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尾関高のFXダイアリー

システムトレードはヘッジファンドを凌駕するか

 マドフ事件に象徴されるように、個人がヘッジファンドに投資するということには多くの精神的なストレスが伴う。まずそのファンドが、いかがわしくないかどうか、開示されている成績が本当かどうか、お金を振り込むまでの手続きの面倒さ、手数料の高さ、そして送られてくる成績は頻度の高いものでも一週間に一回(Webサイトで確認)か、一か月に一回郵送されてくる報告書でしかわからない。実際にどういう取引をしているかは皆目わからない。


一方、いくつかのシステムトレードサービスがFX業者で展開され始めているが大体どのシステムトレードでもその長所は、すべての取引が自分の取引口座の中で行われることにある。その口座の中でどんな取引がなされ、現時点でリアルタイムにどれくらいの成績を上げているかがわかる。口座開設から実際の取引までの流れが明快であり、業者は国内のため、問題があったとしてもすべて内国の紛争として対応できる。手数料もヘッジファンドに比べて相対的に安いといえる(取引レートにあらかじめ上乗せされているため、すくなくとも支払い負担感はない)。また、システムの選択が容易であり、開始も停止もリアルタイムでできるし、無論利益の引き出しも追加も国内の銀行口座からネット入金なら即日であり、出金も翌日から2営業日後には返ってくる。

資産運用のツールとしては、ファンドにくらべて自分の口座を利用したシステムトレードのほうが、はるかに開設、保有、解約時のストレスが低く、効率的であることはこの程度の説明でも十分理解できることと思う。さて、問題は、それで儲かるのか、ファンドと同じかそれ以上の儲けが期待できるのか、である。


 ヘッジファンドの場合、あまり極端に走っていなければ、通常かけてもレバレッジは2から3倍でしか行わない。つまり、自分の1年間のリターンが仮に20%あった場合、そのファンドが3倍のレバレッジをかけていたなら、市場に投資された想定元本に対してのリターンは20%÷3=6.6%だということになる。これは通常のファンドの手数料である“2−20”(運用手数料で元本の2%+年間のパフォーマンスの20%)を差し引いたあとである。

これに対して、システムトレードにあるシグナルの多くはディフォルトのレバレッジが10倍程度のものが多い。このシグナル10倍レバレッジのものを運用して仮にファンドと同じ20%のリターンがあったとすれば(すなわち100万円を入れて1年後に120万円になったとして)、20%÷10=2%となる。つまり投資した想定元本ベースでの比較をすれば、ファンドの底力としては6.6%の成績に対して、システムトレードのシグナルは2%だったということになる。しかしファンドもシステムトレードも裏側ではそれなりのプログラムされたシグナルが動いており、その中でマージン、レバレッジをどれぐらいかけてやるかという部分もコントロールされているので、その概念(マージンカットにならないようにうまく運用していくこと)も含めて、そのシステムやファンドの“力量”としてまとめて考えられるなら、上の例でいけば、単純にファンドのリターンは20%でシグナルのほうも20%だったといえる。このとき、資本回転のスピードがシグナルのほうが3.3倍(10倍÷3倍)高速回転しいていたという表面には現れない意義だけが違いとして残るが、一般の投資家にとっては結果が良ければこの辺は“へ理屈”にしか聞こえない。損をするとしてもマージンカットの機能が働いている限り、元本を失うというリスクはまずない。


言い方、見方はさておき、ファンドは1年以上ゆっくりと腰を落ち着けて投資するものであるという前提が正しいなら、入金、解約の手続きが多少煩雑で、遅くてもあまり気にしないかもしれない。しかしいまの金融情勢を考えればよくわかるように、投資家はそうした市場に対して疑心暗鬼になっている。自分のお金をドルに替えて、はるか行ったこともないケイマンや、バージンアイランドといった、いかがわしそうな地名や聞いたこともない会計事務所の名前などがずらりと並ぶ小さな文字で記された契約書や目論見書をみるよりも、システムトレードのように、簡単に口座開設をして(もちろん契約書等を見ることは必要だが)、数日以内に運用が開始され、取引の中身がガラス張りになっている運用ツールのほうが安心感は比較にならない。あとは、どのシグナルが自分に合ったパフォーマンスを上げているかをよくよく調査することと、一旦開始したらほっておかずに(たぶんほっておく人はいないだろう。ほとんどの人は、毎日一回はどうなったかな、とログインして結果を見ずにはいられなくなるはずである)、成績に異常な悪化が見られたら(多少の悪化は我慢する価値がある場合が多い)速やかにそのシグナルの運用を取り消す判断力が求められる。簡単にいえば、相場の流れではなく、システムの成績にだけ集中していればいいのである。

ファンドは為替市場にのみ特化したものは少ないが、投資家にとって運用する市場が為替か、債券か、株式かという話はどうでもいいのではないだろうか。グローバルマクロの戦略でポートフォリオを組み、運用資産が何百億というようなケースは、本稿の対象としていない。あくまでも数十万円から数千万円の運用で、できれば年間100%を狙いたいが、気が変わったらすぐ辞めたいという短期的な投資家を前提としている。そういう人には、従来のファンドや、ヘッジファンドよりも、為替市場に特化したシステムトレードが適しているのである。

 今後このようなサービスはもっと増えていくことが予想される。現在のFX人口で、本当に短期売買で儲けている人は全体の3%以下、もしくは1%以下であろうと思われる。あとの人は、自分の恣意的な判断でやったがうまくいかず撤退した人や、値洗い損に耐えながらスワップの受取で我慢している人だろう。そうした、裁量取引で実績があがっていない投資家や、そもそも経済の勉強や相場の動きを追いかけることができない、したくないが、簡単な資産運用はしたいという投資家にはもってこいのサービスなのである。


一方でそれを供給する側の使命としては、そのサービスを提供するシステムの利便性と安定性、そして既存のシグナルのパフォーマンスのレベルアップもしくは、より高い運用をたたき出してくれるようなシグナルを発掘、開発してゆくことに集約される。そして、FXを起点に始まるこの手のサービスはやがてCFDを通して株、債券などに、これらの市場が正常化しだしたら(いつなのだろうか?)、順番に応用されていくのだろう。もう図体ばかり大きくて扱いづらいヘッジファンドはいらない(?)のかもしれない。ヘッジファンドや普通のファンド(投信)は、年金や、損保などの大きな資金を長期的に扱う金融機関向けであり、個人投資家はこうした即効性、即時性のあるものに傾斜していくかもしれない。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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