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尾関高のFXダイアリー

レバレッジ規制とマージンカット機能(前編)

 証券取引等監視委員会が、平成21年4月24日に出した「金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について」とそれと呼応するように当日の日経新聞に掲載された金融庁のレバレッジ20倍から30倍という方針の記事について、相変わらず長い文章で恐縮であるが、投資家の目線だけでなく、業者また、そのシステムを開発する人の立場をも意識して書いたつもりである。

[関連記事等]
◎金融庁設置法第21条の規定に基づく建議について=証券取引等監視委員会
◎FX、投機的取引に規制 金融庁、証拠金倍率20-30倍上限に(日経)


▼建議2について(ロスカットルールの制定)


 建議2の前半は、ロスカットルールが機能しない場合には顧客に不測の損害を与えるとして、その業者が搭載しているロスカットルールの機能不全に対しての警鐘に取れるが、後半??においては、そうではなくて、ロスカットルールそのものの導入の必要性と運用の徹底を求めている。すでにこのルールを採用している場合、その機能がデザインどおりに働かないという問題はシステムを“おもり”している立場の責任者にとっては永遠の課題のようにも見える。これについては、100%機能させるようにという命令自体が“機能”しないという現実をご理解いただけているからかどうかはわからないが、このパラグラフの結論としてそのような明確な意見としては示されていない。

それにしても、かつて、本業界の黎明期において自動ロスカットルールを採用したときに、回りから、勝手に客のポジションをカットしてはいけないのではないか、証券の信用ではできないけど、という反論を受けたときとは様変わりである。一方証券業界においてはいまだに強制即時ロスカットルールというのは一般に機能している状態ではないと思うのだが、上記??の現象は平等におきている。しかし、こうしたロスカットルール推進論は同じ金融業とはいえ証券業界においてはまだマジョリティではないのではないだろう。
以前の私のコラム記事でも触れたが??の現象が増えると、顧客、業者双方にとって業務上、精神衛生上負担が増える。この機能は双方にとってそうした負担を軽くしてくれる効果が絶大なのである。


▼建議3について(適切な保証金の預託について)


 具体的に、ここで指し示す適切な対応とはなにか、また適切な対応をとらなければならない原因としてどんな問題をさしているのかを細かく検証していかないと明確なことは何もいえない。業者が採用するシステムや運用の仕方によってこの辺はいろいろと変わってくるものだからである。また、システム的な問題なのか、営業上の問題なのか、インターバンクの問題なのかといった違いでも対応は変わってくる。これらは個別に対応していくしか方法はなく、ひとつの見方だけで捕らえることは困難である。


不測の損害

「不測の損害」が本当に“不測”であったかどうかは顧客の意識に聞かなくてはならないが、通常「相場の急変によって思わぬロスカットが発生することがある」等の注意喚起は大手の業者だとしつこいくらいやっているものである。原則、(鉄則?)ハイレバレッジ口座を開く時には、「レバレッジ効果が高い分相場が急変すればあっという間にロスカットされる」ということは自明の事実としてしっかり顧客側に知らしめなければならない。それが守られている限り少なくとも、ハイレバレッジ口座において、あっという間にロスカットになってしまったという現象は「不測の損害」の一部ではなく、それは“予測の損害”の範疇である。その点業者側が説明責任を果たしているかどうかの問題であるように思う。
しかし現実は、それでも理解したつもりの一部の投資家から、まさかそこまでになるとはという「予定理解」を超えた相場の動きに対しての不満が苦情や紛争のきっかけになることは想像に難くない。理解と納得との乖離は消えることがないのである。
LTCMが破綻したロシア危機のときにすでにこの業務を開始していた私としては、この相場の動きが再現されたらいったいどうなるのであろうかということを常に念頭においた業務のデザインを心掛がけてきたつもりだが、そのケースも含めて顧客に普段から不測ではなくて予測の範疇にどのレベルまでの異常事態を理解しておいてもらうかは業者側の努力以外にはなしえない


問題の本質 〜為替変動を見るだけでは水準はでてこない〜


建議3末尾
「したがって、外国為替証拠金取引を取り扱う金融商品取引業者に対し、為替変動を勘案した水準の保証金の預託を受けることを義務付ける等、適切な措置を講ずる必要がある。」

「為替変動を勘案した水準の保証金」という表現はわかるようでわからない。レバレッジが20倍であろうと、100倍であろうと、それらはすべて為替変動をある意味で勘案している。システムが設定するレバレッジは最低限のポジションを維持するための証拠金であり、そこから強制ロスカットをするロジックを動かすためにあるもので、どれくらいのレバレッジ(水準)で取引するかは投資化のリスクアペタイトの問題なのである。為替変動を見るだけでは「水準」は出てこない。ここら辺の議論になると、なんだか私がレバレッジを規制することに反対しているように聞こえるかもしれないが、そうではなくて、規制をしようがしまいが、こだわりたいのは本質論が歪まないことである。(そこが歪むとあとあとへんな議論がまかり通りだすのが怖いからである。)

では本質論とはなにかであるが、仮に、レバレッジが100倍でできますよというのは、そこまでかけられるという意味で、かけなさいという意味ではない。また、システムは毎日相場の変動に応じて簡単にレバレッジのパラメータを変えられない。仮にできたとしてそんなことをしたら、ポジションを持っている顧客はいつ突然自分のポジションがマージンカットになるかわからないから怖くてできない。そうではなくて、業者はあくまでも最低限これだけの証拠金は担保として抑えるという基準を提示するのであり、その基準を求める根拠は以下の側面から生まれ来るものであると経験上断言できる。


証拠金額(率)設定の基準

必要(維持)証拠金の考え方は、市場が急変したときに、自動ロスカットをかけたあとでも、必ず顧客の取引口座にプラスの残高があるようにし、業者側があとから顧客に不足額の支払い請求という面倒なことをしたくないということに起因する。これは請求する側もされる側も不経済なことなので、避けたいという目的に両サイドからきわめて有効に機能する。したがって原則論でありかつ“理想論”であるが、業者は自分が使うシステムの性能と、想定する相場変動のシナリオを勘案して、いかなる場合でも顧客の口座が可能な限りマイナスにならないようなレベルに証拠金(マージンカットレベル)を設定するべきである(“べき”というよりはそう“したい”はずである)。


予測の事態の範囲が引き起こす問題

しかしながら、相場が急変する場合に、ティックの軸で見て、一気に値段が100ポイント以上ジャンプするような現象が散見されるのであれば、業者にとって、引き当てリスクが増えることになる。システムが理想的に仕事をしていても、配信されるレート自体が突然100ポイント以上動けば、ドル円1万ドルのポジションなら一瞬にして1万円の損失(利益の場合は別として)が増加することになる。これは避けられない。レバレッジが100倍より大きく、カットが発動する有効残高が5000円であったのなら、その瞬間に口座はマージンカットとなり、あとには実現した損、マイナス5000円だけが残る。この場合、業者の責務としては、そういう相場も予測の範囲として顧客への教育をしていたかどうかであり、システムは問題ではない(ここではシステムはちゃんと機能したという前提)。ここで顧客側が苦情を申し立てたとしても、そういう相場の動きもありうる前提でレバレッジの管理は顧客側の自己責任としてやることであるという認識が両者に成立していたかどうかが論点である。

(後編に続く)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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