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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「ナイトスペシャリスト、マーケットと真っ向勝負」 ―福住敞綱 氏 [後編]

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福住敞綱


(中編はこちらから)


■情報のウェイトの難しさ


 ナイトデスクで印象に残っているイベントとしては、91年8月のソ連のクーデターや99年5月のルービンショックなどが上げられるが、事件自体の特異性により、ナイトデスクの存在がクローズアップされたことからも、9.11が最も印象的な出来事として心に残っている。


夜10時、シティバンクのディーラーがロイターに「WTC air crashed」と打ってきて、この事件のことを知った。ソ連のクーデターやルービンショックなどは確定事項だからニュースのほうがポーンと先に出てくるが、9.11の場合は、テロかどうか認定できなかったので銀行からの情報のほうが先に来ている。このような状況下では、積極的にポジションを構築して儲けようとする人はほとんどおらず、ディーリング自体よりも、問い合わせの電話に忙殺された。

情報のウェイトというのは非常に難しい。なぜ難しいかというかというと、例えばだれかが、英国のMPC(英中銀金融政策委員会)メンバーの1人がすごくハト派的な発言をしていると言ったとしたら、そのニュースが新しいのか古いのかがわからない。仮に、新しかったとしても、マーケットが反応するかどうかはわからない。

例えばガイトナー財務長官が1ドル=70円をでもいい、と言ったら、誰でも反応するだろう。しかし、誰々はこう発言したとか、新聞にはこう書いてあるとかいう、あやふやなものには、反応していいのかどうか難しい。それならば、ニュースでディーリングするよりは、まだ指標でするほうがずっといい。なぜかと言うと、指標は強い弱いがはっきりしているからだ。


■ナイトデスクの重要性


 最後のロイヤルバンクオブスコットランド(以下、RBS)では、新たにインターバンクセールスを担当したが、スクリーン上に溢れ返っている情報の取捨選択、そしてその情報の意味や市場の反応などは世界中の銀行の知人に訊いたほうが早くて的確だった。ナイトデスクやロンドンデスクもやはり重要で、東京に人がいれば、顧客は気軽に電話ができる。アナログかもしれないが、私は、人と人とのサービスというのは付加価値があるものだと思っている。

自分の分析方法としては、テクニカル指標を利用する場合が多い。というのは、まずファンダメンタルズは短期売買に向かないということ。それだけでなく、長期的に大きな流れを取ろうという人がいれば、ファンダメンタルズ重視になるはずだが、直近のユーロの動きを見ていると、ファンダメンタルズを反映しているようには見えない。


円にしてもそうだ。本来ならば日本の景気が明らかに悪いわけなので、どんどん円安にどんどんなってくれれば矛盾はないのだけれど、日本は、対外的にも債権国なので、リスクアペタイト(リスク志向)がなくなると、円高になってしまうというおかしな構造になっている。ファンダメンタルズに固執すると、収拾がつかなくなる。従って、ファンダメンタルズでディーリングするのは非常に難しいという結論になる。

テクニカルでは、ボリンジャーバンドが好きな人が多いようだが、私はシンプルなもののほうが好きなので、エンベロープ(ボリンジャーバンドの標準偏差が入ってないもの)をよく使っている。また、単純移動平均線やトレンドラインなどのシンプルなチャートを利用している。様々なテクニカル分析を試してみた末に、結局シンプルなほうがいいという結論に行き着いてしまっている。


■自分がわかれば相場がわかる


 数年前から、大学院で、ダニエル・カーネマンとイモス・トベルスキーが展開したプロスペクト理論、つまりファイナンスにおいて、人々がリスクを伴う選択肢の間でどのように意思決定をするか、を勉強している。人間は追い込まれたときのほうがギャンブル的に行動するというセオリーだ。銀行では、損しているときにギャンブル的に行動して損が拡大などしたら解雇されてしまう。銀行のディーラーとして、管理されて育ってきたので、そんなことは有り得ないと信じてきたわけだが、個人でトレードしてみると、こういった行動に走ってしまう。これは確定的であり、自分にとってはあまりにも意外だった。

どうしてこのような行動に走るのかというと、追い込まれると人間は痛みが強くなってしまうからだ。例えば100円儲かることよりも100円損することの痛みのほうが大きい。だから、100円損したときの痛みから脱却したいためにより強い行動を取り、ギャンブル的になってしまう。

個人投資家の方がFXで最も注意すべきなのは、損にのめり込まない、損にのまれないこと。損をしたときに、納得できる損のところで止める。逆を言えば、気持ちよく損切れるようにするということ。決して損にのまれて、ズルズル行ってしまってはいけない。そうなってしまわないためには、人間は弱いものだと思うようにする。プロスペクト理論のように、人間というのものは、困ったときこそギャンブル的に行動してしまう、ということを、ちゃんと知識として持つなどして、自分で自分の弱さを知ることだと思う。


自分のことを知るためには、自分がどんな人間かメモでどんどん書き出してみる。ディーラーで細かい人がいいと述べたのは、細かい人は、こういうことを頻繁にアップデートするわけで、自らをアップデートしていくことによって自分が見えてくるようになる。自分が見えてくれば、相場に活かすことができるのではないか。

個人として独立して、私は、改めて、自分が銀行での為替ディーリングが好きな、あくまでも、銀行における為替の職人であることを認識した。今、仮にどこかの銀行でナイトをやって欲しいと頼まれたら、その機会に感謝し、引き受けるつもりだ。やはりナイトの仕事は楽しいものであり、職人であり続けたいと願っている。

(全編終了)

*2010年10月26日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】為替歴は高校生から
【中編】オールラウンドなナイトデスクの仕事
【後編】為替の職人をまだ続けたい



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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