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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「儲けるよりも勝つことを目指して」 ―大前雅生 氏 [後編]

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大前雅生


(中編はこちらから)


■マーケットとコミュニケーション


 ディーリング方法で特に重要なのは、“プライスアクション(値動き)”だと考えている。プライスを見ていれば、語りかけてくるところがあって、それが積み重なって自分の頭の中にDNA(つまり経験則)ができていく。例えば、悪い予感というのはものすごく当たるのは、それは、人間が持っている防衛本能だからだ。相場で、こういった“ひらめき”を磨くためにはプライスアクションを見ていればいい。

このような感覚的なことを言うと、セミナーで、はぁっ?と反応されてしまう。本を読んでマスターできるとか、セミナーに行ったらできることではなくて、相場とコミュニケーション(対話)しないと得られないことだ。


様々な通貨が羅列されていて各々のレートで取引されていて、いろいろな時間帯でテクニカルやニュースや指標などいろいろな材料で動いている。そういった中でプライスを見ていれば、それだけで何が起こっているかは自分なりに理解でできると思う。線路に耳を当てて遠くから汽車が来るのをいつも窺がっているのが、トレーダーだと思っている。

もちろんチャートも見るが、チャートは、僕にしてみれば、今自分がどこにいるのかという現在地を示してくれるGPSのような存在で、決してナビゲーターにはならない。例えば釣りでも素晴らしい道具を揃えて、魚群探知機のついた船に乗ってその地点に行ったとしても、針をたらして、最終的に針に魚を引っ掛けるコツやタイミングがわからなければ、どんなにお金を費やしても魚は釣れない。


ディーリングも同様で、どんなに素晴らしいシグナルが出ていようが、それを打つ打てないの最終的な判断が自分でできなければ勝てない。エッジな部分の感覚というのがわかってくれば、どこで勝負をかけるかかけないかがつかめるようになってくる。これは個人投資家でもできるし、それだけで間違いなくパフォーマンスが変ってくる。

グローバルな為替の中で、日本の材料は、現在はパイでいったら8分の1ぐらいにしかならない。自分が経験してきたから言えるのだが、外国人のメンタリティで物事を考えて外国人のニュースの消化ニュアンスで材料を判断しないと相場には勝てない。

残念ながら日本のメディアを見ても、このような発想やニュアンスで情報発信しているところは少ない。「ウォールストリートジャーナル」や「フィナンシャル・タイムス」を読みこなせないところから言っても、情報量と情報の選別能力がアマとプロの違いになってしまっている。


■儲けるよりも勝つ


 個人投資家の方々は、当然のことながらまず儲けたいというモチベーションがあるから投資活動に走るのだけれど、FXの場合は、儲けようと考えないで、マーケットに勝つことを考えていただきたい。勝つことと儲けることとは違う。相場に勝つことによって自ずと儲けというのが上がってくるという考え方だ。

ここで売ったら儲かるとか、このシグナルを見ていれば絶対儲かるとか、安易な答えを求めてしまいがちかもしれないが、それは自分がつくった手法ではない。自分で、相場に勝てる手法を身につけるということが大事だ。例えば、野球にはいろいろな勝ち方があるが、ヒットを3本打って1点入れるか、ホームランを打ちに行くか、どれが自分にあてはまるのかは、各自違うし、そのときの状況によっても違う。


勝つためには負けることも必要になってくる。そういう割り切りが自分の中でできるようになってきたら無駄なロスはなくなってくるし、勝てるときの貯金がたまってくる。その発想を大切にしていただければと思う。

就職活動をされている若い人から、時折、ディーラーになりたいというような質問をいただくが、リッチなディーラーライフをイメージしているならそれは違う、自分はいい車に乗りたいとかいい家に住みたいからやっているわけではない、“勝ちたいからやっている”と答えている。実際は、生き残れるディーラーは100人中3人くらいしかいない、とても厳しくて泥臭い世界なのだから。


2年前に、勤めていたバークレイズ銀行が、サブプライムの影響を受け、リスク部門が閉鎖してしまったため、退職してFXで独立することにした。プロという自負があったので勝てると思ったのだが、退職金を素っ飛ばしてしまった。(後にこの損失は取り返す。)自分の働いたお金をリスクに晒すのと、会社の中のリスクテイクというのは明らかに違うこと、また銀行の為替ディーリングと違って、FXにおける証拠金管理の重要さを身を持って思い知らされた。

FXでは、個人投資家の方に、要求されるものが非常に高い。普通のトレード技術手法をマスターするだけでなくて、FXでは、崖っぷちな部分に晒されがちだし、それに対するストレスはものすごくある。またそれゆえに煽られてしまい、損を拡大してしまうと危険性があるため、資金管理とまた資金管理がうまくいかなくなったときのメンタルな部分も備える必要がある。


■究極のディーリング環境で24hrs臨戦態勢


 僕の現役時代と現在とでは、為替市場は大きく変化している。近年、ヘッジファンドなど機関投資家が利用するアルゴリズム・トレード(特定のロジックに従って行われる自動執行システム)やハイフリークエンシー・トレード(超高速取引)によって引き起こされる株式市場の急落や急騰が流動性を食ってしまうということで問題視されている。

為替にも同様な事象が現れ始めていて、以前とは流動性がまったく違う。これからも市場は変わっていくだろうし、それにどう対応していくかは、自分にとっても日々課題になっている。また、規制も懸念材料だ。日本におけるFXのレバレッジ規制に大きな危機感を覚えている。


市場を規制することによってできる歪みを本当に理解している当局者がいるのかどうか。今までレバレッジを効かせたトレードをやってきた個人投資家には影響が現れ始めている。こういった起こりうることに対しても当局に対応していただきたいと思う。その一方で、個人投資家の方は、少額の金額でしかトレードできなくなっても勝てる術というのを身につけるべきだろう。

為替は自分の人生にとって全てだ。為替に関してはとどまるところを知らない、一生続けるべきものだと思っている。そのために、自分が銀行時代に使用していた最低限のシステムを導入し、自分なりの究極のサンクチュアリ的なディーリング環境を手に入れた。これで、より為替とコミュニケートできる体制は整った。


ここまで続けてこられたのは、もちろん周囲の皆さんのおかげもあるが、為替が好きだったことと負けず嫌いだったことも大きい。そして、幸いにして、トレードが下手ではなかったからだと思う。日本人(サムライ)として、世界中の人が参加する為替市場で、常にナンバーワンでいたいという気概は、これからも持ち続けたいと思っている。

(全編終了)

*2011年09月05日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】常に“チェンジ”を求めて
【中編】人との出会いがキャリアを構成
【後編】サムライとしてNo.1でいたい



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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