自己資本規制比率のアドオンの解釈について(後編)
【意見(A)】
本取引(外為証拠金取引)は、自動的にスポット取引をロールしてゆくから、期間が定まっていない。だから暫定的に1年以下とするが14日以内の条件には当てはまらない。
この意見Aに対する私の反論は以下の通りである。
【根拠1】
アドオンのリスクを計量するために必要な契約「期間」は、その当該ポジションが、リスクの計量時点においてさらに契約期間を延長する約束があるかどうかに関係しない。もし仮にするかもしれない=するものとして考えるとなると、インターバンクにおいても為替予約のキャンセルや繰り延べは茶飯事であるため、それとの区別がつかなくなる。銀行と本業界では前提が違うという意見もあるが、市場(金利)リスクの計量に相手が誰かとか業界の違いは関係がない。市場リスクは万民平等に掛かってくるものである。財務規制の規制比率(120%とか100%)の議論と、マーケットリスクの議論がごちゃごちゃになっている。
【根拠2】
そもそも個々でのアドオンとは金利の変動リスクを捉えるために計算されているのではないだろうか。いわゆる金利感応度と呼ばれるたぐいのものである。条文の上のほうでは債券や金利派生商品における金利感応度の計算に言及されているが、ここでは、2国間の金利差=フォワード(スワップ)の部分にそれが反映されている。アドオンの掛目の1%や5%という数字を見てもその用に解釈する妥当性がある。もともとこのリスク算定の基礎になっているのは国際銀行に課せられる条件を示したBIS規制がその基礎になっているので、個人的には間違った解釈ではないと信じている。
さて、前回例??で比較したものがここでの議論の対象になる。見てのとおり?と?の“取引そのものに”アドオンのリスクは存在していない。つまり取引したレート自体は変動しないからそこには「リスクの源泉」はない。リスクの源泉があるのは“評価レート”のほうである。
?の評価レートはTTM=105.75であった。これはスポット(厳密にいえば、T+0からT+2までの評価レートはすべて直物レートがフラットに使用されるルールが多く採用されることに準拠するが、銀行によってはT+0からT+2においてもフォワードの線形補完をするケースもある)であるのでここのアドオンが指し示すリスクはない。
一方?のほうはT+27であり、評価レートは、105.37+(-13.8/100)=105.612が使われている。アドオンのリスクはまさにこの-13.8に含まれているといえる。つまり、アメリカもしくは日本が突然FF金利や公定歩合を変更すれば、あるいは2004年6月29日だったか(定かでない)、市場の需給のゆがみによってドル円のトモネスワップレートが-0.3ぐらいから一気に-2.0そして夕方には-3.0ぐらいまで10倍に跳ね上がったことあがる。そういうリスクを捉えようということである。この数字はしたがって、別表14備考7においても、「市場の実勢条件により評価する」とあるとおり、市場の気配値のビッドを使うか、アスクを使うか、あるいは足して2で割るミドルを使うかは裁量の範囲としても、-13.8を使った時点でアドオンのリスクは生まれたことになる。当然アドオンのリスクが欲しくないから使わないで、T+27の契約期間を持つポジションもTTMで評価するとすると、「市場の実勢レートにより評価」していないということになるから、原則できない(厳密にTTMやそれをベースにしたフォワードは実勢レートではないという話は上段で述べた)。
要約すると、市場リスクは外貨持ち高の8%で、それが指し示すリスクの源泉はスポットの動き(採用するスポット評価レートの日々の動き)であるのにたいして、アドオンはたとえば、毎日スポット評価レート同じだったとしても、Swapに当たる部分はスポットの動きとは関係なく変動するからその部分のリスクは別途計上しなければならないといえる。
さらに例をあげる。
?ドル円 | 2004/11/4 | 2004/11/8 | 100000 | 106.11 | 105.75 | -36000 |
?ドル円 | 2004/11/4 | 2004/12/1 | 100000 | 105.9751 | 105.5850 | -39010 |
前回の例とまったく同じスポットレートで評価するが、ドル金利が少し上がったためにSwap=-16.5となり?の評価が105.585に変わった場合を想定してみた。スポットのリスクは顕在化していないが、アドオンのリスクが顕在化したケースである(-13.8から-16.5に動いた)。
もっと分かりやすくグラフであらわすと右のようになる。
スポットのリスクは右下に傾くフォワードカーブが上下に平行移動するリスクであり、アドオンのリスクはT+2=0を起点として、フォワードカーブの傾きが変動するリスクである。
