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尾関高のFXダイアリー

インターバンクの流動性と顧客の約定を紐付けていない場合のリスク

今回はできるだけわかりやすく説明するために、かなり具体的な例で説明を試みています。かなり細かいですが、お気に召す方のみご一読ください。


インターバンクの流動性と顧客の約定を紐付けていない、いわゆるDIモデルで、顧客の取引画面に送り込んだプライスがすべて約定を保証する場合で、ストップ注文にスリッページなし、あっても数ポイントの場合で考える。

こういうサービスは投資家にとってはありがたい。では業者にとってはどうか。それをわかりやすく説明するためには、異常な相場変動があった場合を用いて説明するのがわかりやすい。たとえば、インターバンクのドル円の相場が突然に99.00−01から途中何の気配も出さずに一気に97.70−98.00に動いた。そんなことがおきるのか?という質問もあるかもしれないが、過去そういうことはあった。今はそういうことは起きにくいが、ないとは言い切れない。


最後の99円台のレートが配信された瞬間には業者のブロッター(リアルのネットポジションと値洗い損益を常時表示する画面)はスクエアであった。しかしその直後一瞬の空白を経て次に配信されたレートが97.70−98.00だったとき、99円から97.70までに存在していたリミット・ストップ注文はことごとく約定することになる。98.50のリミットが約定したとき、相場は98.00オファーなので、業者は利食い体制にはいる。しかしそれがストップだった場合は、逆に業者から見れば98.50で買わされたポジションを97.70で損切らなくてはならない状況となる。つまりストップ注文はトリガーするたびにそのままカバーしていると損切りするばかりとなる。さらに言えば、多くの場合、リミット注文よりもストップ注文のほうが多い。なおかつ、マージンカットルールもストップ注文と同じ働きをする。そしてこれらは突然やってくる。結果、大量の客のストップ注文約定による業者のネットロングポジションをこの業者は一瞬にして抱え、その平均コストが98.70であったとして、その評価損は1円となる。

このとき、この業者が大手であり、そのポジションが3千万ドルあったとすれば、その評価損は3千万円であり、ポジションが1億ドルであれば、1億円となる。今の業界で瞬間的に抱えるドル円の最大ポジションは大きくても1億ドル程度だと思う(根拠の薄い推測です)。となると、1円の動きで1億円。そしてこの業者が一日にたたき出す収益が平均して5千万円とする。そうすると、一日5千万円の収益があると、年に何回か1億円の損失を出す日があるのも耐えられるという感覚になるだろう。


もうひとつ大事な視点として、あとはこうした刻一刻と上下大幅な値洗い変化を起こす業者にとっての(ネット)ポジションと値洗い損益がどれくらい正確にかつ早くリアルタイムに計算し表示するシステムを持っているか、またカバーの判断に要する時間とそれを実行するに要する時間はどれくらいかかるのかがある。これらのファシリティが伴っていないと理論上のリスク管理も絵に描いた餅となる。


適正なスプレッドとは


では、“適正な”スプレッドとはどうやって測るものなのだろう。低スプレッド業者で、一日5千万円の営業利益に対して、年間5回だけ一億円の損を出す業者がいたとして、この利益の水準と、利益のばらつきについてどう適正か不適正かの線を引くのであろうか。


インターバンクがスプレッド1ポイント平均で出しているときに、業者が1ポイント固定で出すことは、イメージとしては卸価格のままで小売しているように見えるが、そこにはOTCならではの注文の束ね、売り買いのマリーや時間差のディーリング技術、あるいはそれらを包括的にコントロールするアルゴリズムが介在しうるためそう簡単な話ではない。その採用されるアルゴリズムの出来栄えにも左右されるだろう。それらの事実をひっくるめると、簡単にスプレッドの幅に直接的な規制はかけにくい。今でこそ、インターバンク金融機関のドル円のスプレッドは1ポイント当たりまえに見えるが一昔前は2〜3ポイント当たり前であった。今や一部の金融機関は1ポイント未満を出すこともある。そうなると、今後どうなるかは今の状況が永久的であるという前提に立てない。どう転んでも、「ドル円のスプレッドは2ポイントを最低として・・・」のような表現はできない。


適正な利益かどうかを見るといっても、月次、日次などのディーリング収益額の分散とかを見ながら統計学的な用語を使っての定義はできるが、そういうのは規則になじまないのではないだろうか。

取引高をパラメータに含んだほうがいいだろうから、一日の収益(円)を一日の取引高(ドル)で割った数字(これを私はピップスス収益と呼んで管理していた)をベンチマークとして使うことも可能であるが、それに対する規制にいかほどの意義があるのかよくわからない。


監督官庁が何らかの形ででスプレッドに規制をかけてくるらしく、それは大変興味深いのだが、私が思うに、結局のところ、規制以上に効果があるのは、そうした行き過ぎのモデルがあれば現実の市場によって淘汰されることである。一方、そういうリスクがある業者には近寄らないという投資家側のリテラシーの向上は、潜在的被害者を減少させるが、これは業者側でコントロールできることではない。


行き過ぎたモデルと気づきながら漫然と対策を講じることもなく日々を過ごしたリーマンが市場の神の怒りに触れたように、そうしたFX業者にも神の怒りが落ちることでしか、本質的には変われないのかもしれない。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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