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尾関高のFXダイアリー

金先業界2009年の展望(後編)

次に淘汰とは直接関係がないが、本業界に影響を及ぼすいくつかの事象等について列記する。


■システムコスト

 勝ち組がその規模を拡大するにつれてどこの業者も直面するのがシステムの脆弱性である。現在日本製のシステムを使う業者が大多数で、一部外国製を使っているが、リーマンショックのときの相場に対して無理なくついていっていたのは総じてやはり外国製であった。日本製は大なり小なり何がしかのシステムキャパに起因するトラブルを起こしていたという印象がある。長年FXシステムの理想形を追い求めている小生としては、いまだに外国製のシステムのほうが一日の長があるとの印象は変わらない。ただしそれをローカライズするときの問題が多く、結果日本製を選んでしまうという現実がある。痛し痒しである。これだけIT立国化しつつある日本でなぜそこまで一気に追いつけないのかという疑問もあるが、私は以下のような背景がそうさせていると考えている。

まず、エンジニアの質であるが、欧米では、銀行で為替のシステムを作っていた人たちがスピンアウトしてITの会社を作りそこが為替の業者と提携した入りあるいはそのまま吸収されたりして、開発者のなかに90年代初頭からの技術に明るい人たちが含まれているということがあげられるのではないかと思う。また、そのスタッフにロケットサイエンティスト等のレベルの高い人たちが容易に入ってくるということ。さらには足りなくなると自国内だけでなく、インド、ロシア、中国から優秀なスタッフを手ごろな値段で調達する機動性に優れているという点が顕著である。そこには英語でコミュニケートするという優位性と、常にビジネスモデルに資本がくっつきやすいインフラがあるという有利な条件が伴う。日本は、新技術にしても輸入する側であるし、英語でロシアに行って好条件でロケットサイエンティストを獲得するというような手練手管には慣れていない。せいぜい中国でアセンブリーラインのスタッフを確保するというのが得意分野であり、これはメーカーが、アイデアは輸入でそれを途上国で廉価に生成することに長けているという部分に似ている。

日本においては本業界でASP数社が頑張っているが、その中味は海外の優秀なシステムに比べればかなり差がある。こういうと中味も知らないのにといわれるかもしれないが、見える範囲を比べただけでもそういえるほどに違いがあるのである。

さらに、日本製は高い。これは、システムのアーキテクチャのアプローチにも問題がある。現在の日本性のシステムは大体が決めうちで、今後10万口座まではこのシステムでいけます。値段は6億です。という感じの組み方をし、それが償却5年を終わらないうちにまた次は50万口座まで大丈夫です。今度は12億です。というような世代交代をさせないとキャパが増えないやり方をするために、単に12億円がかかるだけでなく、前回の資産償却が終わらずにさらに償却費が増えていくという悪循環が起こる。企業にとってシステムは資産になるので、費用ではない。したがって12億円で買うとしても、5年償却をベースに年間の償却費の増加を見つめていけば、顧客が増えていくたびに雪だるま式に償却費が増加してゆくことに苦しむことになる。さらには、2年間しか使わなかったサーバーが償却3年を残して除却されるなどの憂き目にあえば、それを二束三文で売り払うか、違う目的にでも転用する努力をしなくてはならない。さらに言うと、そういう総とっかえの作業が3年ごととかに行われるたびに、システム障害のリスクを抱え込まなくてはならない。そうではなく、あくまでもシステムの構成は不足分を追加することで対応していけるようなアプローチを考えなくてはならない。欧米ではそういう構成にしているところがある。これにより経営者は、ビジネスの拡大に沿って安定的にシステムの追加を行えばよく、5年前に入れたサーバーもいまだに元気に動いているという状況を作り出すことができ、償却もしっかりと資産計上した分を使い切るような運用が可能になり資本の無駄を省け、さらにシステム障害リスクイベントを減らすことができるようになる。


■カバー

 取引が増えると人がカバーするDIも限界になってくる。そうなると自動でヘッジというのはすでに実用化されている技術だが、ここでの選択は、ストレートにヘッジかそこにアルゴリズムをかませて利益率を引き上げるヘッジかの選択がある。

前者は完全にレートの質を銀行に依存する代わりに自分の会社に市場リスクを存在させないようなモデルになる。後者は多少自分でレートを操作することが可能になり、またヘッジのタイミングや客のポジションをある程度マリーするなど、いわゆるヘッジコストを下げることに貢献するがその分時間的市場リスクを負う形になる。あとはアルゴリズムがうまく稼動するように高度なクォンツ部隊がそのエンジンをうまくメンテできるか、またそのエンジンのハード的な意味で故障しないように運用できるかがかぎになる。どちらがよいかという基準はない。無論経営者はうまく動くなら後者がいいというに決まっているが、簡単に手に入るものでもない。こういうことは実践で試しながら開発してゆくものなので、一部の業者が内部で築き上げて、最終的にそこが売りに出せば手に入るというものになる。昔ながらの人間が行うDIもメリットはいろいろあるが、世の流れは自動DIか完全STPかのどちらかへと向かっていく。これは監督官庁の望むところではないかと思われる。

