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尾関高のFXダイアリー

DIとEE、そして安定的なシステム

最近かなりスプレッド競争が激化していますが、顧客に提供するスプレッド(いわゆる小売価格に相当)を生成する仕組みは大きく分けて2つです。ひとつは、その業者が独自にインターバンクの複数の銀行レートをシステム上で編集して自動的に固定スプレッドとして出す方法と、複数の銀行からのプライスに一定のマークアップを乗せた価格をそれ以外の編集をせずにストレートに提示する方法の二つです。

前者は、銀行側のスプレッドとの相関性はなく、業者内部にディーラーを配し、顧客が取引したデータをリアルタイムで見ながら順次インターバンクの取引システムを利用してカバー取引を行うのが一般です。このときにわずかながらの鞘を取ることで利益を確保してゆきますが、必ず毎回利益が確保できるわけではありません。結果はディーラーのテクニックとそれをさせる内部のシステムの出来栄え如何となります。

一方後者は、銀行側のスプレッドと正相関し、一つ一つの取引がインターバンクのレートに紐付けされており、銀行側で約定することを条件に顧客を約定させる仕組がもっぱらなので、業者内部で前者のようなディーラー業務は原則ありません。

ここでは前者モデルをDI(Dealer Intervention) 、後者モデルをEE (External Execution)と呼ぶことにします*。

*CFDがメジャーな欧州では前者をRequote Model, 後者をDMAと呼ぶこともあります。


DIの場合は、常に固定スプレッドが提供されるのが普通で、そのスプレッドは指標発表のときなどは銀行のスプレッド拡大にあわせて手動的にワイドにしたりします。しかし実際のインターバンクのレートの動きやスプレッドの拡大・縮小と同期しているわけではありません。この差がDIの結果にプラスになったりマイナスになったりします。一方EEの場合は、単純にインターバンクのレートにマークアップが乗せられたものが自動的に提示されかつ自動的に銀行側で約定していくので、スプレッドが拡大縮小するのはインターバンク次第となりますし、どこの銀行からレートを貰っているかがダイレクトに影響します。くりっく365も基本思想はこのEEです。マークアップがない分手数料を別途課金する点が違うだけです。

DIの利点は、銀行側の事情に関係なく自前の価格提示がある程度可能であることと、カバー取引を束ねて行える点でしょう。そのかわりそこで行われる操作には密室性があり、本来それがディーリングというものなのですが、一部の意見としてあまり好ましく思われない部分でもあります。また、ある一定の時間顧客から受けたポジションをホールドすることになるのでその分マーケットリスクを抱えることになります。

一方EEの場合は、すべてが銀行側のレートフィードに連動しているので、銀行側が約定を拒否すると顧客側も拒否されてしまうという事態が発生することもありますし、流動性という点で融通が利かないという点もあります。その代わり提示されるレート自体には業者の恣意的な部分が完全排除されるので、上記指摘のような好ましく思われないような密室性がないという利点があります。また、内部にディーラーを置く必要性が原則ないのでサーバーの容量さえコントロールすればどこまでも取引を拡大することが可能ですし、突然の取引増加にも平然と対応ができます。言い換えれば属人性を排除した仕組みといえます。また、DIのようにポジションを貯めることもないのでマーケットリスクをシステムができる限りの極限まで減らすことができます。そういう意味ではDIよりも安心な業者のモデルと言えます。


ではどちらが投資家にとって得なのかという話になりますが、これは一概には言えません。平常時はどちらかというとEEのほうがいいレートがでている気もしますが、最近は通貨ペアによってインターバンクよりも狭い固定スプレッドを出す業者もでてきたため、常にEEのほうが平常時は有利とはいえなくなってきました。指標発表時やイベントがあったときなどは、EEはインターバンクの銀行が変更するレートをストレートに反映しますが、DIの場合は、どういうスプレッドにいつのタイミングで変更するかは業者の判断によるためシンクロしません。そのズレが投資家にとって有利だったり、不利だったりすることになります。

投資家がそのときの状況次第でDI業者とEE業者を使い分けることは、玄人でないと困難なので、一応どちらのスタイルが自分にあっているかを見極めるべく、それぞれのタイプの業者でテストしてみることもよいかもしれませんが、それ以上に、もっと大切なことがあります。それは、市場が荒れているときに、使っているシステムが正常に動いているかどうかということです。むしろこちらのほうが投資家にとってはリスクの度合いが大きいのではないでしょうか。特に相場が荒れているときに果敢に取引を挑むタイプのひとにとっては、やりたいときに出来ないということにもなりますし、またレバレッジを高く取引しているひとも、システムにログインできないうちにマージンカットになってしまうというリスクがあるので、これは重要なポイントです。

今回のリーマンの破綻に伴い結構危ない思いをしいた投資家の方も多いと思いますが、スプレッドが上位10社ぐらいのそれとで比較しても遜色がなければ、あとはシステムの安定性を優先的に判断材料にするというのが、とりあえずの考え方ではないかと思います。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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