外国為替取引ニュースサイト

  1. トップページ
  2. >コラム・レポート
  3. >尾関高のFXダイアリー
  4. >今回のランド円にまつわる事故の顛末

コラム & レポート

バックナンバー

尾関高のFXダイアリー

今回のランド円にまつわる事故の顛末

■ビッドが問題ではなく、そのときのオファーが問題なのではないか?


 TFXの開示文書もその後のメディアの報道もビッドの8.415の話しか触れていないが、本来問題はオファーサイドにある。マーケットメイカー方式の場合、客同士が打ち合うことはなく、必ず客対マーケットメイカーである。であれば、「11円台のビッドも約定し」ということなので、それを売ったのはマーケットメイカーとなるはずである(定かではないが)。客の11円台のビッドよりも低いオファーを出したマーケットメイカーが8.415のビッドを出したマーケットメイカーと同じであれば、結果“ストップ狩り”のような現象が起きてしまったことになる。この取引が行われた後の動きはシステムとしては正常な動きだったはずである。


■取引所がバグレートを排除する機能を持つことの意味


伝統的な取引所の概念はたとえマーケットメイカー制を導入したとしても、売り手と買い手は注文・約定においては同等に扱われるというのが常識だと私は思っていたが、今回そうではない扱いということが結果的に見える。
取引所はそのリミットオーダーブックに到着した注文はすべて正式なものとして扱うはずだが、その前にバグかどうかを判断するフィルタリングをかましていることが分かった。TFXの開示文書には当たり前なように書かれているが読んだ私としては結構ショッキングな事実であった。何歩か譲って、これはマーケットメイカーとの合意があればそういう仕掛けを入れることは妥当なのかもしれない。ただ取引所がそれをするとは聞き慣れない話である。一種のサーキットブレーク機能と解釈するべきなのか。。


■ワイドになるとマージンカットが作動する問題点


中心値が同じレベルでもスプレッドがワイドになると、ロングはビッドレートで、ショートはアスクレートで値洗いするロジック(ビッドアスク評価)の場合、当然評価資産額(=有効額)は影響を受ける。このため一瞬ワイドになるだけでも、突然マージンカットになることがある。これは取引所の取次業者が採用するシステムの作りに依存する。私はできれば値洗いはインターバンク同様仲値評価で行うほうが、運用が安定的でいいと思っている。私が本業界黎明期にデザインしたときはインターバンクに習いそうしたのだが、今は主流ではない。仲値評価だと有効額にスプレッドの半分の価値が膨らむがその分証拠金率で調整すればいい。金銭信託残高にこれを使うとよりのりしろが付加されて好都合でもある。経理的な純資産の概念とリスク管理としての運用はそれぞれ独立してもかまわないはずなのだが、業界においてミドルとバックの概念が成熟していないためこうなったと勝手に思っている。リアルタイムの有効額を基準とする強制ロスカット(これは、ミドル目線)が機能に組みこまれるならなおさらである。


■マーケットメイカーの匿名性


今回、8.415のレートを出したマーケットメイカーがコメルツだとメディアに出ていたがこの情報元が取引所だと、参加者の匿名性という取引所の伝統的な価値が崩れたことにならないか。コメルツ自身が名乗り出たのならなんら問題はないが、マーケットメイカーにはこの匿名性の権利は与えられていないのか。


■過誤訂正


取引所としては前代未聞ではないだろうか。その原資はどこから出るのだろうか。コメルツに対しても訂正を求めるのだろうか。店頭業者ならカウンターパーティに交渉しても困難な話だが、相手が取引所となるとそういう政治的な対応がなされるのだろうか。金融機関と取引所の微妙な力関係がちらりと透けて見える。もはや取引所ではなくて完全な店頭としての振る舞いとしか思えない、と思うのは私だけではないはずである。金融庁まで乗り出すというらしいので、はてさてまた新しい動きがあるかどうか。私が注目するのは、そもそも過誤訂正を認めるのかという点と、過誤訂正にあたり、それを申し出がある人に対してのみ行うことと期限を切っていることである。


■自覚と認識


TFXが今回マーケットメイカーに、その認識と自覚を求めるようなコメントを出しているが、これは本来取引所自身に対して突きつけられる問題だと感じる方も多いのではないだろうか。マーケットメイカーがどういうレートであれそのレートで約定し決済する責任を負う限り、その発注レートは“正当”なはずである。その時点で一行しかサポートされないような流動性の低い通貨をマーケットメイカー方式で上場することにそもそも無理があるのである。コメルツも正当なレートとして出したとコメントせざるを得ないのはよくわかる。正当性の基準などあってないようなものだからである。特に特殊な通貨ペアとなると主観しか存在しない。実際彼らのリスク管理モデル上妥当といえるレートを出したのならそうであるし、その結果出したレートの約定に責任を持つ限り非難できない。そのレートで約定した決済を拒否したい、と言わない限り非難されるべきものではないと思う。

本来取引所は(店頭でもそうだが)、想定できる限りのケースを想定して問題ないようにビジネスロジックを組み上げ、それに沿ったシステムが構築されなくてはならないのだが、それが未完成だった、ということを露呈したことになるのではないだろうか。しかし、これは前号でも触れたが、システム上の問題というより、そもそもOTC市場がほぼ100%の商品をまったく同じ仕様で(スワップは別だが)取引所に上場するということから生まれる特殊な問題点(シナリオ)を把握しきれていないということなのである。今後の改善を期待するが、根本的に店頭市場に対比した「取引所」のアイデンティティのボーダーラインを明確に見せてほしい気がする。このままでは店頭と何も変わらない。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

ニュースクラウド