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尾関高のFXダイアリー

取引所参入について思うこと

ついに大証FX参入です。これでOTC業者100社以上の満員電車に2つ目の取引所がさらに入ってきました。現在の参加業者は7社。さてその魅力とは。


■オークション方式


MM(マーケットメイカー)方式とオークション方式の違いはあれ、それがいかほどのものかは実際のスプレッドと流動性ということになる。しかし、MM方式だけでなくオークション方式にこだわったのはさすがに大証かなと思う半面、MMが2社しかいないのは残念。MM方式だけでは取引所としての「伝統的な存在意義」が薄いのは否めない。
OTC業者でおこなわれる取引のざっと80%は「成行」だと思っているが、これらはオークション方式にしても“板”としては出てこず、実際には大した指値はMM以外にはいないように見える。


■指値の隙間


それ以上に、OTCで現在スプレッドが1.0とか0.8とかのフラクショナルまでクォートされ始めた時代にMMの内側で指値ができる(!)とか言われても、そこまで狭いと指すべき隙間がもうない。逆にMMの間で指せる隙間がたっぷりあるときはOTC業者のほうがスプレッドははるかにいいことになってしまう。MMの後ろに常時ぴったりと自分の指値をおいていても努力の割には報われない。


■板


板が見えるとなんか楽しい気がする。自分の注文が単独で画面の視野に出てきたりするとなんかうれしい。しかし、取引所の取引は世界中のOTCでの取引の何%だろうか。それをもって全体の市場のモメンタムを見ることはできない。むしろ誤った情報の受け取り方のほうが危険である。ビッドが分厚いからといって上昇するという意味にはならない。株を長年やっている人ならよくわかる話である。CMEの板をみて明日の相場を予測する人はいない(取り組みは多少参考になるが)。つまり、板に騙されないように、ということである。ましてやMMとなる金融機関が1,2行しかいないのであればなにをかいわんや、である。すくなくともFXにおいて、取引所の板が見えることで勝率が確実に上がるという話は聞いたことがない。


■卸と小売が共存するマーケットメイカー(MM)


大証はオークション方式。TFXよりも取引所らしい。ただしMMをFX業者にまで広げるためインターバンクはMMになることに二の足を踏むだろう。私のような経歴を持つ人間には、卸と小売が同居するのは直感的に“おかしい”のである(慣れていないと言うほうが正しいかもしれない)。まだ銀行は一行しか入っていない。だからか。ましてや小売が卸よりもいいプライスをだしたら論外となる。どっちが“卸し”なんだろう、ということである。本来銀行だけでMMを揃えたいが、やむなくFX業者にもという流れならわかるが、最初から銀行も、FX業者でも誰でも、という営業スタンスだとすると、こうなにか、根本的にFXの構造的な部分が崩壊していくような気がする(この部分、多分に独断的、感傷的な意見で恐縮です)。


■違い


MMがTFXでも大証でもOTCでも同じであるなら、それらのプライスは大まかに同じであるはずであるが、今のところそうではないようである。少なくとも裁定取引はできないはずである。そうなると投資家目線での差別化は、プラットフォームの使い勝手の良し悪しぐらいしかない。あとは、取引所の強みである税制優遇とネームバリューとなる。


■スワップチョイス


ちなみに大証FXもTFX同様スワップはチョイスである。銀行と業者ではスワップのキャッシュフローの構造が違ったりするので、この点は処理が大変になるだろう。銀行側もよく付き合うものだと感心する。大証もポンドドルなどカバー先(銀行)が一義的に外貨決済になる通貨ペアを採用しているが、そうなると対顧客と対MMで外貨持高(NOP)が合わなくなるし、円転コストがコントロールできなくなるが、そこから生まれる損益というのは取引所としてどう扱うものなのだろうか。TFX然りで、私にとっては謎である。CMEもこういうことがイヤだから(扱えないから)わざわざドル円でも円ドルにして逆数でクォートしているのである。そういう意味ではCMEには謎はない。私の中にある昔ながらの取引所の定義がどんどん崩れてOTC化している気がする。


