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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「自分が看板−閃きと努力で勝負」−小林淳 氏[後編]

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小林淳


(中編はこちらから)


■マーケットへの恩返し


ニューヨークに5年ほど駐在した後、日本に戻り、ドイツ銀行東京支店に転籍して10年間勤務した。ドイツ銀行はグローバル規模で、これから為替に注力していこうとしていた初期段階であったことから、私も自分の持てる力を最大限に発揮できるチャンスだと思って一生懸命働いた。今では、ドイツ銀行は、為替市場では取引高において、世界でNo.1に成長している。私はその後、AIGファイナンシャル・プロダクト東京支店やJPモルガン・チェース銀行東京支店において為替関連の要職を経て、2007年1月から、現職(BNPパリバ銀行東京支店、外国為替部)にて、営業統括部長として為替チームを率いている。


今年7月には、『為替相場トレーダーの読み筋』という著書を出版させていただいた。

銀行のトレーダーは投機勢の一角であるが、この本は、投機勢という立場に立って、為替相場に対してどのような読み筋を立てていくのか、またどのようなアングルから相場を見ていけばいいのか、といったことを実践的に書き示した内容になっている。投機勢として為替相場に取り組む際、いったいどのようなアングルから為替相場の見通しを立て、自分の相場観を作り上げ、そして最終的に売買を仕掛けていくべきなのか、その売買に向けたプロセスが綿密に分かりやすく記述されている。この著書が、為替市場においてヘッジ売買を執行する企業の為替担当者や、FX(為替証拠金取引)に取り組む個人投資家の方々にとって、為替取引の指針になるようなら幸いである。


実際、これまで企業の為替チームに新しく着任された方々向けに当行において為替業務について数日間の研修(レクチャー)を実施していたのだが、この著書はそのレクチャー内容をまとめたものである。研修を受けられた方々から、「大変勉強になりました。これを本にされたら、すごく売れると思うのですが」というお言葉を頂戴し、それに背中を押されて、3〜4年前から仕事の合間に少しずつ書き始めていたものが出版に至ったのである。


自分はこれまで30年間という長期に渡って、為替相場に対峙してきた。そのキャリアと知見を次の世代に伝えることが、これからのライフワークと考えている。おこがましいかも知れないが、それがマーケットに対する恩返しのようなものだと考えている。大変有難いことに、FXに取り組んでいる個人投資家の皆さまにも随分、著書をご購入いただいている。また、最近では、個人投資家の皆さま向けに為替セミナーを開催させていただく機会も増えた。日本の個人投資家の皆さまには、為替市場において世界のヘッジファンドと戦って、勝ってもらいたいと思っている。これからは、もっとそのお手伝いができれば光栄である。


■ディーリングの基本は3点


著書にも記してあるが、私がディーリングの基本として重視していることは、以下の3点に集約される:


1.自分とマーケットの一体化
為替相場には、‟人知を超えた、動かせないもの” があり、そこでフェアに価格(相場)が決められている。その中で、自分の英知を結集して作り上げた相場観であっても、それが間違っていると判断されれば即座に修正する必要に迫られる。自分のポジションが値動きに否定されたら負けていくことになるわけで、その意味ではマーケットの値動き(変化も含めて)を重視し、いかにそれと一体になっていけるのかが勝負となってくる。だから、今年築き上げた自分の勝ちパターンであっても、それが来年の市場環境で効果的かどうかは分からない。従って、常に目の前に直面する相場の値動きに一体となれるトレーディング姿勢を作り上げることを心掛けなければならない。


2.フレキシビリティ(柔軟性)を持つ
市場環境によっては、レンジ・トレーディングを執行しなければならない方向感の乏しい局面もあれば、逆に方向性が出て、明らかなトレンドを形成して変動していく局面もある。 つまり、市場環境は日々刻々と変化しているものであり、その変化に付いていくフレキシビリティが重要となってくる。自分の固執した考え方には一切、意味がなく、市場の形が変化した時には、それに対応して自らがトレーディング姿勢を変えていかなくてはならない。そのようなフレキシビリティを備えている人が、為替市場では勝ち残っていけるのである。


3.トレードはメリハリをつける − 勝てる時だけ勝負する
銀行のディーラーの場合は、職業的なトレーダーなので、どんな時でもリスクを取ってトレードしなくてはならない。しかし、個人投資家は異なり、本当に相場に勝つことのできそうな、勝算の高い分かりやすい局面で相場に入り、勝負を仕掛けた後に早々に勝ち逃げするというのが理想の形である。 常にポジションを持っていないと落ち着けない‟トレード症候群” にはならないこと。勝てる自信がある時に売買を仕掛け、納得する利益を得たなら、また次の分かりやすい相場が来る時まで待つということができるかどうかも極めて重要である。


■挑戦はまだ続く


私にとっての為替とは何か。それは以下の2点にまとめられる:


1.経済のバイオリズムを教えてくれるもの
私は、物事はすべてバイオリズムで動いているという考え方をしている。例えば、健康のバイオリズム。体調が良い時、悪い時といったバイオリズムがある。また、金銭のバイオリズムや恋愛のバイオリズムなどもある。こういった諸々のバイオリズムの中で、為替相場に関して言えば、経済のバイオリズムを最も的確に先行して示してくれるシグナルということになる。だから、そのバイオリズムを掴み取ることが、グローバル経済の全体像を把握する最も近道であると思っている。


2.自己の精神的鍛練の場
為替相場に対峙する者には、知識や情報の積み上げだけでは太刀打ちできない何かが求められており、それを極めようとする者には知力の向上に加えて精神の修養、つまりメンタル部分の鍛錬が課せられている。そして、メンタル部分の鍛錬の中で重要な位置を占めるのが、自己の欲望のコントロールである。相場で儲かっていくと、そのまま限りなく儲けられるのではと思い始め、欲が膨らんでいく。ただ、そこに落とし穴があり、欲張りは最終的には大損を喰らって市場から撤収させられるのが世の常である。その意味において、為替相場に携わる上では、いかに自分の欲を抑制しながら、冷静に、そして客観的に相場を見ることができるかが勝負となってくる。為替市場というのは、我々のような投機勢に、その精神的な鍛錬の場を提供しているのではないか。そのような場において、自己の売買スキルを研き、欲望のコントロールを施し、最終的に収益を残していけるかどうか、その点が相場に向き合うことの本当の面白さなのである。



これまで30年間、為替相場に真っ向から対峙してきた。その中で、まだ挑戦してないこともたくさん残っている。それを近い将来、具現化させる予定だ。ジョージ・ソロス氏が80代になっても、いまだに相場を張っているのと同様に、自分もそのように相場に取り組むことへの情熱は、まったく失せることはなさそうである。

(全編終了)


*2014年10月20日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)

【前編】「人とのつながり」が将来の道を示唆
【中編】正統派でなくても発想と努力次第で社会で勝てる

【後編】キャリアと知見を次世代に伝える



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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