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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「生涯プロフェッショナル」 ―水上紀行 氏 [中編]

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水上紀行


(前編はこちらから)


■闘争心に火が付いて


 国内支店から一挙に海外勤務。そしてまったくゼロからのディーリングには、最初は大変苦戦させられた。鬼軍曹の支店長代理にビシビシ鍛えられたが、そのお陰で早くキャッチアップすることができた。心配していた英語も、案ずるより生むが易し、予想以上に速く上達した。

最初に担当したのは、2国間の金利差が縮小したり拡大したりするのを利用して利益をあげるフォワード取引(為替スワップ)だった。スポットよりも変動幅が狭いので、その分大きなサイズでガンガンやる。

このフォワード取引で、一番儲かったのはプラザ合意のときだった。この頃になると、もうディーリングが楽しくて楽しくてしょうがなかった。プラザ合意で、日銀がドル売り介入したのは誰でも知っているが、日銀はもう一つ、日米の金利差を縮小させるというすごいことをやっている。円金利を引き上げることによって、金利からの円のサポートをなくしてしまったのだ。このことによって、さらに円高ドル安が進行した。


僕はそのときに、金利差がどんどん縮小していくのを狙って、東京オープン頃に、ロンドンから東京に電話して、大きくポジションを張っていた。東京に戻ってからの話だが、フォワードのサイズは10億ドルくらい。このサイズに慣れてしまっていて、スポットに移ってからも、フォワード感覚でやってしまいそうだった。ドル円のチーフをやったときは、いろいろな通貨ペアを合わせて、3億ドルぐらいだったろうか。

ディーリングは食うか食われるかの戦いのようなものだ。僕は、自分自身、基本的におっとりしたタイプだと思っていたのに、実はすごく闘争心が強かった。ディーリングで自分の本性が剥き出された格好だ。帰国して、最初の6カ月間担当したフォワードで、ニューヨークマーケットで暴れていたバンカーズと、闘争心全開で互角に張り合ったら、向こうのディーラーが認めてくれたらしく、明日東京へ行くから会わないかと海外から突然電話がきたことがある。後のニューヨーク時代にも相当激しくやって、バンカーズと仲良くなり、戦友ができていった。

ロンドンとニューヨークのマーケットには違う点がいくつかある。ロンドンは、スポットディーラーの地位は決して高くなかった。英国債(ギルトエッジ)のディーラーはオペラディーラーで、為替ディーラーはポルノディーラーという偏見語があったくらいだ。当時のロンドンのディーラーは中卒が一般的で、職人的にたたき上げられていく中で、先輩から教わって後輩に伝えていくというつながりができていた。

また、ロンドンは一つの銀行だけが動いているのでなくて、チャットなどを使ってつるんで攻めるところとか、どこにロスカットがあるかなどを確認し合いながら皆でやっていく、互助会的な組織になっていた。一方、ニューヨークでは、ディーラーはまったくの一匹狼。自分以外は皆敵みたいな世界だ。学歴も大学卒がほとんどで、博士号を持っているディーラーもいた。


■邦銀と外銀のマネージメントの違い


 ロンドンでもニューヨークでも、為替のプロフェッショナルでずっといく職人肌の人が多く、自分も感化されて、これからの人生プロフェッショナルに徹すべく外銀へ移籍したが、今思い起こしても、三和は風通しがよくて本当に良い会社だった。特に、部下が上司に意見を言うことはまったく問題なかった。サファリパークのように、遠くに囲いはあるけれども、その中では自由闊達に仕事ができた。ただし、自由である分、ちゃんと結果が要求される。そんな自由と厳しさを持つ三和に育んでもらえて、本当に感謝している。


外銀では、英米系のマネージメントが非常に勉強になった。日本企業の利益の創出は、平均的に毎月いくらいくらと積み上げていくが、英米系企業は最初に稼いでしまおうとする。毎年12月末から1月にかけて新年度入りしたときにスタートダッシュをかけ、先取りして、後は無理をしないというやり方をする。

ある年の1月2日、ニューヨークのバンカーズが、ドルマルクを大量買いして1,000ポイントぶち上げたときに、皆ビックリしながらも、追随買いしたところをバンカーズが翌日全部売ってきて、往って来いになったことがある。それで、バンカーズは1年分の収益を上げてしまったという話だ。邦銀にはそういう発想はない。日本勢は、そのとき正月休みだったので、ダメージを受けることもなく、ただただあっけにとられて見ていただけだった。


■相場の本質に重点を置く


 ディーリングでは、相場の本質というものに最も重点を置いている。つまり、現在の相場がトレンド相場なのかレンジ相場なのかに注意している。相場は、バーンと買えば上がり、バーンと売れば下がるように、気合で上がったり下がったりする。ただし、こういった気合の相場は長続きしない。投機筋が単に売ったり買ったりしているだけだからだ。

特に暴落や暴騰は、ロスカットで起きる。新規の買いや売りをする場合は、慎重に行うので、それほど相場が急激に上下したりすることはない。しかし、ロスカットとなると、もう早くマーケットから逃げたいから、ブン投げてくる。従って、相場自体がバーッとものすごい勢いで動くことになる。


資本移動は、一度発生したら当分の間ずっと一方向に流れるトレンド相場になる。以前から欧米間で、ものすごい資本移動が起きているが、資本移動を起こす原因としては、大きく二つが挙げられる。一つは、投資妙味だ。例えば金利が高いことが投資妙味であれば、そちらのほうに資金は移動する。

もう一つは、逃避行動である。今持っているお金を置いている国・地域がヤバイとか通貨がヤバイとなれば、逃避行動に出るので、資金移動がより大きく起こってしまう。この逃げるという行為によって、相場が大きく一方向に動いてしまうのだ。一昨年の12月から去年の6月までのユーロドルの動きが分かりやすい例だ。あのときは、ギリシャの財政問題を発端にした欧州危機により欧州から米国に資金が流れた。この「流れた」理由は、気合ではなく、実際に資本移動が起きていたからである。

ニューヨーク時代、ものすごいフロー(流れ)の勢いに飲み込まれる経験をしたことがある。ある欧州系の銀行に呼ばれて、ドルマルクを買われた瞬間にレートがポーンと100ポイント飛んだ。これだと逃げようがない。仕方がないので、上昇を続けるプライスを追って倍返し、最初から比べると300ポイント程度上昇したところで、かろうじて利食って逃げた。それが精一杯だった。

相場には何らかのテーマがあり、そのテーマに対して、投資家が、投資妙味を感ずるかリスクを感ずるかによって、一方向の資本移動が発生する。その結果、トレンド相場が形成されることになるわけだ。

(後編に続く)

*2011年01月27日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】敢然とリスクを取りに
【中編】本質をつかめば相場がわかる
【後編】自分のプリンシパル(主義)を持つ


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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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