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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「相場人生は全ての出会いによって」 ― 柾木 利彦 氏 [後編]

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柾木利彦


(中編はこちらから)


■1にチャート、2に精神修養


 三和NY時代は、情報と勘とP&Fだけでトレードしていた。情報は、トッププレイヤーの生きた情報に重きを置き、そういった価値のあるディーラーたちと直に話して、どんなところにオーダーやストップオーダーがあるか、買いが厚い、売りが厚い、お客さんがどんな感じだとかいう状況を把握する。最初はファンダメンタルズの勉強をしていて、その後、需給分析を得意とするようになったのにはチャーリーさんの影響もある。

三和を辞めて、シティに移った時点でも、まだファンダメンタルズを重視していた。しかし、実際の自分のトレードでは、テクニカル(チャート)以外に頼るものがないと心の底では思っていた。例えば、対マスコミで相場を語るときは、ファンダメンタルズだけに焦点を置くものの、実際のトレードでは、テクニカル重視でないと勝てないと悟るに時間はかからなかった。大きく損失を出したときの最大の要因は、ファンダメンタルズ分析に拘泥し執着したことだったので、それ以来、チャートと精神修養に力を注ぐようになった。


一目均衡表理論に巡り合ったことも大きな転機になった。一目均衡表のすごさは、伊藤寿彦さんに教えていただいた。伊藤さんにそこまで言われなかったら、私は勉強しようとしなかったはずだ。特に時間論においては、伊藤さんの右に出る人はいないだろう。佐々木英信さんよりも伊藤さんが上だと思っている。伊藤さんと知り合って、色々とやっている内にスパンモデルを発見し、私なりに肉をつけていき現在の形を完成させた。独自のチャート分析である、「スパンモデル」、「スーパーボリンジャー」、そして、「アクティベート時間分析」の手法の確立に多大な時間と労力を注いでいる。伊藤さんも前出の方々に加えて、尊敬すべき人物の一人だ。

精神修養という点で、仏教に傾倒していったのは、自分の苦い経験がベースになっている。大手欧州系銀行に在籍していたとき、結果として、外資系金融機関にありがちな「ポリティクス」に巻き込まれた格好となり、為替チームをたたまざるを得なくなったが、その時に受けた精神的ダメージは非常に大きかった。悩んでいたときに、瀬戸内寂聴さんがTVでおっしゃっていた「不条理」に関する話に共感を覚え、それがきっかけで仏教を勉強し始めた。また、一目均衡表理論の原本には多くの仏教用語が散りばめられていて、相場と通じるものがある


■正しいトレード法の伝授


 精神修養とは、つまるところ、ありのままを生きるということではないだろうか。今、私は個人投資家の方々のお役に立ちたいとこの仕事をしているが、FXで成功する道筋としても、相場でやられていて、ロスカットができなくて、どうしたらいいのかとしたら、ありのままでいるということと、自分が、今の自分を心の底から認めることが必要になると思う。

自分は逆の方向なのにポジションを持っているということに対して自分が自覚した(認めた)段階でもう救われている。普通、それを自覚したがらないから救われない(苦しむ)わけである。自覚すれば、そこから次にもう進めることになる。加えて言うならば、後は、1億損しようが、10億損しようが、別にそれで命取られるわけじゃない、と開き直ってしまうことも大事だ。


別にトレードでなくても、皆誰しも、自分の得意なことや好きなことが、使命としてきっとあるはずなので、それに気付いて、邁進することが大切だと思う。だから、ディーラーを育てるなどというのは、私は全く無理だと思っている。マーケットの世界は甘くない。その人が強い意志と意欲でもって、ついてくるかどうかが全てだ。私は、人は皆、生まれてくる前に、この世で何をなすかを決めてくると信じているので、ディーラーとして大成する人は、潜在意識にそれを成就しようとする果てしない願望や意思を持っているはずだと思っている。

つまり本人がやる気を出して、いかにして切磋琢磨する気があるかどうかに尽きる。その人が、トレードで生きていくような人間であれば、いい師匠が居さえすれば、必ずこの師匠のいいところを盗むので、師匠は教える必要は何もないはずだ。

個人投資家の方々に言いたいのは、正しいトレード教育をうけたかどうかが大事であって、トレーダーとしての資質があるかどうかは問題ではないということだ。トレードの向き不向きとよく一般に言われるが、個人投資家はプロのディーラーになるのとはまた別のレベルである。


だからこそ、私は、個人投資家の方々に正しいトレード方法をお伝えしたいと考えている。個人投資家の皆様も、意欲次第で、立派な資産を築くことが出来ると信じており、その為のステップとして、トレードにおける大事な部分をコーチング出来ればと思っている。教えるというよりもコーチングの色彩を出したいのは、私自身が皆様と一緒になって、相手であるマーケットと戦う意識を極力持たずに友達のように対峙していきたいとの投資哲学が背景にある。


■ライフワークで世の中に還元する


 今、自分の人生を大きく左右してきた様々な人々との出会いを邂逅し、それがディーリングの人生を創ってくれたことに間違いはないと改めて感謝の念を抱く。あの日、あの時間、あの場所で、あの人たちに会っていなければ、今日の自分はない。ほんの短時間での交流が契機になってくれた出会いに関しては、こと運命のいたずらのように感じられてしまってならない。

その後、私が長く為替の世界に居続けることが出来たのも、ディーラーとして精一杯やっただけでなく、その間に出会った多くの友人や先輩方の助けによるものであると心より思っている。


こういった人との出会いとそれを通じての人間としての成長、古典(一目均衡表、相場指南書)との出会い、仏教との出会い、そして、ライフワーク(マーケット世界の真理の研究、および個人投資家の啓蒙活動)の追求が自分の人生になる。ライフワークとは、自分が経験したこと、学びえたことを世の中に還元することだと思っている。

結局、こうして現在の仕事につながっているのは、終着点ではなくて求めていたものが今ここにあったからだ。私は、以前から、自分は何かの専門性を極めて、その専門性に対して興味をもってくれる人に、お弟子さんのように来ていただいて、そういう中で啓蒙していくということを考えていたので、相場の世界に入らせてもらえたのは、こういったライフワークをするために必要なことだったのだ。

これからの目標は、自分ならではのものを創ること。世界で一個だけのものを自分が創って、それを広めたい。ナンバーワンでなくてオンリーワンでライフワークする。そう考えると、やはりこの為替の世界で良かったとつくづく思うのである。


(全編終了)

*2010年07月16日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】実力主義の邦銀で鍛えられる
【中編】超一流のディーリングを知る
【後編】オンリーワンのライフワーク





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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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