ただし気をつけないといけないのは、自動=機械であるから、システムリスクがその分増大するということになる。それはどういうことか。つまり、その可能性は小さいとしても一夜にしてつぶれるリスクを抱え込むということでもある。LTCMもNYKテロも本業において経験してきた小生としては何でもかんでも全部自動化というのは安心できない。


■ポストFX

 表題にFX業者と書かずに、金先業者と書いた意図は、今後FXだけではない金融デリバティブが業界で生まれてくることを意識したからにほかならない。私が2005年に日本で始めてCFDをはじめたときは、そんなの儲かるのかという疑問は他人に言われるまでもなく自分自身でそう思っていたのである。そのときの私の言い訳は「やってみないとわかりません」。「ただ市場を育てるには自分の会社だけでなくあと大手どころに、数社入ってきてもらって、はじめてまともなマーケティングでできるでしょう。それまでは“色物”です」であった。

そして、2008年、まさにそのとおりになった。いまや一般の雑誌ですらその投資コーナーみたいなところにCFDの文字が見える。個人的には、感無量である。直感で取り込んだものが結果予想したとおりに世の中で動き出すというのは一人のビジネスマンとしてはうれしいものである。

では、このCFD市場はFX並みに育つのか?答えは私にもわからないが、常にその問いかけは、育つのかではなくて育てるにはどうすればいいのかである。素質としては十分その可能性はあるが、それを阻むものは、日本の特殊性である。CFDというのはあくまでも器なので、この辺のテーマになると個々に見なくてはならない。ということで、一応、株、株価指数先物、商品先物、の3つに分けて考える。

株の場合、日本ではネット証券系がレバレッジ3倍程度で相当廉価な手数料でもって市場を開拓しつくしている感がある。CFDの株取引も信用と仕組みは変わらない。レバレッジは明らかにCFDのほうが高く出来る。また手数料もそれなりに安く入ってくるだろうが、どこまで競争できるかはわからない。

株価指数については、株同様でそもそも証拠金取引なのでCFDとかわらない。ただ、限月をなくしたりと取引が簡単になる分らくだとか、取引所の1000分の1で大証のミニよりもミニでできるとかのおまけがどれだけ訴求するか。

上記両者において、国内ものだけでなく海外ものも取引できる。昔から海外の市場に興味がある投資家にとっては願ったりかなったりのサービスである。ひとつの口座で簡単にそれらが取引できるのは今までの証券会社の店頭で行う外国株取引に比べれば格段にコンビニ化しいている。行かなくていい。印鑑も要らない。紙もない。パソコンとブロードバンドさえあればいい。これはひとつの金融流通革命である。

あと商品先物であるが、金と原油ぐらいしかあまり期待していない。現在この本来的には経産省の管轄じゃないのかということで金商法のCFD(金融デリバティブ)に入る、入らないという疑心暗鬼があるが、結論的には、YESということでCFDで扱い可能の方向である。ただし、金はロコロンドンのドル建て、原油はWTI等でどちらも東工取の権益を侵さないものでないといけないようだ。そもそも商品は人気がないがこの2つだけは一般でも人気がある。また従来の商品先物業界のイメージの悪さからそういうところではやりたくないが、まともな証券会社あたりが商品のひとつとして出す分にはなんら障害はない。

最大の魅力はこれらがひとつのプラットフォーム、同一口座で取引できるということである。海外では、FXもCFDの一部である。日本の場合は、FXだけを特別視してしまうとこの辺の利便性が損なわれてしまう。あくまでも金融デリバティブという単一のくくりの中で扱ってもらいたいものである。信託義務化がされたとして信託銀行がCFDは受けないということがないように願うし、国税の支払調書もFX取引に限定せず金融デリバティブ全部でまとめてほしいものである。理屈からすればFXの利益隠しは追いかけるが、CFDは追いかけないということはないはずなので、OTCのデリバティブと取引はその全部を対象として支払調書をだすのが合理的ではないだろうか。


微妙に話がそれたが、以上のイベントだけで2009年はよくもわるくも賑やかな年となるに十分である。業界は生き残りにさらに必死になり、個人投資家は自己の資産の保守により必死にならなくてはならない年になりそうである。

(了)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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