える。同じスペックの商品がOTCと共存し、マーケットメイカー制を採用するために、こういうわずらわしい問題が起きてしまう。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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