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尾関高のFXダイアリー

取引所取引とバグレート?

今回で2回目と記憶している。前回はポンド円、今回はランド円で発生したバグレートと思わしきレートでの約定が、店頭ならば訂正処理されるところが、取引所であるがゆえに正式約定としか扱えないという問題である。ここでバグレートと書いているが、正確には、“実勢水準から異常に乖離したレート”という意味である。原因はどうあれ、取引所のシステムに出現した時点で決してバグではなくなるし、それを出した銀行にしてみても、バグではない。あくまでも出した以上は約定してもらってかまわないというレートをだしているのであるから“本物”となる。あとから取り消すことは許されない。

店頭の場合、マーケットメーカーからもらうレートに自分のシステムの中でフィルタリング機能を搭載するところが多い。これにより異常に乖離したレートははじいてしまうという効果があり、これは実は本物であったというリスクを少しはらむものの総じて効果的に働く。特にここ数年銀行からバグレートがでてくる頻度は極端に減ったのでこの機能の重要性に焦点が当たることはあまりなくなった。しかしこの機能を取引所が搭載することは“一義的には”不可能のようである。ここからは私の理論的な推測だが、取引所はマーケットメーカーであろうと個人であろうとそのオーダーブックに到達した注文(すなわち買値、売値)は全部本物であるという前提に立つ。自らそれらの注文をフィルタリングして注文としての受付を拒否するなどという行為はありえない。したがって今回のランド円にしてもそれは単に、流動性がなかったのだから仕方がなかったとなる。そのレートを出していたマーケットメーカーにしても、そのレートでの約定を実行する義務があり、そうしなければならない。むろんこういうケースでマーケットメーカーは、スプレッドは変えずに左にずれていれば損得どちらに転ぶかはわからないが、ビッドだけを思い切り下げて出していれば儲かったことになる。それが卑怯だというなら、個人投資家もそういう棚ボタを期待して常時、2円ぐらい上下に売り、買いの注文をいれておくと“おいしい”ことが起きるかもしれないが、狙ってするほどの価値があることではない。

店頭で許されることが取引所では許されないというこの問題は当初からひとつの論点であったと思う。個人的に、本来取引所の存在意義として、そのスペックの商品が取引できるのは世界でもここだけ、という「一物一価の原則」が成立していることが大きい。それが最大の魅力である。ところがFXにおいてはそうではない。逆にとてつもなくマイノリティである。だからこういうことが起きるのである。

私なりに、以上の考え方のポイントを簡単にまとめてみる。


▼店頭ではプライスを出す主体が業者であるからその約定の判断において業者が一定の裁量権限を持つ。

▼店頭では、裁量の判断に業者の中だけの相場水準ではなくインターバンクのそれとの“裁定”を前提に置いている(意識していないかもしれないが客観的に言葉で説明すると現実にそういうことをしている)。

▼したがって、店頭の流動性の限界はインターバンクの相場との裁定という原則で流動性の枯渇(NDDモデルとDIモデルでは考え方は違うが)に対してもその裁量権限の範囲で修正が可能である。

▼一方、取引所はプライスの有効性についての判断に裁量権限を持たない。あくまでも受注したもの(オーダーブックに到着したもの)は全部“本物”である。

▼したがって、取引所は実際のインターバンクの水準がどうであるかという“裁定”をベースにした約定の調整という考え方を採用できない。

▼つまり、取引所は、あくまでもマーケットメーカーにがんばってもらわない限りこういう現象はなくならない。あるいはそういう流動性の問題がありそうな通貨は上場しないほうがよい。

▼ということは取引所のFXを生かすも殺すもマーケットメーカーの政治的、IT技術的コミットメント次第。

ということになるのは明らかではないだろうか。


ここから余談である。そもそも、取引所取引というのはそれがマーケットメーカーであろうと個人であろうと取引から決済までのスペックが同じでなければならないはずだと思うのだが、現状そうはなっていないはずである。個人は日々スワップ金利が現金(通貨がなんでも円)で発生するが、インターバンクのマーケットメーカーとはそういうやり取りはしないはずである。あくまでもインターバンクのルールにのっとった決済をしているはずである。マーケットメーカーであれ、個人であれ、スワップ金利が(取引所いわく)「公正」なチョイスで単位あたり20円であるならショートしている相手からロングの人に20円が渡される構造でないとおかしいとおもうのだが、そうはなっていないはずである。そういう細かい部分ですっきりしないのは私の性分であり、私だけのたわいごとだとおもうし、実際、世の中そんな些細なことを気にするなという雰囲気で動いているのも十分承知している。でも、気になって仕方がないのである。そういう部分をちゃんと考えているCMEなどがあるからこそ余計にそう思ってしまう。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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