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尾関高のFXダイアリー

自己資本規制比率のアドオンの解釈について(前編)

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自己資本規制比率

 今回は、かなりまじめな話です。現在外為証拠金取引にかかる業法の中身についていろいろと議論が喧しいのは業界の皆さんはご存知のことですが、議論がかみ合わない部分がいくつかはっきりと見えてきています。今回はそのひとつである自己資本規制比率のアドオンの計算の考え方について、特に期間の捉え方について、私の解釈をご説明したいと思います。最初にお断りしますが、これはあくまでも私個人の見解であり、私が所属する会社の見解ではありません。また、ここでの理論、解釈論を他に転用されることは読者の自由ですが、その結果に対する責任は負いません。


取引先リスク相当額を計算する上で、第17条第一項を採用するか第二項を採用するか、で計算方法は違ってくる。一般的に、前者のほうが後者に比べて計算結果としてのリスク相当額は少なくて済む。少なければいいというものでもないが、不要に若しくは不合理に必要以上の相当額を計上して自己資本規制比率を低下させることも規制業種の「経営」としては望ましくない。また、前者は後者に比べて中身が複雑で、使われている用語、その概念については、銀行の当該業務関連の仕事をしていない人にはなじみがないものが多い。証券会社とて為替を専門に銀行と同様のレベルで処理する業務部門を持つところは多くない。そのためいろいろとヒヤリングなりしてみると、3社集まれば三者三様の計算(解釈)がなされているのが現状である。以下、小生なりの解釈を展開しつつ、今後細部が決定される内閣府令の理解の一助としていただければ幸いである。

まず、基本的なお勉強として、外為証拠金取引を前提として第17条に係わる基礎知識についてまとめたい。


■スポットとフォワード

通常本業界で取引に使用しているレートをスポットレート(Spot)もしくは直物レートと呼んでいる。それに対して、先渡レート(Forward)というものがある。財務的な言い方をすれば、前者が現在価値(PV)で後者が将来価値(FV)である。このFVとPVの差はどこからくるかというと、当該期間に掛かる理論的に適応されうる金利(差)による機会損益である。この部分をインターバンクはスワップ(Swap、現先スワップ、若しくはフォワード)と呼ぶ。式で書くと、Forward = Spot + Swapとなる。インターバンクの人はこのSwapの部分を指してフォワードと呼ぶことのほうが多い。

取引に使用されるスポットレートは、基本的に取引当日から起算して当該2国の銀行業務2営業日後を決済日とし、各々の2営業日がずれているときは遅いほう(大きいほう)を取るとしている(さらに誤解のないように細かく言うと当該2国のどちらにも米国が含まれない場合でも、米国の祝日がT+2の日に重なる場合はさらに一日ずらす。またドルカナダ(USD/CAD)においてはT+1を決済日としている)。したがって、2004年11月2日に取引されているドル円のスポットレートの決済日は11月5日(3日が日本の祝日)であり、11月3日に取引してもその決済日は11月5日になる。つまり、2日、3日のどちらでスポット取引をしても、それらの契約の決済日は5日なので、この2つの取引は決済日から見れば同じ日の取引として扱われる。金利に係わる価値の計算の基準日は取引日ではなく決済日(Value Date)である。本業界(外為証拠金取引)のスワップ金利を考慮すれば、2日に建てたポジションは翌日3日になってもロールを行う必要がないのでスワップ金利が発生する源泉がないことになる。だからといってそれをつけてはいけないという意味ではないし、このルールを無視して毎日、土日も平日同様に1日づつスワップ金利を発生させる仕組みの業者がある。こうしたインターバンクの振る舞いとは違う独自ルールを採用する業者が多い点が法文解釈を難しくしている。

ちなみにここで決済日と言う言葉を使っているが、これに受渡日という用語を使用するところもある。英語ではValue Dateと一般に言う。それ以外はない。Value、すなわちその交換比率の「価値」を決める基準にしている日ということでそう呼ばれる。反対に、Settle=決済、受渡という言葉がほぼ同義語として使われているが、これは、実際に取引の契約に基づいてお互いの名義の銀行口座にお金が送金(着金)されることを指す。したがって、ValueとSettleでは本来意味が違う。Valueは「建てる」というが、Settleは「建てる」とは言わない。Valueは価値を評価することであり、Settleは決着することである。Valueを建てたからといって(つまり取引をしたからといって)その通りSettle(決着、つまり決済)するとは限らない。
 
Settleについてもさらに意味が明確に違う複数の行為に使われる。ひとつは、先物取引において建てていたポジションを閉じる行為を決済と呼ぶ。一方銀行の実需取引では、実際にValueを迎えたポジション(取引)の約定代金を、契約当事者間の銀行口座で振り込む行為も決済である。前者においては、ポジションが閉じた、すなわち市場リスクが消えたという意義をもつが、与信リスクの観点からは、顧客は相変わらず決済し、確定した資産は相手方の名義の口座にあるわけでその与信リスクは残ったままである。後者においては、お互いの名義の口座で現金の受渡が完了するので与信リスクは当事者間ではなくなるが、当事者両方がどちらも使用する決済銀行ではない場合、利用している銀行にたいする与信は逆に発生する。
使う言葉は同じでも実際に何が起きていて、そこにはどういうリスクが内在しているかを押さえながら議論をしていかないと、その議論方向がお門違いなものになっていってしまうので細心の注意が必要になる。

