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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「通貨オプションとの出会いがすべて」 ―飯田和則 氏 [後編]

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飯田和則


(中編はこちらから)


■売りオプションでビジネスチャンス


オプションは、相場の不確定要素があるがゆえにその存在意義を持つ。たとえば今ドル円が83円で、下がると予想したら、オプションなどやらずにキャッシュで売ればいいし、上がると思ったらキャッシュで買えばいい。その一瞬一瞬で、相場のサヤ取りをするのならばオプションは不要だが、ある程度のスパン(期間)で考えたとき相場には不確定要素(予想と反対の相場の動き)が多く存在する。先行きが読めない、わからないことが多いからこそ、オプションには利用価値がある。不確実性の時代はガルブレイスの著作だが、今の世の中何が起こるかわからないので保険を掛ける。


話を元に戻そう。例えば、今の相場がドル円で83円だったら、83円のアット・ザ・マネー(オプションの権利行使価格〔ストライクプライス〕)が市場価格である為替レートと等しく、オプション行使時に利益がゼロの状態)のオプションを買うとする。これは、ドルコール(ドルを買う権利)を買おうが、ドルプット(ドルを売る権利)を買おうが、一緒なのだが、普通は上がると予想したらドルコールを買う。

基本知識として、オプションを購入した場合は、キャッシュでの売買が必須となる。でなければ、満期日に行使価格より上がっているか、下がっているかの単なる賭けと一緒だ。オプションの購入者は満期日までに購入したオプションを利用して、いかにキャッシュディーリングで支払ったオプション料以上に稼ぐかが問われる。

ドルコールを買ったら、キャッシュで一部を売る。売り上がりながら、相場が下がったら買い戻して利益を出すのだ。その繰り返しでキャッシュでの収益を積み上げ、買ったオプションのオプション料金以上にディーリングで儲ければこのディールは成功という形になる。逆に売っている方は、もらった手数料以上にヘッジコストをかけず済めば儲かることになる。売り手は出来るだけキャッシュディールを回避しつつ、時間を稼ぎながらポジションを管理しなければならないので、それはもう大変なことになる。オプション料を手にする正当な理由がそこにあるのだ。


オプションを買う人ばかりだと売るのは銀行なので、銀行はどんどんショートポジションが膨れ上がってしまい、ショートカバー(買戻し)を行う必要があるのだが、インターバンク市場で買い戻そうとすると、とんでもないプライスを提示されてしまう。銀行同士が同じようなポジションを抱えているため、どうしても割高なプライスは仕方のないところか。オプションのプライシングはまだまだブラックボックス的なところがあった。

それでも銀行のオプションディーラーは、どこかの時点でショートカバーせざるを得なくなり、マーケットからプライスを探すのだが、上記のような理由で納得の行くプライスは皆無に近い。どうせ損切りするのであれば、顧客により良いプライスを提供した方がましだ、ということになり、僕のところには破格のプライスが舞い込むことになる。


ビジネスチャンスはここにもあったのだ。オプションを売ることでマーケットでのプレゼンスが高まり始めた。自分に与えられたポジションと損失限度の範囲内でリスクを取っていたものの、いつの間にか大きなポートフォリオになっていた。相場がどちらにいくのかわからないというのが前提なので、ドルコールもドルプットも両方売る、いわゆるストラングルを売るのが僕のやり方だった。当然、プレミアムも倍はもらえることになる。インターバンクのディーラーにとっては両サイドでショートカバーが出来るので一石二鳥だったに違いない。

最初のうちは上にいくと思ったらリスクのないドルプットを売る。下にいくと思ったらリスクのないドルコールを売る。そうすると、オプションはどんどんアウト・オブ・ザ・マネー(オプションの権利行使価格〔ストライクプライス〕が市場価格である為替レートよりも不利な状態のオプション。つまり、買い手には損失、売り手には利益)になるのだが、方向感がはっきりしているのであれば、キャッシュでポジションを持った方が効率は良いので、この手法は止めることにした。時間(オプション取引での時間的価値は非常に重要)を掛けてポジションを持つことのリスクとリターンを常に天秤に掛けて判断していた。


■「ガンマサプライヤー」と呼ばれて


 オプションが実需のヘッジに使われ出すと、今度はエキゾチックオプションが登場した。いわゆる、ノックアウトやノックインとかである。これには非常に興味をそそられた。とにかく面白いのだ。自分の相場観に合うポジションが作れるのでどんどん取引を増やすことになる。スイス銀行の荒地さんには面白い商品を沢山紹介してもらった。モルスタのJoeさんとはマルク円のダブルノータッチのバイナリーオプションを日本で最初に取引した。

いつの間にやら、マーケットでは僕のことを「ガンマサプライヤー」と呼ぶようになっていたらしく「飯田さん、オプションを売ってください」と多くの電話がかかるようになっていた。僕はどう呼ばれているかなど露知らず、驕りも何もなく、ただただ、自分のポジションをマネージすることと新しいことに挑戦しているという喜びや自信、そしてバジェット達成に向けて、ひたすらがんばっていただけだった。


