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尾関高のFXダイアリー

DMAと“DMMA”

 インターバンクと呼ばれる概念上の市場において、為替等の売値買値(マーケット)を提示する金融機関をリクイディティプロバイダー(Liquidity Provider)と呼ぶ。流動性供給者の意味である。かれらは、ロイターやEBS等から他者がいくらの値段を出しているかという情報を元に、自らのマーケットを作り出して提供する。一旦顧客によって成立したポジションは、彼らが独自に作るリスクマネジメントのシステムの中で分解、統合され、適宜不要なポジション(外してしまいたいリスク)は、他のインターバンクの金融機関にヘッジしたり、逆のポジションとなる顧客の需要に当てたりしながらも、その多くはオープンなまま値洗いに耐えつつ、リスクコントロールをしながら利益の最大化を図る(銀行のポジションが全部閉じるときはつぶれるときしかない)。こういうリスクをとりながら自らのプライスを提供する機関をリクイディティプロバイダーと呼ぶ。

一方、他者から放り込まれたポジションを速やかに他の金融機関にフルヘッジする機関(業者)は、マーケットメイカーであったとしても本来のリクイディティプロバイダーとは言いがたい。むしろ、マーケットメイカーですらなく、OTCのスタイルでおこなう、実質上のブローカーである(私が知る欧州の本業界関係者は広義に、OTCであっても“ブローカー”と呼ぶ人が多い)。以上は用語の意味合いについて。

さて、話しは本題に移って、CFDで見たり聞いたりするようになった「DMA」という言葉についてである。これはDirect Market Accessの略で、直接市場アクセスの意味である。業者によって中身のモデルをいちいち確認していないので、以下の話は大まかにそうであるという意味でご理解いただきたいが、DMAをCFD取引の仕組みでうたう業者の場合、投資家が自宅のPCから発注する注文が直接、といっても業者のサーバー等を経ながら、リアルタイムに取引所のCentral Limit Order Book(中央指値注文ブック)に送信される(取引所が認識する注文は常に指値であり、成行きとかストップとかいう概念はない)。ここでいうDMAの“M”のさす市場は、あくまでも「取引所の市場」を指している。DMAでない場合は、一旦業者のトレーディングブックに落とされ、あとは適宜ディーラーやアルゴリズムの判断で、取引所や反対の注文にぶつけたりしてリスクをコントロールしながら利益を生み出していく。こういう後者をリクォート業者と彼らは呼ぶ。

一方、LPのプライスを参考に顧客への提示レートを作成するが、顧客がそのプライスを叩いても、上述のようにダイレクトでなく、フルヘッジでなく、常に1対1の関係とは限らず、そのプライスの提供もとの銀行にかならずしも約定リクエストをかけず、一旦業者のブックの中に、たとえそれが数秒であっても溜め込んでから適宜アルゴリズムやディーラーの判断でヘッジを行う場合、私としては、ブローカーとは呼べない。その姿は銀行のディーリングと同じで、マーケットメイカーと呼びうる。日本においては、後者のほうが圧倒的に多い。このほうがなんとなく高尚な感じがするが、そのモデルを継続するには緻密なリスク管理能力(知識、経験、IT技術)と潤沢な自己資金が必要になる。倒産のリスクが相対的に大きいのだから、規制当局があまり好まないのもうなずける。ましてや、リスク管理の経験が浅い業界から気軽に参入されては枕を高くして寝られないだろう。それは、行政的に一蓮托生の同業他社にしてもそうである。


相当話しがそれて申し訳ないが、実は今日の本題はここからである。

最近日本では、前者の限りなくブローカーや取引所に近いモデルを「DMA」という用語をつかって紹介するようになりつつあるが、冒頭でも述べたように、これはつなぐ先が取引所の場合を前提とした用語である。“M”は市場であるが、ここでは「取引所」を指す。一方OTCのFXの場合、顧客から見た市場がどこにあるのだろうか。上の“それた”話の中で答えているが、概念上、それはその業者の持つサーバーの中にあるといえるのではないか。取引所の持つCentral Limit Order Bookに相当するものは、FXにおいては各業者の持つFXのサーバーの中にあるのが一般的である。物理的になくとも責任範疇としてはそうでなければおかしい。そこで、売り注文と買い注文が客同士もしくは、FX業者とぶつかり合って(細かいことを言うが、ヘッジしなくても業者が客の買い(売り)注文を約定させれば、それは業者が客に売った(買った)ということでぶつかったという意味である)、その後、約定の通知が顧客へ、そして、約定のリクエストがカバー先銀行へと発信される。銀行側がそのリクエストを拒否するかもしれないというリスクは業者が負う事になる。そういう違いを明確に分けるなら、FX業界でおこなう“ダイレクトにカバー先につないでいます”という仕組みは、DMAとは呼ばず、たとえばDMMA(Direct Market Maker Access)とでも呼び変えたほうがよいのではないか。つなぐ先が「市場」と「カバー先」では意味がまったく違う。特にFXと証券、商品等のCFDを平行して提供する業者の場合は、そのほうがよいと思う。

DMAという用語をこのFXのモデルで使うとき、CFD等にかかわる業界の人から見ると、その業者は、FXのシステムをFXの「取引所」につないでいるという意味に勘違いする可能性がある。実際、FXの取引所市場は、CME等の海外に求めるまでもなく、いまや日本でも2つもある。自然、日本のFX業者で“DMAです”とうたうと、TFXや大証にCFDとしてつないでいるのか?と、その筋の専門家なら勘違いする可能性があるのである。

繰り返すが、誤解を避けるという単純な理由で、OTCでおこなうFXにここでいうダイレクトな注文約定(ブローカー)モデルを採用する場合、「DMA」ではなく、「DMMA」(Direct Market Maker Access)ではどうだろうか。このほうがより実態を表していると思うのだが。あくまでも、誤解の温床を早めに摘んでおきたいというシンプルな話として、である。個人的な問題で恐縮だが、特に海外の業界関係者と話しをするときにややこしくなるのである。(海外の規制当局と話しをする金融庁の方にとってもその方がいい?)また、日本でFXの取引所が2つもある今となっては、取引所のFXを原資産とするFX-CFDもありうるし、海外においては実際に存在するのだから(*)、それらと用語を分けておきたいと思うのである。



*オーストラリア証券取引所(ASX) の普通の通貨CFDと、ロンドン証券取引所(LSE)でのソシエテジェネラル一社によりマーケットメイクされる(ターボス Turbos)で、よりワラントに近い通貨CFD


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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