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尾関高のFXダイアリー

信託分離

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信託分離

 最近FX業界で信託スキームがはやっています。これは、裏側に独立系の業者が顧客から預かった資産を別目的に流用していたり、詐欺まがいの被害がでていたりすることが大きく影響しているようです。そうした投資家側の不安を払拭するために、十分信用力があると思われる証券会社も採用に動いています。時事通信の記事によると以下の業者が行っているようです。
 
▽豊商事(2000年7月)=BNPパリバ信託銀行(03年6月からエス・ジー信託銀)
▽トレイダーズ証券(01年6月)=UFJ信託銀
▽セントラル短資オンライントレード(02年4月)=新銀行東京(旧BNPパリバ信託銀)
▽イー・トレード証券(02年11月)=みずほ信託銀
▽日興コーディアル銀(03年4月)=日興シティ信託銀
▽スターフューチャーズ証券(03年4月)=エス・ジー信託銀
▽岩井証券(03年8月)=UFJ信託銀、りそな信託銀、みずほ信託銀
▽マネースクウェア・ジャパン(03年10月)=あおぞら信託銀行(04年8月から住友信託銀)
▽松井証券(04年3月)=日証金信託銀
▽外為ドットコム(04年4月)=エス・ジー信託銀
▽センチュリー証券(04年7月)=日証金信託銀
(時事通信商品経済部/記事より引用)

簡単にその中身を説明します。
 
まず、業者側は顧客からFX取引目的で証拠金として預かるお金をすべて信託会社に預けます。信託会社は預かったお金を担保にFX業者がカバー取引する金融機関に対して信用状(G/L)を発行します。この信用状により、FX業者はカバー先との取引を行い、日々発生する決済金額は、信託銀行を通して決済することになります。このとき、問題になるのが、FX業者から報告される決済金額がカバー先のそれと一致しているかどうかと、FX業者が顧客から預かる証拠金を正しく信託会社に渡しているかどうかです。
 
今までのスキームは、この点問題がありましたが、最近のスキームは、信託会社自信が、カバー先となることで、取引に関するデューディリジェンスは100%保証されます。また、顧客が証拠金を預ける銀行口座も信託のFX業者名義であれば、これも業者はまったく手をつけることができなくなり資産保全が完璧になります。また、顧客資産も現金と保有するポジションの値洗いを合計した純資産ベースでの保全が理論的にはリアルタイムでできることになります。今までの信託スキームは顧客資産の値洗いが1週間に1回しかいしないなど、正確な意味で100%の保全がされているとはいえませんでした。そういう意味で、うまくできていると思います。面倒なのは、顧客が取引した価格と違う価格でインターバンクと取引したり、顧客の1万ドルの取引を5つまとめてカバーしたりすると、顧客の純資産とは違う部分が信託財産の中には含まれることになります。つまりずれている部分が業者のディーリング損益となります。その分がきちんと信託管理する側で管理できることが大切になります。顧客が業者と取引するシステムから直接信託銀行側に自動的に約定データとして流れる仕組みがないとこれを正確にリアルに把握することはできません。

業者側がカバー先として信託銀行を使いたくない場合、あるいはその他複数の相手と取引したい場合、信託銀行にクレジットを借りて他の金融機関と取引をする必要が出てきます。そうなると信託のコストが上がります。大体の仕組みとしてはこんな按配です。細かい部分は私の説明と違う可能性があることをご理解ください。

本来相対取引の商売をする場合、一番いいのは自らの暖簾の信用力と価値を高めることです。これは拙著の中でも強調している話ですが、自らの信用を高める努力こそが経営力を高めることになり、安定した顧客サービスにつながると考えます。取引自体がOTCなのに、その資産を信託保全するのはなかなか難しいものがあります。また、ただでできることではなく、その分のコスト負担が問題にもなります。しかし残念ながら、これほどまでに独立系の業者が現れ、さほどの信用力もないまま好き勝手なことをしているという問題が噴出すると自らクリーンであることを客観的にうたわざるを得なくなってしまったのも事実です。

投資家サイドとしてこれが不利益をもたらすものではないので結構なことだと思います。ただ、私自身のこだわりですが、今は金利も低く金融収支がほとんど望めない状況では全部信託に投げてしまえという安直な手段をとりやすいのですが、しばらくして円金利も2%、3%になってくると、預かり資産の安全で安定的な運用がしたくなるはずです。そうなると信託に丸投げでは、そういう運用が思うようにできなくなります。運用することによりその一部が顧客に還元されるチャンスも失います。その程度という見方もあれば、それはそれで大きいという見方もあります。
 
以前私の会社でも、預かった資産に対して通貨ごとに付帯金利と称して日々金利をつけていました。これは、インターバンクに預けた証拠金(その原資は顧客預り金)が生み出す金利収入を分配したものです。信託分離してしまうとこうしたメリットが出せなくなる可能性が高いと思います。100%できないとは言いませんが、難しいでしょうし、できてもリターンが低くなります。


 本来、為替の相対取引ビジネスは銀行のそれにならうのが一番合理的です。しかしながら、相手が一般消費者で、扱う商品がレバレッジの掛かっている「危険」なものであり、参入業者にはまったくの「素人」が多いという事実を考慮すれば、このような足して2で割るようなビジネスモデルもありなのかなと考えます。こうした流れに業者サイドも大きく流れていく姿はある意味残念な気もします。問題は、投資家がそれにどれくらい価値を見出すかということになります。


プロフィール

尾関高

Takashi Ozeki

1986年名古屋大学経済学部卒業。1988年サンダーバード経営大学院(アリゾナ州、米国)卒業。主に日短エクスコにて約9年間、インターバンクの通貨オプションブローカーを経験し、1998年からひまわり証券(旧ダイワフューチャーズ)にて日本で最初に外国為替証拠金取引をシステム開発から立ち上げ、さらに、2006年5月に、これも日本で最初にCFDを開始した。
その後米国FX業者でのニューヨーク駐在や、帰国後日本のシステム会社勤務等をへて、現在は、日本の金融システム会社勤務。そのかたわら、本業のみならず、FXや新たな金融市場にかかわるさまざまな分野においても積極的に意見具申中。
拙著に、「マージンFX」(同友館、2001年2月)と「入門外国為替証拠金取引~取引の仕組みからトラブル防止まで~」(同友館、2004年6月)、また訳書「CFD完全ガイド」(同友館、2010年2月、著者:デイビッドノーマン)がある。

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