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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「生涯プロフェッショナル」 ―水上紀行 氏 [後編]

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水上紀行


(中編はこちらから)


■投機をなす者、楽悲を戒む


 相場の本質的な事象は他にもある。英米の決算スケジュールを追っていくと、実際に相場がそれに従って動いていることが分かる。例えば一昨年の12月から昨年の6月月初までのユーロドル相場では、テーマは欧州危機と変わらなかったことから、ずっとユーロが下がり続けた。しかし、6月に入りテーマは変わっていないはずなのに上昇に転じた。なぜかというと、6月の中間決算を前に手仕舞った(利益の確定)からだ。事実、その後、7月にかけてユーロは反発を続けた。また、下期のトレンドは、米国の9月の第1月曜日のレイバーデイの後から始まり、12月の前後に終わるのが一般的だ。こういった相場のパターンはちゃんとワークする。

僕はもともとテクニカル派だったのだが、テクニカルだけではすべての説明はつかない場合が相場では少なからずあることがわかってからは、ディーリングではバランス良く総合的に見ることが一番大事なことだと思うようになった。リーマンショックでドル円やクロス円が大暴落している最中に、オシレーター系のストキャスティックスなどで売られ過ぎのサインが出て、瞬間的に相場が反転すると買いサインになったが、このサインに従って買っていたらやられてしまっていた。その後また相場がドーンと下げたからだ。こういった大相場では相場自体が、もう逃げたいだけのロスカットの人たちだらけなので、巻き込まれると逃げようにも逃げられない。


メンタルな面も非常に重要だ。メンタル面で最も大事なことは固執しないということ。執着がうまく働く人も確かにいるが、自分の回りで安定的に利益をあげている人には、固執しない人が多い。相場は1回限りではないのだし、そこまで熱くならなくても、というか熱くなってしまったら取れるものも取れなくなってしまう。

僕の好きな言葉に、投機をするのだったらポーカーフェイスでサラリとやりなさいという意味の「投機をなす者、楽悲を戒む」がある。もっと気軽に、儲かったらラッキーだと思えばいい。ここで損切ったら戻してしまうのではないかという不安で損切りに踏み切れない人がいるが、それよりも、一度損切って冷静になって、もう1回やり直せば、そんなに深手を負うことはないはずだ。


■利食いを大好きになる


 自分の現在の相場の張り方は、銀行のディーラーをやっているときとは、明らかに変化している。ドル円のチーフディーラー時代のポジションの保有期間は1週間程度だったが、最近はデイトレ志向になっている。どうしてそうなったかというと、ある外銀の友達に、ターゲットを決めたらそれまでずっとポジションを引っ張るという自分のやり方を話したら、「それやったら疲れるよ。俺なんか、利食いが大好きだからどんどん利食っているよ。」と言われたからだった。これには、目からウロコが落ちた。

ここで利食ってしまったら、もしかしたらもっと行ってしまうかもしれないといった儲け損なう恐怖にかられるが、利食えてラッキーと思うべきなのだ。確かに、引っ張ると本当に疲れる。よしんば結果的に勝てたとしてもヘロヘロ状態になってしまう。相場の見方のみならず、自分自身の肉体的、精神的な面でもバランスを取って、状態をキープアップすると良い形で次の相場に参戦できる。相場も心技体なのだと思う。


そして、経験したことを忘れないよう努めることが大切だ。僕自身、いくたびもやられて、この負けを決して忘れまいと心の中で誓って、それを積み重ねて、学んでいったことが多かった。何が起きてどうなったのかというそのストーリーやそのときの情景自体を覚えていないと、結局同じことを繰り返してしまう。

また、おかしいと感じたことに対して、何でもないで済ませないで、やはりおかしいと思わないといけない。車を運転していると、たとえば、右後方でチラチラと何かが動いたような気がするときがあって、気になって必ずチェックをするが、相場でも同じことだ。東京時間オープン直後に、ドル円がドーンと売られて、その後で、何事もなかったかのようにスーッと戻っていく場合、何かの前兆であることが多く、それから1時間ぐらいしたら怒涛のように落ちていってしまうというようなことがある。

実際に、3大マーケットのオープン直後は、大きなロスカットが出やすい。どのマーケットもオープニング直後は流動性が高いので、そこでドーンとやる。例えばニューヨークの金曜日が終わって、週末を越えて、やはりこれは駄目だなと思った連中が、シドニータイムでやると流動性が薄いので、東京が入ってきたあたりでドカーンと投げてくる。


■プロフェッショナルであり続けるために


 僕は、自分に厳しいイチローがすごく好きだ。自分に厳しい者だけが自分を貫けると彼は言っている。彼は年間の自分の目標を決めて、ものすごくストイックにやっているし、マウンドに踏み込むときの足を右にするのか左にするのか決めているほど執着心が強い。イチローのように、自分のプリンシパル(主義)を持ってないと、為替ディーラーも長生きはできないような気がする。

為替をやっていたからこそ経験できたことは本当に多くある。様々なことに追い込まれて、欲望や固執の問題なども含めて、多くの決断をしなければならなかった経験の積み重ねが自分の身となり、財産となっている。そしてもう一つの財産は、為替という世界で知り合ったかけがえのない人たちだ。


三和で、ディーラーの地位向上のために奔走してくださった宮崎晃一さん。三和の為替ディーラーが思いっきり仕事できたのも、宮崎さんが環境づくりをしてくださったおかげだ。
大先輩の宮森正和さんからも、いろいろとご指導を頂いた。上司だった内藤隆幸さんや後輩の杉浦有一さん、柾木利彦さんという知己も得た。他行では、加島章雄さん、花生浩介さん、加川明彦さん、野手弘一さん、石井千晶さん、太田二郎さん、澤井大さん、和田雄一さん、福住敞綱さん、川守田千稔さん(順不同)は仲間と呼ばせてもらっている人たちだ。

そして現在、個人投資家同士で横のつながりを持ち、お互いに高め合うような良い関係が構築できれば、結果的に皆ハッピーになるのではないかと考え、そのお手伝いをさせていただいている。27年間培ったFXの経験と知識をできるだけノウハウとして伝えていくことが、この世界でずっとプロフェッショナルであり続けたいと願う自分に課せられた使命だと思っている。

(全編終了)

*2011年01月27日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】敢然とリスクを取りに
【中編】本質をつかめば相場がわかる
【後編】自分のプリンシパル(主義)を持つ



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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