「淡々と勝負強く」 ―西原宏一 氏 [後編]
■優秀なディーラーは資金管理ができる
こういった成功者の例からも、やはり、為替は、勉強が必要ということがわかる。また、小さな波で勝ったり負けたりしていると、いざというときに勝負に出られなくなってしまうということがある。例えば2008年10月のリーマンショックで、オージー円が、3時間ぐらいで10円落ちたときは、崩れてきたときにレバレッジを上げて、追撃してバンバン売ると、あっという間に儲かってしまい、個人投資家でも銀行のディーラーも真っ青の収益をあげられたはずだ。
こうした大勝負を逃さないためには、日頃ポジションを持っていないときであっても常に相場を追っていなくてはならない。逆にチャンスでないときに、思わぬ大きな損失を被らないようにするためには、ストップロスが必要不可欠になる。
為替取引はもちろんマイナスが出るゲームであるが、取り返せばいいのであるから、やられても構わない。ところが個人投資家の一部の方は、取り返す自信がないため、逆に行くと4〜5円もポジションを引っ張ってしまう。フェイバー(利益)に行ったら、数十ポイントで利食って、アゲンスト(損失)に行ったら2円耐える。これではどうしようもない。為替は勝ったり負けたりするゲーム。負けるのは当然なので思惑と逆にいけば、切ってしまえばいい。負けることも想定していないと為替市場には入っていけない。
ただ勝った経験がないと当然取り返す自信は湧かないので、最初は少しでもいいので、収益が残っている時に、ゲームから降りるようにしたほうがいい。少額でも収益が残っている時に勝ち逃げする。収益が残るようになると興味も持続するけれど、損失が溜まってくると、当然やめてしまうことになる。確かに調子がいい時に、いったんゲームから降りると大相場を逃すということもあるけれど、慢心して収益を飛ばしてしまうことのほうが多い。焦らずに、興味を持続して2年3年と続けていくと結果が出てくると思う。
為替は、資金管理がすべて。プロであろうがアマチュアであろうが、資金管理が出来る人が優秀なディーラーであると言える。毎日や毎月これだけ儲けたいと考えても、相場のボラティリティが一定ではなく、自分の都合で動いてくれるわけではないので、なかなか目標通りには儲からない。途中で思わぬ損失を出したりして退場してしまうともったいないので、少しスパン(期間)を長くして戦略をたてるのがいいだろう。
■損はあっさり、準備はしっかり
昨年前半の、ユーロドルの3,500ポイント下落は、ユーロのソブリンリスクがきっかけになったもので、マーケットのコンセンサスどおりに、ユーロドルが急落したマーケットだ。
その下落仮定の中で、非常に儲かった人もいるし、ユーロドルが落ちると思っているにも関わらず儲からなかった人もいる。その違いはどこにあるのかと言えばレバレッジのかけ方になる。レバレッジが1倍であるとすれば、300ポイントぐらい戻っても、耐えられる。
ユーロドルの方向が下落とわかっていても、相場というのは一方的に落ちるばかりではなく、下げ方向でありながらも急激に戻る局面もあり、高いレバレッジだと、戻しに耐えられない。そこで最初はレバレッジをかけ過ぎないようにし、後は方向性が合っているかどうかだけを確認しながらやれば、生き残ることができる。収益を極大化させようとするのは、経験を積んだあとで構わない。
また、アゲンストのポジションをずっと持っていると深刻になってひきずってしまうだけなのでなるべくそうならないようにしたい。多くの人がポジションを取るときは、あっさりとあまり考えもせずに取ってしまう傾向にあるようだが、ポジションを取る前こそが大事。準備するときにもうちょっと準備してからポジションを取る。損はあっさりカットするが、準備はしっかりすべきだ。
資金管理は、例えば100万円入れてトレードを始めた場合、できれば損失は30万円ぐらいに押さえて、70万円ぐらいは死守するようにするといいと思う。資金の3割以上を失くすと、取り戻すのにかなり時間がかかってしまうからだ。逆に110万円、120万円と増えていくと、例えば、今日の相場は自信があるので収益の20万円だけは、なくしてもいいので、レバレッジを上げて勝負してみようと考えることができ、戦略の幅が広がる。
当初は無理をせず、資金をまず150万円ぐらいまでに持っていけるようなイメージを持つこと。その後、1年間にいくらまで収益を上げたいかという計画を立てるとき、収益が上がっているからこそ計画に初めて現実味が増す。
加えて、アドバイスさせてもらえるなら、バーチャルでトレードしているだけではなくて、例えば、オージー円が好きだったら、現地のオーストラリアに実際に行ってみること。為替で世界が広がる部分は多いので、個人投資家の方は、為替を通じて活動を広げていったほうが得になるし、第一楽しい。長く続けていくためには、興味を持たないといけないと思うので、ぜひ外貨に対する興味を持っていただきたい。
■多様なキャリアを活かして
自分にとって、為替とは、一生付き合える友達を作れた場所と言うことになるかと思う。一般のサラリーマンをやっていると、窮地に陥ることは毎日ないとは思うが、相場という戦場では、よくある話だ。そんな死にそうなときに助けてもらうと、信頼という固い絆が生まれるのである。そういった、友人は、ヘッジファンドにも信託にも外資にも日本の会社にも数多くいる。長くやってきたからこそ、多くの仲間ができ、今でも、そういう人たちに助けられている。
最後に在籍した銀行、DBS・シンガポールで得たものも大きかった。ここで、プロプライアトリーディーラー(プロップディーラー)をやったことが、独立する自信に結びついた。シティやドイチェなどは、機関投資家やヘッジファンドなどの取引のフローを直接見ることができるから、儲かるのはある意味当たり前だが、DBSは何もなくても、どのディーラーもすごく儲けていた。
プロップディーラーとは、会社のお金を使って、自己裁量で取引する、いわゆるひとりヘッジファンドのようなもの。プロップディーラーは、為替でも、エマージングでも、オイルでも、シルバーでも、何をトレードしてもよいが、成績だけはちゃんとあげていないといけない。儲かっていればそれでいいという仕事なのだ。アイデアでオプションを組んでストラクチャーで儲けたりするようなことも、DBSで習得することができたし、プロップディーラーの経験で、よりプロ意識を高めることができたのはとても幸運だった。
シティ・東京のディーリング、ドイチェ・ロンドンの営業、DBS・シンガポールのプロップディーラー − こういったさまざまなキャリアを活かして、最終的には、信頼のおける仲間とヘッジファンドの運営をしたいなと考えている。日本では、投資顧問の助言はできるのだが、一任勘定がなかなか取れないので、将来的には再びシンガポールに戻って仕事をすることも視野に入れている。
もちろん、現在、力を入れている為替の情報配信の仕事にも、大きなやりがいを感じているので、個人投資家の方も含めて、これからも、いろいろな人に出会っていけることがとても楽しみだ。
(全編終了)
*2011年04月25日の取材に基づいて記事を構成
(取材/文:香澄ケイト)
【前編】自らディーラーの道へ
【中編】相場の教訓を糧にする
【後編】ヘッジファンド運営を目指して
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