スプレッドゼロの行き着く先/市場リスク8%の意味(後編)
(前編からの続きとなります/前編コラムはこちらをクリック)
もとにもどって、考えても見てください。相場が98.00のときにとつぜん98.20で自分が買ったというポジションが出てきても、問題なくそれを97.95とかで利食える自信とか確信があるのであれば、面倒なFX業者などする必要がないではないですか。
それでも業界は限りなく手数料ゼロ戦術を使ってきます。スプレッドが1ポイントを切り込んだ時点ですでに卸値と小売値が逆転している状態です。0.5銭でも逆ザヤです。なんだかんだ言っても、このスプレッドゼロはあくまでも営業上のキャンペーンとしてしか使えないと思っています。特定の通貨ペアだけとか、一定の期限だけとかの限定でないと提供は困難だと思います。
顧客にとっては、いかなる業者の裏側の事情があろうとも、スプレッドが狭いほうが有利であることは間違いありません。だからといって儲けやすいというわけではなく、それは相場の方向性の問題でスプレッドとは違う話です。経験のある方はよくわかる話だと思いますが、損するときは、スプレッドの差どころじゃない損を出します。利益を出すときだけスプレッドが狭かったおかげで1万円の損をだすところが、ゼロで逃げられたという話になりがちです。また、スプレッドがゼロとは言っても、相場が荒れているときは変動に切り替わるとか、10銭とかのスプレッドに切り替わるかもしれません。あるいは、スプレッドはゼロだけれど、どうも売値側にはりついているように見えるということもあるかもしれません。意図的にプライスが(恒常的に)ずらされているケースもあります。(これは売るときは有利ですが買うときは損した均分になります)。日本のこの業界は、基本的にドル円は買いから入るという傾向が強いために、意識的にプライスを右にずらす業者もいます。それ自体が悪いとは思いませんが(それがあるから相場は動くのですから)、そうであることを投資家の側は業者選びのときに知っておくことはフェアかフェアでないかという点で大事かもしれません。
自分の身の丈にあったリスクテイクの範囲内でよりタイトなスプレッドを提供するというモデルの究極にあるのが、インターバンクのレートに完全にリンクしたプライスを提供するモデルです。このモデルでは、一定の収益を確保しながらプライスをよりタイトにするためには、銀行側への働きかけ以外に方法はありません。銀行が提供するレートよりもベターなレートを提供するということがシステム運用的にありえないのです。取引ごとにカバー先でのヘッジが完了するので市場リスクはほぼイコールシステムリスク直結となります。また、カバー先での約定が確認されないと、顧客サイドも約定にならないので、そういう意味での市場リスクを生むシステムリスクもほとんどないといえます。これはよく業者としての透明性(価格操作などの批判を排除する道具)としてアピールされますが、むしろその業者が市場リスクから徹底的に切り離されているモデルとしての意味のほうが高いと私は思います。反対に、欠点としては固定スプレッドというサービスは求められても出来ないという点です。
そもそも固定スプレッドというのは今のようにIT技術が発達していないときで、十分な利ざやが稼げる環境とスプレッド幅で提供されるものでした。例を挙げれば、銀行が常に2〜4銭ぐらいのスプレッドのときに8銭の固定なら、多少銀行のレートが揺らいでも十分利ざやを確保できたわけです。もともとインターバンクのスプレッドは個々の銀行は平常時固定で出していても、いくつもの銀行が集まれば、そのスプレッドは開いたり縮んだりしますし、要求される取引額によってもスプレッドは変わるものです。金額にかかわりなく、また相場環境に関係なく常にスプレッドを固定する、それも1ポイントやゼロにするというのは、市場リスクを安全圏に置きながら安定的な利益を追求するという企業前提においては継続性を期待できないサービスだと思います。それをかの銃ならしめる環境があるとするならば、それは銀行がこぞってそれ以上にタイトなスプレッドを業者に対して提供し始めるようになるときですね。
果たして来るでしょうか?