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尾関高のFXダイアリー

レバレッジ規制に関する府令改正案等について(前編)

ルールと実践


レバ25倍、50倍規制、という「概念」を実務に落とし込むとき、初めてその実態が浮き彫りになる。また、そこで初めてその「概念」が「現実」にフィットするかしないかが試される。そのズレが、解釈論で守備できる範囲で収まるか収まらないか。運用上、システム変更で対応できるかどうか、矛盾はないかどうか、そうしたことが見えてくる。


方程式


常々思うが、金融の規制については、代数で表現できるものはしたほうがよいと思っている。方程式は、曖昧さを排除する。見つけにくい法の穴を見つけてふさぐことも出来る。民法、刑法ではこうはいかない。実際、市場リスクの計算などは府令その他で具体的に方程式が備考に添付されている。できないことではないのである。一方、法をつかさどる側は常に解釈に幅を持たせたい(曖昧さを残したい)。その矛盾が美しくバランスしているときはいいが、バランスを崩したときが困り者である。


改正案のベース


全体として、昔ながらの電話で受注し、証拠金管理は手作業で一日一回、不足があれば追証を求めて明日中には入金してもらうか、あるいはさっさと顧客の意思で決済してもらうか、という昔ながらのやり方を前提として改正案は作成されているように見える。これだと多くの業者が、システム化により進化したやり方にうまく解釈があわせられない部分が出てくる。美しくバランスせず、みにくく歪んでしまう。


管理方法


1)必要証拠金方式(マニュアル型)

昔からの先物(商品、証券ともに)の流れを受けたやり方だろうと思うが、まず、ポジションを建てるために必要な額を定義し、有効額がその50%(例)を割り込んだらロスカットします。という類のやり方。実は、わたしも98年にFXを始めたころはこれでやっていた。電話受注というかプレIT革命業務形態になじんでいるからである。シンガポールでのフューチャーズ業者も96年ごろだが同様であった。そもそも、この方法は電話で取引し、証拠金の値洗いは通常一日一回、ただし相場があれたときはその都度、ポジション強制カットは担当者の判断というやり方になじむ。
現在、香港のFX業ではこの必要証拠金方法が義務化されているそうである。無論実装する業者はシステム化している。


2)単純ロスカット方式(自動システム型)

ロスカットポイントだけを定義しているやりかた。いくら預けるかは顧客次第なので、たとえば、1%でロスカットするなら、理論上1%よりも多い証拠金を入れないとポジションが維持できない。システムの発展、高速化とともに、余計なものをそぎ落とした一番進化したやりかたである。この場合、ロス(マージン)カットするかどうかの判断をする計算が早い業者で数秒に一回、遅いところだと一時間に一回などばらばらである。
頻度が高いほどスリップや未収金の問題は少なくなる。この辺の業界の運用実体は今回の改正案にはまったく反映されていないように見える。一番の“売り”なのだが。だからこの方式を実践する業者には改正案が読み込みづらい。


マージンの計算頻度↑とレバレッジ↑の相関性=1


また、この計算頻度を上げれば上げるだけレバレッジを高く提供することができるようになった。今の25倍規制を前提にすると感覚的にだが、数秒に一回とかの運用は不要で、普段は2時間に一回とか12時間に一回で、相場がそのインターバルで2円以上動き出したら計算頻度を上げる等の運用ですむことになる。結構サーバーに負荷がかかる処理なのでこの頻度を下げられるのは運用側からすればありがたいが、その分顧客の資産は守らなくていいということになってしまう。内閣府例117条第11項28号では、「顧客の実預託額がポジションの4%を割り込んだことがわかったら直ちに不足額を請求しなさい」「その計算は一日1回でいい」と読める。どうせ4%以下に下げられないのなら、計算頻度もその分さげてシステムの負荷を下げようという考えもありえる。それは時代の逆行、サービスの低下である。


ロスカット機能の搭載は義務ではない?


ロスカット機能が働いているかどうか信用できないから、「ない前提での4%だ」という解釈にも見えるが、その前提で動くがために、せっかく1%で顧客資産を安定して守れるシステムを運用してきた業者でやっていた投資家から見ればそのメリットが喪失することになる。これは過剰な投機とかいう問題とは次元が違うはなしで、サービスの低下を招く。


信用できない機能だが、でもロスカット機能はつけなさい?


その一方で、そんな機能は、結構システム障害で不能となる例があるため、実際信用していないが、つけられるなら付けなさい、しかしつけたところで、法令の規制は、差別なくそれがない前提で適用します、といわれている気がする。つけ損ということになる。つけたところで、投資家には相変わらず4%以上ないと建て玉できないことに変わりはない。

追証制度かロスカット制度を採るかが普通の流れだが、追証とロスカットの機能を同居させたい場合には、さらに複雑な仕様変更が必要になるし、法的解釈論においてグレイなゾーンへと迷い込む(できれば次回これについて展開したいと思います)。


前受けと後受け


注文を出すときに、あるいは約定する直前に証拠金が足りるかどうかを計算し、不足の場合はその注文を不成立にするのが「前受け」。とりあえず成立はさせて、あとから不足額を要求するやりかたが「後受け」。改正案は「後受け」を容認しているように読める。ポジションを建てた直後に不足額があれば顧客から徴収しなさいといっている。投資家保護の観点からは、危険なやり方である。旧式のやりかたを認める以上こういわざるを得ないとは思うが、だからといって前受けをしている業者が後受けに変えたらいい顔はしないだろう。前受けのほうが投資家保護の主旨には沿っているのだから。本来この際後受けを禁止してもらいたいぐらいであった。


想定元本の計算


ロスカット判断をおこなうポイントの額の計算方法には、以下のタイプに分類できる(この話しをするのは懐かしいです)。細かい違いの説明は割愛する。

1) 定額法
2) 定率法
3) BOE方式(NOP by Single Currency)

改正案からは、定率法を前提としているように読める。すべての通貨ペアを先物銘柄として認識する前提である。となると、通貨ごとのネッティングを可能とするBOE方式(市場リスクの計算で金商法(旧金先法、証取法から)にて採用されている計算方法である)は否定されるのだろうか。現状これに対する配慮がないが、わたしの知る限り2社(国内系1、海外系1)採用している。日本で始めたのは私である。そのほうがリスクのヘッジとして理論的に整合性があるからである。無駄に、余計に顧客から取る必要はない。

難しい話だが、市場リスクの議論としてならばBOE方式の考え方こそ一番筋が通っている。だからこそBIS規制でも、金商法でも採用されているのである。業者がどういう計算方式で顧客に提供しても、法律としては業者に対して、このBOE方式ベースで統一してすべての業者のレバレッジの提供状況を検査して、25倍が守られればよしとする、というやり方でないと、業者ごとに微妙に違うやり方を鵜呑みにして、出てきた数字である「A社は定額法でレバレッジ23倍と報告」「B社は定率法で27倍」だったということを単純比較はできない。25倍を守っているかどうかの判断基準が定まらないのである。それを検査する側も大変である。しかし、この点曖昧にいこうという感じがする。大体合っていればOK、である。

→レバレッジ規制に関する府令改正案等について(後編)へ


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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