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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「“押し引き”が勝負の極意」 ―今井雅人 氏 [後編]

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今井雅人


(中編はこちらから)


■経験を積んで感性を磨く


 ふと、アメリカの金融機関の破綻がささやかれ始め、それで銀行同士が互いにクレジットライン(与信枠)を切り出したことに気がついた。このせいで、マーケットの参加者が減ったのだ。ずっとドル円が上がっていて、ものすごいロングが溜まっていた。上がってくるまではとてもしっかりしたマーケットで上がってきているのだが、突如として流動性が消えた。もし下がり始めたらとんでもない勢いで落ちるはずだ。案の定、10月初頭の2日間で20円近く下落した。

このときは大きな収益があげられた。なぜそう予想できたのか皆に訊かれたが、値動きをしっかり追ってさえいればわかることだった。ただ、ここに感性が必要になる。市場に何かに変化が起きたときに、その変化をおかしいと思えるか思えないかだ。


相場の変化を、値動きで感じる人、マーケットの参加者の行動パターンを見て感じる人、チャートを見て感じる人、とそれぞれだ。チャートを利用している人は多いと思うが、チャートはしょせん値動きの集積体なので、価格の動きを見ているのとチャートを見ているのと実は同じことになる。

もっと言ってしまうと、人が行動してレートが動くわけだから、人の行動を見ているのとチャート見ているのと実は同じになる。つまり、見ているツールが異なるだけで、皆同じものを見ていることになる。チャートだと、チャートポイントを抜けたと思うか思わないかということになる。

ただ、それには経験が必要になる。経験を積んでいくとその感性が磨かれていく。FXもそういう意味では、バーンとやってバーンと失敗して、はい、お終い、ではなくて、やはりやり続けないと、そういった感覚が磨かれない。たまたま、円安ブームに乗って金利まで取れてしまって儲けましたという人は、経験値にはならないし、その人たちは相場では容易に勝てないと思う。


■政治をわからずして相場はわからず


 為替は、剣道と同様に、偶然巡り合って、最初は“やらされてた感”があったが、やってみるととても深いもの(終わりがない)ということがわかり、だんだんおもしろくなっていた。例えば、剣道の段位はひとつの基準だけれど、こういった数字はあまり関係ないと思っている。

例えば、イチローは打率4割を目指しているのではないと思う。イチローは、自分がこれだという自分が納得できるバッティングができるかできないかの領域に入っていて、いくら稼ごうと考えてはいないと思う。ジム・ロジャーズにしても、いくら儲けようなんて考えてやっているとは思えない。やはり自分で予想したことに対してベット(賭け)して、それが当たれば、結果的に儲かっているということではないか。

銀行では数字の目標があるから、その数字をつくりにいかなくてはいけないので、完全に金稼ぎの世界に入っている。試合に勝つこと(利益をあげること)と技を究めること(自分の納得のいくトレード)とは、必ずしも一致しない。でも、ずっと続けているうちに、イチローのような違うステージに入っていってしまうような気がする。

そこまで行かなくても、世界中で、何が起きるのだろうかと予想して相場を考えるのは純粋に楽しいし、そこにベットして自分の予想が当たって儲かったらもっともっと楽しい。それが相場の醍醐味と言える。


三和を辞めたのは、ベンチャーなど違うことをしてみたいと思うようになったからだった。辞めて不動産や福利厚生をしている上場会社に1年だけ行って勉強することにし、為替からは、足を洗おうと思っていた。しかし、セミナーを依頼されたり、個人的にもトレードしている中で、会社設立の話が持ち上がったので、どうせ起業するなら、よくよく考えてみれば為替は専門なのだから、FXでやればいいかと思って、またこの世界に戻ってしまった。父に防具を送られてまた剣道を再開したのと同じようなものかもしれない。

議員になったきっかけは、民主党に出馬を要請されたからだった。普段から、よく政治の話をしていたので、それが間接的に民主党に届いて誘われた。幼稚園のころ、政治が大好きな父の横で、毎週、TVの『国会討論会』や『時事放談』を一緒に観ていて、漠然とではあるがずっと政治家になりたい気持ちがあったから、政治の世界に飛び込むことを決心した。

実際、政治家になってみると、わずらわしいことが多い。つまり、政局があってそれに準ずる駆け引きが多くて、政治家というのはスッキリしていないということだ。相場や剣道と同様に、駆け引き自体、それはそれで妙味があるのかもしれないが、政治かはそんなことより他にやることがあるはずである。


■為替と政治でやるべきこと


 政治家には多くのフィールドがあって、まんべんなく目を向けていかなくてはならないのだけれど、僕は特に経済対策に深く関与したいと思っている。今後の自分の目標は、この経済対策。経済政策というのは、結局は産業政策であって、その産業政策をしっかり見据えてやるということは、実は金融市場にはすごく密接につながっている。今の日本の政治に足らないのは、専門性の高い人材が欠如していることで、そうなるとそれこそ政治主導なんてできなくなる。

僕のようにマクロの観点からマーケットを見ていると、政治がわからなければ相場が読めなくなる。例えばギリシャショックはまさに政治問題だ。アジア通貨危機もサブプライム危機も金融行政の緩みが起こした現象で、大きな危機のほとんどは政治が起点となっている。だから、マクロで見ている人はおのずと政治に興味を持つことになる。よって、僕も政治に興味があり続けたということだと思う。今までのキャリアから、自分の中で、相場と政治はすごくつながっている。


現在、日本が抱えている問題で、金融市場に大きく影響を及ぼす可能性があるのは、財政問題だ。将来、日本国債は暴落するかもしれないし、円はものすごく暴落するかもしれない。将来起きうる日本の財政破綻をどうやって防ぐかという問題がある。これはとても大きな問題だし、日本の株式市場をどうやって活性化させるかというのも当然、政治でやらなくてはいけない仕事になる。政治家として予見できる危機はぜひとも回避しなくてはいけないことであり、そこに自分の力を注ぎたいと思っている。

FXでやりたいことはふたつある。ひとつは、投資やトレードはそんなに簡単なものではないということを個人投資家の方々にお教えしたいということ。必勝法があるわけではなく、ちゃんと勉強しないと難しい、甘い世界ではないということを皆さんにお伝えしたい。もうひとつは、日本人がものすごく内向きになってしまっているので、為替相場というものを通じてもっと海外にいろいろ目を向けて欲しいという気持ちがある。


為替という経験を活かしつつ、より一層政治にも挑んでいきたいと思っている。その戦いはまだ始まったばかりだ。

(全編終了)

*2011年07月12日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】勝負事の才能が開花
【中編】天才は無理でも秀才になる
【後編】相場と政治のつながりの中で





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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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