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尾関高のFXダイアリー

レバレッジ規制に関する府令改正案等について(後編)

→レバレッジ規制に関する府令改正案等について(前編)はこちら


追証制度復権か?


繰り返すようだが、府令改正案において、顧客にポジションを建てさせてもいいが速やかに4%分に不足する額を徴収しなさいといっている。4%を割り込んだらすぐにロスカットを発動しなさいとも書いていないし、意図しているようにも見えない。むしろ、昔ながらの「追証」サービスの復活を認めているように見える。これはすべての業者がシステム的な自動ロスカットを採用しているわけではないということに配慮を加えたものだろうがその配慮が隙を生みはしないか。前受け+リアルタイム・ロスカット機能をシステムに搭載している業者なら、「追証」という経営リスクやコストを増大させるようなルールよりも、さっさとn%タッチでカットするほうが安心で簡単だし、顧客にとってもずるずると「追証の罠」に陥らずに健全なのだが、このあたり、なにやらおかしな匂いがするのである。


時代の逆行/追証の罠


追証は「直ちに」請求してもすぐに入るとは限らない。その間業者は待たなくてはならない。4%タッチして、追証を待つ間、さらに相場が動いて有効額が減り、いまや2%レベルになっているとする。そうなると業者と顧客との間の会話で、“1%までは待ちますが、それ以上割り込んだらシステムが自動でロスカットしてしまいます。そのことに同意の上で弊社とのお取引を開始しておられますが、あとはお客様が追証拠金を入金されるまで、有効額がロスカットポイントに達しないことを祈るだけです”、という状況になる。果たしてこの状態は許されるのだろうか、また許されるとしたら時間的な制約はあるのか。許されないとするなら、結局4%=ロスカットとなるが、そうなるなら改正案も「不足したら速やかに不足分を取り立てなさい」という意味の表現ではなく、「4%にタッチしたら強制的にカットしなさい」という意味の表現でいいはずである。ロスカットルールを強制する前提がないのでこういう踏み込んだ表現ができないのか。だとしたらそれはいいことなのか。


証券を参考に・・・


証券のルールを参考にしているという話しも聞くが、証券の信用や先物の旧来のルールやそれにのっとった運営方法よりもFXのほうが先進的で進化している。FXはIT革命とともに生まれ育ってきたので70年代や80年代からの古いしきたいりや遺産に縛られてない。一方証券はそれらの歴史に縛られるので、簡単にこっちがいいから変えようとはいかないため、問題があってもなかなか変えられない。証券のやりかたをそのまま参考や比較対象にするのは間違いだと思う。

証券の信用はレバレッジ実質3.3倍が定められている。為替にはない。ないFXがおかしいのか、ある証券がおかしいのか。昔は必要だった、では今は必要だろうか。なぜ昔は必要だったかを分析すれば、いま必要かどうか、あるいは今のアプローチが妥当かどうか見えてくるのではないか。


悪魔のささやき


投資家にとっては、4%以上の有効額を維持しないと、新規のポジションが建てられないのでレバレッジが25倍に拘束されることに変わりはない。しかしこの方法だと、カットされるポイント(もしくは制限時間)にいたるまで、追証を払いますか?という“悪魔のささやき”がやってきてしまう。これがいけない。損切りたくない人はここで無理して追証に乗ってしまうことがある。そうなると、そもそも最初の(たとえば)50万円だけでやろうとしていたのに、なまじあと10万円追証払いますか、というチャンスをもらうと払ってしまうことがある。これが、結果当初予定しなかった損失となる。この追証方式が投資家保護にならないことは昔の商品先物や古いスタイルを守る証券の信用・先物業者の例を見れば明白だし、だからこそ今の強制ロスカット、追証なしスタイルに進化してきたのである。当然この追証は取り立てられないリスクも増大させてゆくので業者リスクでもある。証券のほうが未収金は多いはずであるが、その多くはこのモデルの違いによるのではないかと思う。


4%の妥当性


1分毎にマージン計算をするシステムを使う業者と一日に一回しかしない業者を同じレベルでは比較できないことはすでに述べた。だから、マージン計算の頻度、インターバルに応じたボラの計測をおこなってそれに応じたカットラインを設定するような指導で十分機能する。そういう指導の実践からまず始めてはもらえまいか。現状、1分単位でやっているところなら1%(レバレッジ100倍程度)で十分対応できる。ただし週末は別。


週末リスク


そうした頻度の高いマージン計算をおこなう業者でも避けられないのは週末のリスクである。これはドル円で大体2円ぐらいが最大とすると2%(50倍)となる。平日は1%でやる業者なら、週末だけ引き上げるというWeekend margin の考えを搭載することで対応できる。1%スレスレでポジションを持っていた顧客は土曜の午前3時までとかに2%以上に回復するように証拠金を追加するかポジションを落とさなくてはならない。海外のCFDではよくある仕様である。証券は日々場が閉まるとそうする。週末だけではない。参考まで(だから証券と簡単には比較してはいけない理由のひとつである)。


以下、改正内閣府令と公示案から括弧をはずしたものです。アンダーラインは筆者。


金融商品取引業等に関する内閣府令

(禁止行為)
第117条 法第三十八条第六号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。

二十七 通貨関連デリバティブ取引に係る契約を締結する時において顧客が証拠金等預託先に預託した証拠金等の額に当該通貨関連デリバティブ取引を決済した場合に顧客に生ずることとなる利益の額を加え、又は当該通貨関連デリバティブ取引を決済した場合に顧客に生ずることとなる損失の額を減じて得た額が金融庁長官が定める額に不足する場合に、当該契約の締結後直ちに当該顧客にその不足額を証拠金等預託先に預託させることなく、当該契約を継続する行為

二十八 その営業日ごとの一定の時刻における通貨関連デリバティブ取引に係る証拠金等の実預託額が金融庁長官が定める額に不足する場合に直ちに当該通貨関連デリバティブ取引に係る顧客にその不足額を証拠金等預託先に預託させることなく、当該通貨関連デリバティブ取引に係る契約を継続する行為


金融商品取引業等に関する内閣府令第百十七条第一項第二十七号及び第二十八号に規定する額を指定する件

第1条 金融商品取引業等に関する内閣府令第百十七条第一項第二十七号に規定する金融庁長官が定める額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に百分の四を乗じて得た額又は当該額に外国為替相場の変動を適切に反映させた額とする。

一 当該額を、顧客が行おうとする通貨関連デリバティブ取引のみについて算出する場合 当該通貨関連デリバティブ取引の額

プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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