だからこそ、アドオンのリスクは契約期間に対して掛目が違うのである。しかし、ここでいう契約期間は評価する時点でそのポジションが今後どういう契約繰り延べがされるかどうかわからないから云々という問題ではなく、その再構築コストを計算したレートが内包している金利差リスク計算上の契約期間分ということではないのか、というのが私の主張である。
【結論】
長々と回りくどい話をしてきたが、結論を言えば、アドオンを計算するためのカテゴリー期間(14日、1年など)の判断は、ポジションの確定的、若しくは暫定的な受渡日で判断するのではなく、そのポジションの評価損益(=「再構築コスト」)を計算するに使用したレートの算出根拠として用いた契約残存期間日数(T+αのαの部分)で判断されるべきである。したがって、本取引はリスク計算のあと(取引日更新後)いくらでもポジションの繰り延べができることを捉えて契約期間が不定であり暫定的に1年とするという判断に合理性があるないというよりも、見ている場所が間違っていると私は考えている。
私が最初に始め、今では一般的に使われるスペックで日々発生するスワップコストの部分をスポットのポジションから分離して計上するやり方だと、スポットの持高に対するスポット評価レートでの再構築コスト計算に不合理な点はない。逆にスワップ金利の部分を持ち高に含めるとして全体をフォワードポジションに置きなおしたとしても、それでもスワップとして繰り延べられ、その価値を内包した分は最大T+2であるので相変わらずそれを評価するレートはスポットレートしかない(※※下記例参照)。契約期間を暫定的に1年とするならば、その再構築コストを計算するレートを1Yearのフォワードレートで計算しないとおかしくはないか。再構築コストはスポットで計算し、アドオンの期間は1年として計算すると単純にリスク算出の合理性や論理性を欠くことにならないか。リスクの計量は行政的な裁量の範囲ではないはずで、裁量があるとするならば、1%や8%といった掛目にその意思が投影されればよいはずである。
[評価日 11月1日]
取引日 | 繰り延べた受渡日 | 取引高 | 約定価格 | 約定代金 | スワップ金利 |
10月1日 | 11月4日 | 100000 | 106.58 | -10658000 | 16500 |
これをフォワードに直すと
取引日 | 繰り延べた受渡日 | 取引高 | 逆算したフォワードレート | 約定代金+スワップ金利 |
10月1日 | 11月4日 | 100000 | 106.41500 | -10641500 |
10月1日からこの人は毎日約一ヶ月間ポジション日々繰り延べてきたが、これにスワップ金利を約定代金に足して取引高で割ってやると、106.415が出てくる。これが意味するところは、一ヶ月前の10月1日に11月4日の為替予約(先渡取引)を106.415で交わしたのと結論的には同じことになる。では、今11月1日時点でこのポジションの契約期間はと聞かれれば、11月4日までの価値が反映されているのだから11月4日でありT+2(実際には11月3日が祝日なので3日分)間違っても契約期間が不定であるから暫定的に云々という議論は必要ないことがお分かりいただけるであろうか。
次に、では本取引におけるポジションの期間はすべてT+2以内だから、別表18備考6の適用を受けたいと考えると以下の前提が認められないといけない。
? 本取引が、「契約期間が14日以内の異なる通貨間の金利等のスワップ取引、為替先渡取引、先物外国為替取引、通貨先物取引及び通貨オプション取引」に該当すること。
通貨先物取引か、いや為替先渡取引にあたるのではないかという議論はいかがなものか。リスクはそこにあるのだから、呼称はは関係ないはずである。あとは法律の解釈論の世界になる。
? 繰り返しの話だが、別表14備考7の「実勢条件」にTTMを使用できること。証券業界は一般に外貨の評価レートにはどこかの銀行のTTMをつかうことが慣例となっているが、24時間の取引サービスをし、一日の仕切りをNYKクローズ(現地5時PM)にしていることを考えると、当日のTTMを実勢レートというには無理がある。通常、日締めをした時点の市場で取引されているレートを実勢レートと呼ぶわけで、それよりも21時間前のレートが妥当かどうかは疑問が残る。上述した通り「じゃんけんの後だしあり」である。無論悪用する意図があるかないかは別の問題として。
以上、アドオンについての私なりの解釈です。当然私の解釈が正しいかどうかは私自身わからないし、間違っているなら早く訂正したいという思いから、この場を借りて「意見表明」させていただいた次第です。