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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「飽くなき為替の道 今も進む」 ― 岡安盛男 氏 [後編]

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岡安盛男


(中編はこちらから)


■銀行を辞めてFXのデイトレ


 僕は、基本的に、相場はファンダメンタルズを見ている。ディーラー時代は、テクニカル分析はほとんど使わなかった。せいぜいローソク足をつけて、トレンドラインを引くぐらいで、テクニカル指標のほとんどは、個人トレーダーになってから勉強している。毎日値動きを見ていれば自分の頭の中にポイントは見えてくるものだ。今では殆ど主なテクニカル分析を身につけたが、実践で主に使用するのはフィボナッチくらいで後はファンダメンタルズを基本にストーリーを描くようにしている。方向を見るのがファンダメンタルズとするなら、目的地までの途中のでこぼこ道をどうやって歩こうかというのがテクニカルになると考えている。


僕は、トレンドがあるときは、常に根っこは絶対に崩さないポジションの取り方をする。ショートを10本持っているのであれば、手仕舞いはしないで必ず2〜3本は残しておく。だから、1本か2本ショートのときは、スクエアになった感覚だ。

10年間勤務したウエストパックの後に、チーフカスタマーディーラーとして働いたフランス系のインドスエズ銀行(現クレディアグリコル銀行、以下、インドスエズ)を98年3月末で退職した。インドスエズにいた4年間に、山一證券の破綻、アジア通貨危機、ロシア財政危機、そして日本の金融危機の拡大をインターバンクディーラーとしてつぶさに経験した関係から、退職後、JICA((国際協力機構)からの要請で、シンガポールで、マレーシア、ベトナム、インドネシアなどの中央銀行や財務相の方々に、今後そのような危機にどう対処したらよいかなどのセミナーを行っている。自分の経験したことが世の中のお役にたてれば幸いであったし、ディーラーをやっていて良かったと感じたことのひとつだった。

また、退職すると同時に、個人としてどこまでやれるかFXのデイトレに挑戦しようと、イギリスのCMCに口座を開設した。日本のFXは同年4月にスタートしたので、国内の業者はまだインターネットでのトレードが一般的ではなかった。

当初はパソコンのOSが英語バージョンでなくてはいけなくて苦労したりもしたが、CMCはレバレッジ100倍までだったし、プライスも非常に良かった。ただ、業者が潰れたら危ないと思ったので、300万程度の資金で始めることにした。年収1,200万円を想定して、デイトレで1日5万円稼ごうという壮大な計画を練ったが、いかにそれが間違いであったかを知るのにそう時間は掛からなかった。


FX業界に参加するまでの約2年間、個人トレーダーをしていたときは、銀行のディーリングとは異なり想定していたよりも最初は勝てなくて、いかにFXに対して自分が甘かったかということを思い知らされた。逆を言えば、大変に勉強にもなった。このときの経験が、後のFXの仕事で大きく活きてくる。人生に無駄はないと思う。

銀行には顧客の玉なども含め多くの情報があるし、FXではレートの配信トラブルなどで取引が出来なくなったりするが、銀行だったら、ブローカーに「何やってんだ」で済んでしまう。トレード環境から、個人トレーダーを比較すると、ある意味で銀行のディーラー以上に難しさがあると思う。

また、銀行のディーラーにはバジェットが与えられ、一定の期間での収益目標があるため、どんな相場でも常にディーリングしていなければいけない。しかし、個人が銀行のディーラーの様に何でもかんでも取引をやるのは難しい。従って、チャンスのときだけやるようにしようとしても、チャンスがない状態が続けば生活できなくなってしまう。ゆえに、専業で生活していくのは相当厳しいと僕は思っている。


ある程度他からコンスタントに収入があったり、子どもが成人してしまっているなどの背景があればよいが、そうでなければ、プレッシャーがあまりにも強過ぎてしまって、ディーリングに差し支えてくる。総じて余裕のある状況でやるのが一番望ましいし、実はこの方がディーリングでの勝率は高まると思っている。


■人のせいにせずに、淡々と


 ディーラーには淡々としている人が向いている。良いときばかりでなく、悪いときもあるのだから、ワーッと調子に乗らないし、ワーッと落ち込みもしない平坦な感じの方がよい。自分はどちらかというと調子に乗るタイプなので、日常的な場面で訓練をした。例えばエレベーターや電車のドアが閉まりそうになったときは焦らず、敢えてゆっくり歩いて、一回ずらしても大勢に影響はないと自分の中で収めるようにする。意識してコントロールしてみると案外ワークする。


しかし何よりも、最も大事なのは人のせいにしないこと。まずそこがスタートだ。人のせいにするというのは反省がないし成長がない。相場なんて人の力で動かせるものではないから、動かせるなんて思った時点でダメになる。伸びる人というのは、全部自分の責任で、どこが悪かったのかを反省し、そしてそれをどうやって直せるかという人であって、そういう人であれば、何年も何十年も相場の中で生き伸びられる。生き残った人が勝ちなのだ。

勝ち負けは期間によって違ってくるかもしれないが、結局、最終的にディーリングを辞めたときに、トータルでどうだったかということだと思う。つまり勝ち負けは死ぬまでわからないというところがある。自分で決断したことは、反省はするけれど、後悔はしないように、自分自身が、最終的に、満足できるような生き方を目指せばよいのではないかと思う。


■「伝えること」が使命


 弊著『FX攻略バイブル−長く勝ち残るトレーダーを目指す人のための実践書』にも記しているが、だれでも宇宙の法則を変えるのは到底不可能だとわかっているので変えようなんて思わない。為替は宇宙と同様に変えられるものではなく自分自身が変わっていくしかない。自分が為替の相場に溶け込んで一体になるようにすれば、その流れに乗ることが出来る。相場と喧嘩して、相場が悪いから勝てないなど言い訳をして戦おうとしていたらやられてしまう。よく、こうあるべきで、買ったレベルまで相場は戻るだろうなどと言う人がいるが、そこからまたどうなるかはフィフティ・フィフティなのだ。

それよりも、いったん間違ったと思ったら、損失を素直に速やかに出すようにすれば、大きな怪我をせずに済む。トレードでは死なないというのが一番大事。死ななければ、相場は、また1ホール1ホール始まるわけだから、そこからもう1回やり直せばいいだけの話なのである。人生と同じである。


為替と長くつきあっていると、何でも相場と常に比較して考えるクセがついてしまっている。自分の哲学や人生観が相場の延長線上にあると言ってよい。僕が常に心がけている言葉「いつも明るく感謝を忘れず」を、この十数年、パソコンのスクリーンセーバーにしている。運というのは、決して待っていて来るものではなくて、自ら切り開いていくもの。

いつも明るく前を向いていると、苦しいときにだれかが何か持ってきてくれたりする。やはり日頃からポジティブな生き方をしていると運も向いてくる。実際に自分も、そう心がけ、多くの人との出会いと助けに支えられてここまで来ている。だからこそ感謝を忘れずにいる。

今は、FXの面白さを皆さんに知っていただくために「伝えること」が自分の使命だと思っている。まだまだ為替でやるべきことはたくさんある。

(全編終了)

*2010年09月14日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】なんでも屋のアービトラージディーラー
【中編】生き残れる人が良いディーラー
【後編】いつも明るく感謝を忘れず





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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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