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尾関高のFXダイアリー

それでもレバレッジ規制は25倍になるのか(前編)

影響


正直びっくりだが、本当に25倍で決着するのか。いまだ半信半疑である。たぶん市場は一旦縮む。成長力も鈍化する。先頭を走るハイレバ・ネオ業者の収益は落ちるが、つぶれることはないだろう。ただし業界としては特徴を出しづらくなるかもしれない。出ていける業者は海外へでていくだろうが、見たところまずない。逆に少しは海外のFX業者に乗り換える投資家が増える。米国で両建てが禁止になるとすぐ始まるのは口座を海外へ移す話であるが、実際にはそうした動きはごく一部らしい(数%)。イギリスは日米のような規制がないのでマグネットである。昔は日本から海外へということは規制が厳しくできなかったが今は簡単にできてしまう。海外系の取引システムもいまやマルチ言語当たり前で、日本語でできる。日本国としてはもったいない話である。その分の税収が消える。一方、業者の意識としては戦う相手は国内だけではないことになる。ただでさえ海外系が入ってきているが、彼らは中でも、外でもチャンスが増える。そこで土俵のルールが国内業者に不利なのはきつい話だ。日本の業者は海外に打ってでていけるだけの能力や意欲がない。


25倍(4%)の根拠


それらしいものを私はまだ見ていない。少なくともその論理的な根拠が示されたものを見た記憶がない。見たのはSESCの建議の中でだけである。リーマンショックのときの相場を想定して、それがもう一度起きても足がでない(カット後取引口座残高マイナスになること)ようにしなさい、というのなら、その時でもレバレッジ100倍から200倍でありながら足がでる口座を発生させていない業者の立つ瀬がない。そんな上手な運用をしていた業者などいないだろうと思うかもしれないが事実としてある。そのうちそれらデータを開示する業者も出るだろうか。


業界の、少なくともシステムに何億、十数億もかけている業者は2009年10月6日と10月26日の締めでの足が出ている口座数等の開示を共に行って、一日の変動幅(高値−安値)と足が出ることとには有効と言えるレベルの相関性がなく、そもそも因果関係が希薄であることを主張するべきである。原因(因果)は、下段で述べるが、他にあるのである。

ちなみにリーマンショックのときは10月6日が5円ぐらい、26日が8円ぐらい動いている。これはレバでいうと最高14倍(7%)ぐらいである。本当なら14倍(7%)と言いたいところ温情をいただいて25倍(4%)にしてもらった感じがする。前回日経新聞に載っていた20倍から30倍の真ん中を取ったのだなとも見える。繰り返すが一日の変動幅は足が出る直接原因ではない。


実は週末ギャップのほうが・・・


実際には、むしろ一日の変動よりも、週末のギャップのほうがインパクトは大きいのである。この辺のデータは各社出してくれれば色濃く見えてくるはずなのだが。業者側も、もっともっと具体的なデータを出して議論してもらえたらと願う(その議論に金融庁が乗ってくれるかどうかは定かではない)。


MC(マージンコール)計算は一日に一回、を前提とすると


一日分の変動を見るのではなく、システムがMC(マージンコール)を判断する計算をする「周期」をベースにするべきだという考え方について。一分毎にMCチェックをしているならそのインターバルでの変動率(偏差)を対象とするべきで、一日に一回しかしない業者であれば、一日のそれ(高値と安値の差)をベースにレバ(強制ロスカットポイント)を設定してもおかしくはないが、1分ごとにやっている業者は1分の高値と安値の差をレバレッジの根拠にしてもいいはずである。それでもMC計算を一日に一回しかしない業者を前提として考える、といわれたら、今まで膨大なシステム投資をつづけ、1時間毎から10分毎、1分毎、そして数秒毎の頻度でMC管理をやるように改良し、その代わり安全にレバレッジを引き上げてきた業者の努力が報われなくなる。


いやみな言い方だが、一日の変動全部をMCスリップリスクの対象とするベースで25倍までというなら、逆にMCのチェックは一日一回でいいことになる。なにもシステムコストを余分にかけて数秒毎とかにやる必要はないと考えることもできる。時代の逆行である。そのかわり、ドル円1万ドルで4万円のカットラインとしても、最大24時間後に判断するので、300円しかのこらなかったとか、その時間分のスリップは大きくなる可能性が高くなる。結果投資家の損失はより大雑把に、大きくなりやすくなる。こうなると本末転倒である。

一日一回の4万円のリスクと5秒に一回の千円のリスクは同じリスクプロファイル上にいるのである(数字は適当な例)。


無駄な資金


逆にそういう高水準なMC管理を維持する業者としては、4%とかになると、まずもって4万円の証拠金は流動性が薄いときでも3万8千円ぐらいをのこして(スリップしても2千円ぐらい)で管理していますという宣伝文句になっていく。底溜まる3万円ほどの資金が無駄に見えてくる。現実として数秒単位で再計算するシステムの場合、その程度になるはずである。確かになんとなくの安心感があるが、これはレバを制限したことから来るのではなく、MC計算が頻繁(数秒)だからなしえる効果なのである。その点を意識したら、規制の条件は、たとえばこのように展開しうる。こういう規制の設定の仕方なら、かなりうなずけるのだが。

・1分毎以内にMC管理している場合は 最大レバを100倍まで認める
・1時間以内の場合は50倍まで認める
・24時間以内の場合は25倍まで認める


レバレッジの定義


まだ示されていないはずである。現存する、定率、定額、NOPのどれにも適応されうる方程式がでてくるか(※)、その辺はいつものように曖昧な表現ででてくるか。カットするタイミングの有効額(残高)を想定元本(ネットポジション)で割る計算式になるのか、あるいは違う選択肢も示されるのか。
(※ 29日に出された改正案の表現だとどれにも適用しうるような、そうでないようなわかりづらい表現になっている。また倍率計算の分母となる証拠金がカットラインを意味しているのか、必要証拠金や維持証拠金ルールを採用している場合はそれらをさすのかも明示されていない。この辺は個別に行政指導でとなるのだろうか。)


週末リスク


冒頭でも触れたが、システム障害要因をとりあえず横に置けば、まともにシステムを運用している業者において、実際のMC後の証拠金不足を生み出す一番の原因は週末のギャップである。日中の変動というよりも、MCの計算に使われるひとつのレートから次のレートへの差の最大値をとれば、間違いなく週末のギャップが一番大きいはずである。今年に入って、2円程度のギャップがドル円で生じていることが、何度かあったが、2円を基準にするとドル円で2%になる。つまり1%とか0.5%の証拠金でぎりぎりでポジションを持っていた口座は売り買いの方向が不運だった場合は、確実にMCとなり、足がでているはずである。海外系のシステムはその点を考慮して、レバレッジを高めていく過程で週末のマージンを特別に加算するルールを設けている業者もある。CFDではほとんど入っている。参考になる。


真犯人はレバレッジではない


よって、真犯人はレバレッジの高さではない。正確にはそれだけではない。他には、

(P) MCシステムに流し込まれるレートの流動性(刻みの細かさ)
(S) システム稼動の安定性
(R) インターバンクカバー先からのレート供給の安定性

がある。これらのどれもが犯人となりうるのである。レバレッジだけを規制してもそれ以外の要因が発生すればMCで証拠金不足は起きうる。上記週末のギャップはモデルの(P)に入る。

→それでもレバレッジ規制は25倍になるのか(後編)へ


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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