■分離保管


分離保管に関しては、信託が義務づけられた今となってはあまり差別化要因だとは思わない。むしろ業者単位で完結するほうがリスクの分散(類焼・延焼しない)としては効果が高い。集中主義はIT革命後においては、それ以前ほどの意義を持たないというのが私の持論である。むしろリスクの集中となる。


■集中していない上場商品


日経225先物は大証のシステムが止まれば世界的にとまる。並行稼働するSGXとて裁定対象市場が止まれば実質ストップするはずである(これは私の勝手な想像です)。しかしFXは違う。日本の取引所システムが停止しても、世界のOTCのFX市場は止まらない。そんなときあなたならどうする? 取引所は、OTCのように便宜ははからないしはかれない。取引所のサーバーで発生する取引がすべてなのである。訂正や補てんはまずない。停止中につくべき注文をあとから約定したことにはしてくれない。


■制優遇があまり効果を発揮しないケース


目玉のはずの税制優遇だが、実はかならずしもすべての面において得はしない。損金の繰り越しについてはまったくOTCは歯が立たないが、分離課税についてはケースバイケースとなる。ここに取引所有利とならない単純なモデルケースを紹介しておく。



ドル円を想定。取引コストは標準的なスプレッド+手数料を1ドルあたりで計算。現状2ポイントが取引所の常識的なスプレッドで、OTCは同じかそれよりは小さい。手数料については、1万ドルで100円なら=100/10000= 0.01(片道)=0.02(往復)となる。上記例では、片道手数料105円で(消費税の5円)、スプレッドが2ポイントとしたので0.041となる。一方、OTCは2銭クォート。これは標準的。税率は取引所で20%、OTCでは、雑所得は個人の他の所得と合算されるので税率は確定できないが一応30%で計算。ここでの「目標利益額」は、概念として、手数料もないし、スプレッドもゼロの市場で取引したという過程で比較する数字をまず出して、そこからスプレッド分のコストと別途手数料コストを差し引くモデルにしてあるので、結果としての純利益の数字をにらみながら、目標利益を動かす。結果は、OTCのほうが税引き後の利益が多い。これはひとえに、取引コストがOTCの倍かかることから生まれる現象。では、OTCの税率を40%にしたらどうなるか。



ほぼ拮抗する。当然ながら取引コストが倍かかる分税率が半分になるから拮抗するのである。
さらに、OTCで1銭スプレッドでやっている業者を想定してみる。取引所のコストは現在キャンペーンで手数料無料もあったり、スプレッド2ポイントで、日ばかりで半額というセールもあるかもしれないが、手数料が片道100円(1Pip分)+消費税のセットはしばらく続くだろうと考えると・・・。



当然OTCのほうがよくなる。

 簡単な言葉でまとめると、手数料を含めた取引コストがOTCの倍かかる限り、税制優遇での20%と雑所得での40%は拮抗するのである。一方、損金の翌年への繰越と他の株等の取引所取引の損益を合算できる点は取引所の既得権益でOTCに勝る“サービス”である。それらがうまく有利に働くという目算が立っている人は確かに取引所取引のほうが有利だが、一年、二年後のことを考えてそれを見極められる人は少ないかもしれない。


 立場的にOTC擁護派になる私としては、当然OTC有利な話だけを持ち出すと思われるとしゃくなのであえて言うが、取引所がその特権を武器に殴りこむならOTC並みの流動性とスプレッドを提供しないとせっかくの武器が光らなくなってしまう。現状はそういうことだ(光ってない)と言える。また、1時間もサーバーメンテで止めてしまうのも早々なくならなければいけないだろうし、MMも増えないと(せめて銀行5行以上、業者は別)困るだろうし、まだまだ改良するところはいくらでもあるということである。ただ取引コスト的にOTCに勝つことは構造的に無理だといえる半面、損金の繰越、損益通算の特権は光り輝く。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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