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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「為替で人を知り、己を知る」 ―柳澤義治 氏 [中編]

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柳澤義治


(前編はこちらから)


■ディーリングは孤独な仕事


 堀内さんから受けた影響も絶大だった。日中のディーリングの際には、BHFを辞めた後でも、堀内さんだったらどういうポジションを取るかよく考えていた。チャートだとドル売りだけれど、堀内さんなら絶対買うだろうと予想すると、ロングして適当に利食ってショートへいくなどした。

堀内さんはたいへんなメモ魔で、しばしばメモをいただいた。そのいくつかは今でも自分の手元にあるが、この「アキメモ」には、相場に対する奥深い言葉が散りばめられていると思っている。

日本人為替ディーラーの双璧とも言える、お二人の元で仕事をしたのは、たぶん私だけではないかと思う。徒弟制度というか体育会系というか、どちらにしろ、非常に厳しい上下関係の中で鍛えてもらった。正直、そのときは、なぜこんな思いをしなければならないのだろうと思わなくもなかったが、この二人の上司に巡りあわなければ、間違いなく、ディーラーとして生き残ってはいなかっただろう。


最近は上司のほうが部下よりかえって気を使ってしまう傾向にあるが、私の経験を踏まえて考えると、やはり育てられる側のほうに問題があるのではないかと考えている。教える・教えてもらうという関係はキャッチボールに似ている。育てるほうは、自分は正しいと思って教育するわけで、投げられてきたボールをキャッチできるかどうかは、育てられる側のモチベーション(意欲)にかかっている。どんなに優秀な人でも、学ぼうと思っていなかったら、学べないのである。

ディーリングで最も重要なことは、自分の相場観に基づいてポジションを持つことだと思う。本来は、相場観を基にポジションを持って然るべきなのに、往々にして、自分のポジションで相場観を持ってしまうことがある。また、銀行のディーラーの中にも、人の意見を頻繁に聞いて回る人がいるが、自分の考えと同じ人を探して安心したいというのが本音だと思う。自分で、自分のポジションを客観的に判断できなくてはダメなのだ。

情報に関しても、良いネットワークを持っていると自慢する人もいるが、そこから入手できる情報は、第一義的な情報ではなく、フィルターがかかった情報かもしれない。ディーリングというものは、自分自身の判断(相場観)で行なわなくてはならない孤独な仕事なのである。ゆえに、私は、本当に信用できる人以外とは付き合わないできた。


■相場の読み方はチャート重視


 相場観を持つために、私が重視しているのはチャートだ。例えば、経済指標で非常に良い数字が予想されてドル買いになっていて、実際に良い数字が発表されたとしても、売られてしまったりする。こうなると、売られる理由はファンダメンタルズでは説明できない。それよりも、少なくとも短期的な動きはポジションの偏りで説明したほうが筋が通ると思う。

どれほど多くの情報を集めても、全ての情報を集めることはできない。しかし、市場全体から見ると、多くの人びとが様々な情報を収集して、いろいろなことを考え相場観を持ち、実際の取引が行われる。

つまり、全ての情報を市場が消化した結果が、取引のレートとなって表れるのだ。このように考えれば、そのレートを分析することにより、すべての情報を織り込んだ相場観を持てるのではないか。そう考えて、私はバーチャートやポイント&フィギュア(以下、P&F)をつけるようになり、そのうちにチャートをただ読むだけではなく、テクニカルアナリシスのほうにシフトしていった。24時間ベースのP&Fをつけるために、当時ニューヨークにいらした千谷さん、ジェフ、私のテクニカル分析の師匠でもあった香港の”マジック”・ネルソンと私の4人で8通貨ペアの動きを文字通りアラウンド・ザ・クロックでフォローした。ロイターでも公表していたので、他行の多くのディーラーも利用していた。


ディーラーに必要なものは、精神力、集中力、記憶力だと思う。歴史をつくるのも相場をつくるもの、同じ人間である。歴史は繰り返すと言われが、相場も繰り返す。だから必ずどこかに同じパターンが生まれるのである。そして、こういった繰り返しがあるがゆえに、チャート分析がワークすることになる。こういうパターンになったときはどうだったのかと記憶しておいて、その中から、自分の得意とするパターンを見つけ出して、ポジションを取っていくようにすると有効だ。

相場のもみ合い圏ができるのは、そこにポジションがたくさんかたまっているからで、相場が一気に通り抜けてしまったレベルには、ポジションはほとんどそこで生まれていないと考えられ、ここを抜けたら次のもみ合いのところまで相場は動くだろう考える。私の場合、こうしたチャートポイント(節)を常に記憶することに大きく注意を払っていたので、為替市場における大きなイベントに関してはほとんど記憶しておらず、頭の中に入っていたのは、20以上の通貨ペアのハイ、ロー、クローズと○×だけだった。これは、いかに相場を客観視しようとしていたかということの結果である。

チャートに基づいてポジションを取る人は、はいて捨てるほどいるが、ともすると理論的になりすぎる傾向にある。結果がすべてのディーラーの世界でもっとも実践的にチャートを用いてきたと自負している。


■勝ちパターンを得る


しかし、このようにやっていてもうまくいかないときだってある。特に95年前半は、相場に対する歯車狂って全然儲からなくなってしまい、とうとうクビだなと観念したほどだった。それまで大きな損失を出したことがなかったから、ショックは相当なものだった。このときほどつらい状況は他に経験していない。

それまでは、10本〜20本売って、100〜200ポイントをチャートポイントのところを狙って利食いにいくということをやっていたのだけれど、段々損が溜まっていくとホームランやロングヒットを目指すようになってしまう。そうすると、自分のスタイルから外れていくし、利食えるときにも利食わなくなってしまう。

儲けるのなら、素人だって儲けることはできる。しかし、プロたる者は、損したときにどうやってそれを最小限に抑えられるようマネージできるか、つまり損切りをどういうタイミングでしていくかであり、またメンタル的にもすごく落ち込むので、それにどうやって打ち勝って、損を取り返していくか、こういったことができなくてはならない。


このスランプからの脱却には、発想の転換が必要だった。自信をなくしていた当時の自分には一発で取り返せる金額ではなかった。そこで考えたのは、100ポイントの動きよりは、50ポイントの動きは数倍はあるはずだから、50ポイント狙いの30ポイントストップロスで、とにかく機械的に取っていこうというふうに考え、50ポイント抜きを何回やればいいと割り出し、星取表をつけた。

相場がもっと行きそうだと思っても、必ず50ポイントで利食うことにした。利食った後、もっと行きそうならまた売りなおしたり買いなおしたりして、新たなポジションを構築することにした。このルール通りにやって時間はかかったが、損を全部取り返して年末にチャラで終わらせることができた。

やはりヒットを狙っている人はヒットを狙うべきなのだ。たまたま当たってホームランになってしまうことはあるかもしれないけれど、やはり自分ならではのディーリングスタイルをつくるべきだし、儲けられる自分の勝ちパターン(このような相場展開になったらほぼ間違いなく儲けられるという)をつくらなくてはダメだということを、このときに改めて痛感した。

(後編に続く)

*2010年12月13日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】ディーリングという狩りの中で
【中編】自分の相場観とスタイルを持つ
【後編】公平なマーケットに報われ



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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