さて、話を戻して、いま以下の決済日の違う2つのポジションを持っているとする。


通貨ペア取引日受渡日取引額取引レート
?ドル円2004/11/42004/11/8100000106.11
?ドル円2004/11/42004/12/1100000105.9751

?はスポット取引で?はフォワード(先渡)取引である。

?は当日11月4日に対して2営業日後の受渡日なので一般にT+2と表記する。?はT+27日となる。?の取引をしたときのスポットレートは?と同じで106.11であった。したがって、取引されたスワップは、105.9751-106.11=-0.1349となる。引き算は常に未来から現在を引く。この−0.1349をマイナスが付いているのでディスカウントレートとも呼ぶ。-0.1349は1円単位なので、これに100を掛けて、-13.49と表記し銭の単位に直したものが一般にインターバンクは取引では利用される。これはスワップレートなのだが、銀行のディーラーはフォワードと呼んでいる。

ここまでで、為替にはスポットとフォワードの取引があることを説明したことになる。では、この2つのポジションを当日の経理の締め時点で評価するという話に移りたい。

実際にはあくる日になってやる経理処理だが、経理上評価レートは、NYKクローズを使ったり、当該当日のTTMを使ったり、1ヶ月間同じレートだったりとさまざまである。ここではTTMを使った例を採用する(※)。どれでも理屈は変わらない。以下の表のように評価したとする。


※ 証券業界は一般にTTMを外貨評価レートとして採用する事が多いが、本文による「時価額」の指し示す意味と、実際にTTM確定後NYKクローズまで続く取引の評価までTTMで評価するのはいかがなものかと思う。まるでじゃんけんの後だしを認めているようなものである。別表14備考7の再構築コストの計算に利用するレートは「市場の実勢条件によって」計算するとある。となると、NYKクローズまでのポジションを含めるならNYKクローズのスポット、フォワードレートで評価する必要があるが、上記の「時価額」=TTMとしていると話があわなくなる。

通貨ペア取引日受渡日取引額取引レート評価レート評価損益
?ドル円2004/11/42004/11/8100000106.11105.75-36000
?ドル円2004/11/42004/12/1100000105.9751105.6120-36310

?の評価レートは11月4日のTTMであるとしている(本物ではない)。さて問題は?のポジションを評価するレートであるが、そのとき11月4日午前10時ごろのスワップのマーケットが –14.1/-13.5であったので、そのミドルを取って、-13.8とした。これはそうしなければならないのではなくて、そうすることが一番合理的で恣意的ではない(中立的で客観的)から、その方法で決定している。したがって、105.75+(-13.8/100)で?の評価レートは105.612となる。


■本題

さて、これまで長々と説明をしてきたことがいかにアドオンの話につながるかという部分にそろそろかかりたい。まず関連する条文を以下抜粋する。


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◆第十七条 (第一項)取引先リスク相当額は、別表第十四から別表第十六までに掲げる取引又は資産等の区分に応じ、これらの表の与信相当額の欄に定める額にリスク・ウェイト欄に定める率を乗じて得た額の合計額とする。
◆別表14
正の値をとる再構築コスト及びアドオン(想定元本の額に、期間の欄に掲げる期間の区分に応じ、掛目の欄に定める率を乗じて得た額)の合計額ただし、現先取引又は貸借取引にあっては、正の値をとる再構築コストの額

(取引)


期間アドオンの掛目リスクウェイト
1年以下1.00%別表18にさだめるところ
1年超5年以下5.00%別表18にさだめるところ
5年超7.50%別表18にさだめるところ

備考

(7) 再構築コストとは、取引を与信相当額の算出時点における市場の実勢条件により評価することによって算出する額をいう。

◆第三項 再構築コストは、法的に有効な相対ネッティング契約下にある取引については、同一のネッティング契約下の取引について、当該取引に係る再構築コストを相殺した後の額とすることができる。

◆別表18備考6 契約期間が14日以内の異なる通貨間の金利等のスワップ取引、為替先渡取引、先物外国為替取引、通貨先物取引及び通貨オプション取引については、取引先の区分に応じて乗じる率を一律0%とすることができる。
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今は、アドオンの話だけに集中しているので、その他の関連条文については触れない。巷ではここでいう『期間』の解釈が大変ぐらついているので、私の見解を述べたい。


上記の例において、?の期間はT+2で?の期間はT+27である。したがって、どちらも1年以下となる。一方別表18備考6において、14日以内の為替取引ならば取引先リスクウェイトをゼロ%にしていいという条件があるために、いろいろと解釈が紛糾する。

 

【意見(A)】

本取引(外為証拠金取引)は、自動的にスポット取引をロールしてゆくから、期間が定まっていない。だから暫定的に1年以下とするが14日以内の条件には当てはまらない。(後編につづく)


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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