「ガンマサプライヤー」という名称(これは当時UBSの鬼澤君が付けたのではないかと推測している)は、喜ぶべき勲章だけではなかった。ガンマを売る(ネガティブガンマ)ということは、「私は24時間眠りません」と宣言していることに等しかったからだ。売りのオプションの恐ろしさは、そのポジションが化け物みたいに変わってしまうことだった。

「売り」による自分史上最大のピンチは、95年4月のドル円80円割れのときに起こった。このとき、ボラティリティがどんどん上がっていって、売りのチャンスと喜んでいた。普段は売るとボラティリティ低下するのだが、このときは売っても売っても逆に上がっていった。17%くらいから売り始めて25%位まで売ったのだが、ピーク時は30%を超えていた。通常、ドル円のボラティリティは10%前後だから3倍にも跳ね上がっていたのである。


ポジションはみるみる悪化し、評価損益は加速度的にマイナスへと膨れ上がっていき、新年度入りしたばかりだったので一層恐怖した。損失が膨らむと、キャッシュでオプションのヘッジ取引をしないといけなくなる。オプションを売っている場合なんかではない。だが、買い戻そうにも、もう買い戻せないぐらいとてつもない金額になっていた。もう首の皮一枚の状態に追い込まれてしまっていた。

ドル円相場がもっと下がればプットオプションが行使されるので、キャッシュで売らざるを得ない(ドル売り)。逆にもっと上がれば、今度はコールオプションが行使されるので、買わなければならない(ドル買い)。そうすると、見事に、本当に嫌になるくらい、ネガティブガンマの宿命として下がったら売り、上がったら買いになり、アゲンストのキャッシュポジションが膨れ上がってしまった。

その当時は、毎日介入が行われていたので、ドル円は平気で2円3円動いていた。僕のポジションは80円−85円とかのストラングルを売っていたので、81円のドル売りと84円のドル買いのキャッシュポジションが出来てしまった。何故こんな下手なディールを自分でやらなくてはいけないのか、もう目も当てられない惨憺たる状況に陥り、殆ど眠れない一週間だったことを今でも鮮明に記憶している。

どうすべきか、頭を抱えていたら、IBJの花井健さんと三和銀行の兵頭さんから、当局の介入は本気であるうえに、G7として円高阻止に協調介入で望むらしいとのアドバイスをもらった。この難局を乗り切るには相場の方向性に掛けるしかないと思ったし、それはドル高しかないと信じ、少しずつ下がったら買って、下で売ったポジションを損切りしながら、ドルロングを膨らませて行った。オプションでもレバレッジを効かせてディープ・イン・ザ・マネーのロングポジションをつくるなどして、9月に100円台を回復する頃には損益を何とかプラスに転じさせたのだった。通貨当局の情報を的確にインプットしてもらえたことが大きかったと、今でもお二人には感謝している。


■相場には真摯な姿勢が重要


 厳しい局面になっても、周囲には助けてくれた人がたくさんいた。現在の自分があるのは、こういった仲間のおかげだ。巨大なポジションをマネージできたのも、部下である川内君や日比野君の献身的なサポートがなければ達成できなかった。嫌な顔も見せずに24時間一緒に相場を追いかけてくれた。上司の森西さんはバランス感覚に優れた人で、僕を信頼してバックアップしてくれた。銀行のディーラーでは枚挙に暇がないが、チェースNYの福田さん、シティの松田さん、ドイツの原田さん、クレディスイスの浅川さん、IBJの平岩さんなど等。商社仲間も同じ釜の飯を食う戦士であり切磋琢磨したことも良い思い出だ。


為替市場が僕を育ててくれた恩人でもあり、いくら感謝してもしきれない。オプションとの出会いを与えてくれて、スポットよりも自分にフィットしたオプションのディーリングを積極的にまかせてくれた日商には本当に感謝したい。会社に信頼してもらい、大きな仕事をさせてもらえたからこそ、それに応えるのが男冥利に尽きた。

もし、自分が手を抜いていいかげんな気持ちや生半可な気持ちで相場に対峙しても、絶対に儲からないということは自分の経験からよく知っている。為替ディーラーであろうが個人投資家であろうが、相場に対して、真摯に一生懸命努力してやっていく姿勢が何よりも重要であると思っている。

今、日本の機関投資家や輸出入の貿易をしている企業や商社は、以前のようにリスクを取って為替のディーリングをしなくなり、リスクテイカーが企業から完全に個人に代わってしまった。個人投資家の方には、為替相場を決めるのは自分なのだという気概で是非ともがんばっていただきたい。為替と付き合うと間違いなく、世の中の動きがわかるようになると思う。少なくとも為替相場にはどんな材料も織り込んでしまうほどの器の大きさがある。

今、僕は個人投資家の方々と一緒になって、為替相場を通して日本の将来や世界の行く末などを熱く語り合えるような時間を持ちたいと思っている。そして、少しでも個人の方に役立てていただけるような新しい商品を提供していきたいと思っている。「ガンマサプライヤー」は今では、「個人投資家の方々へのサービスサプライヤー」でありたいと願っている。

(全編終了)

*2011年02月24日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】チャンスとプライドと
【中編】通貨オプションのパイオニア
【後編】「ガンマサプライヤー」から「個人投資家のサプライヤー」へ



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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