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【The FxACE】ディーラー烈士伝

「為替も“We”の精神で」―尾崎英外 氏[後編]

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尾崎英外


(中編はこちらから)


■相場は経常収支を重視


 為替で重視していたものは、経常収支だった。今は経常収支など、まったく為替の材料にならなくなってしまっているが、今ほど資本取引が厚くなかったので、経常収支が実需の柱となっていた。今のように円キャリー取引が存在しない時代は、1兆円単位もの経常黒字があると為替に対するインパクトは大きかった。

円のロングポジションが積み上がってくればどこかで限界もくる。銀行のディーラーは、売ったものは買い戻すし、買ったものは売り戻さなくてはならない。何かの材料で、ドルが上がってくれば、彼らはロスカットやポジション規制に引っかかり、ドル高に弾みがつく。実需でドルの売り切りをする輸出企業やドルの買い切りをする輸入企業にはロスカットはないので、為替は、最後は経常収支で決まると思って見ていればよかった。

また、円建てのサムライ債の発行や対内直接投資、さらには外人の株式投資による円買いや日本企業の海外での企業買収などによるドル買いなどのまとまった資本の取引にも注意を払っていた。現在は、そうはいかない。世界中のお金の動きを見ていないと為替相場を理解することはできなくなってしまっている。あいおい損保も機関投資家なので、外債投資も行っているが、昔取った杵柄で、為替相場に関する議論には時々参画している。


銀行さん等からの為替に対する情報は、トヨタが玉(取引)を一番持っていたから、溢れるほどあった。以前は邦銀中心に取引をしていて、外国の銀行はバンカメ、シティ、チェースぐらいだった。しかし、あるとき、世界中で車を売っているのに、金融機関との取引がこれではおかしいと思って、主要な外資系の銀行20行以上と一斉に取引を開始した。

カナダもイギリスもオランダも現地の大手銀行と取引する。途中からは、規制が緩和されて証券会社(投資銀行)でも為替取引ができるようになっていった。為替オプションのポジションが一番大きかったのは当時からゴールドマンサックス(以下、GS)だった。

情報で大事なのは、情報のセンスの良い人と付き合うことだ。三菱信託の上原治也さんのセンスはメリハリがあって突出していた。興銀の花井健さんやJPモルガンの岡田久さんもセンスに優れていた。


■自己矛盾との葛藤


 財務担当者としては、自分の予想をレポートして、それが的中したときは無性に嬉しかったものだが、円高の予想が当たっても会社としては良いことではないので、手放しで喜ぶわけにはいかなった。為替予約をして、自分がよくやったなというときは円高になったときだから、会社としては具合が悪い。

半年間だけ予約益でカバーできても、逆に、円安になると予約の損が発生してしまうので、しないほうがよかったなと思うが、会社としては円安になると非常に良い。自己矛盾はジレンマとして常について回っていた。ゆえに、こういった点からも、輸出企業の予約というのは半年先が限度なのだと思っていた。

レポートは毎月作成していて、いざ何かあったときは社長や会長まで説明していた。さらに円高になりますよ、とはなかなか言いにくかった。

営業の人達に、採算レートがここだから、これ以上だったら何年先まで売ってくれていいよ、などと言われ、オプションで売り過ぎたことがあった。ところが、円安になってしまうと、財務部も大したことないね、などと言われてしまうのが、プレッシャーといえばプレッシャーだった。こういった場合、これは円安に戻るなと思ったら、わりと大胆に買い戻したりはしていたが、いずれにしろ為替相場とは人間の想像力を遥かに超えた世界である。


『酒田五法は風林火山』という格言があるが、為替はまさに典型的な風林火山ではないだろうか。行動を起こすときは疾風の如く迅速に、情勢眺めのときは林の如く整然とし、攻め入るときは烈火の如く猛然、動くのが不利な時は山の如く泰然とする。また、気持ちにゆとりのある人のほうが良い。かっこつけてしまうのは良くない。第一、為替市場は、化け物のようなもので、かっこ良くやれるほど甘くはないのだ。

マーケットは、コンピューターではなくしょせん人間がやっていて、人間心理に基づいて動いているので、自分が不安になっているときは皆同様に不安になっているし、そろそろかなと思っているときは他の人も思っていることが多い。人間の心理をよく理解することがマーケットとうまく対峙できる秘訣だと思っている。


■「I よりWe」の精神で人をつくる


 僕は、一番難しい仕事は自分でやるという主義でやってきた。プロジェクトができると、一番難しいところを僕がやる。そして、次に難しいのは、一番信頼できる部下に任せ、その次、その次と任せていった。それをやると、人が育たないのではないかと言う人もいるかもしれないが、僕は、上司が必死でやっていれば、それを見ている人は自然に育ってくるという考え方でいる。

アメリカで学んだ『ボス・オア・リーダー』は、後にトヨタファイナンシャルサービスを世界33カ国(日本での1社を除き他は全て海外)で設立したときに、特に意識した言葉だった。ボスよりもリーダーにならなくてはいけないことを指す。ボスは権威に依存している。ボスは、すぐ「I(俺)」と言う。ボスは、仕事の内容とか数字ばかりを気にする。


リーダーは、人に興味を持つ。あいつは育ったかなとか、この仕事は彼にやらせてみようかとか考えるのがリーダーだ。リーダーは、皆をモチベートしてやる気になれば良い仕事ができるというようにしなくてはならない。僕は、海外の人たちと仕事するとき「I」と言う言葉は決して使わなかった。いつも「We」で「Let`s…皆でやろうぜ」と言って一緒にやってきた。

為替に関わることで経済を勉強させてもらったことは、自分にとって大きな財産になった。そして、会社にとって一番大事な財産は、人材と企業文化だとも思っている。この2つともすべて人がつくっている。だからこそ、人を育てて、育てた人を大事にしていくことが基本になる。為替も含めて、僕が終始一貫意識してやってきたのは、人を育てようということだったのだと思う。



(全編終了)

*2010年03月15日の取材に基づいて記事を構成
 (取材/文:香澄ケイト)


【前編】円高時代に対抗する
【中編】為替リスクと価格設定
【後編】必死でやれば人は育つ



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プロフィール

香澄ケイト

Kate Kasumi

外為ジャーナリスト

米国カリフォルニア州の大学、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国後、外資系証券会社で日本株/アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事。退職後、株の世界から一転して為替証拠金取引に関する活動を開始し、為替サイトなどでの執筆の他にラジオ日経への出演およびセミナー等の講師も努める。

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