読者からの質問(2)への回答
今回のご質問はこれ。
「FX業各者の通貨ペアごとの日々の収益認識方法を教えて頂けないでしょうか」
簡単な概念だが、慣れないと「へ〜〜〜そうなの???」という受け止められ方をする話。では始めましょう。
まず、基本の概念としては、業者が外部の相手と取引をした結果生まれる債権債務の残高を円(日本だから)で評価した時の損益科目残高の昨日と今日の差分が今日の損益になる。
なんのこっちゃという声が聞こえてくる・・・なので、例を挙げて説明する。
まずはモデル式だが、経理目線の話なので特段断らない限りノストロ(当方勘定※)ベースで説明している。間違っても顧客側目線での売買とか損益を表現上使わない。
※ノストロ(Nostro):当方勘定、反対語は、ボストロ(Vostro)、先方勘定。客の勘定を計算するときに、残高は負債(客の資産)なので、損益は客目線で差引しないと残高が合わないが、業者側から見たときのバランスシート目線で考える時は、客の損は業者の益なので、益としてカウントするというように、損益勘定だけは当方勘定か先方関羽城下で損益(正負号)がひっくり返る。本来この業界では、客の残高を扱う帳票には、最初に当方勘定か先方勘定かをちゃんと宣言してから要件定義していく(あるいはそういう概念をちゃんと踏まえて定義してゆく)ことがあとあとの誤解を避けるうえでは大切である。
当日のディーリング損益=;
(対顧客当日実現損益)+(対顧客未受渡損益)
+{(対顧客評価損益当日)-(対顧客評価損益前日)}
+(対CP当日実現損益)
+{(対CP未実現損益当日)-(対CP未実現損益前日)}
前提:
「当日」 :計算する対象となる日。通常経理処理をしている今日が火曜日なら前日営業日の月曜日の取引日のもの
「取引日」:インターバンクの為替取引で共通の取引日。日本時間(冬時間)で午前7時に変わる日
対顧客当日実現損益
説明はいらないと思うが、多通貨決済をしている場合は、通貨ごとの売買損益を当日のクローズレートで円にしたもの。仕訳もその円額で記帳されるはずである。
対顧客未受渡損益
T+2決済をしている業者だとこれを独立した科目か内訳科目で建てていると思うので、一応モデル式に入れているが、個人的には対顧客評価損益に混ぜてしまっても何ら問題があるとは思っていない。そもそもオフバランス取引に未受渡(既決済未実現)の概念を入れることの意味はないし、もっと言えばT+2にする意味もない。そういう話は過去ログでも結構説明しているのでここではこれ以上触れないでく。
対顧客評価損益
対顧客で持つオープンポジションのクローズレートで仕切った評価損益。これには未決済スワップがあればそれも足し込んでいる前提。評価は当然全部円額に変換している。
対CP当日実現損益
ひとつひとつの約定についている受渡日(valueDate, settleDate)が当日を迎えている(valueDate=当日)ものの合計額(円評価)。当然トモネのスワップも含む。
対CP未実現損益
受渡日>当日の全ポジションのクローズレートで計算する評価損益(円)。
評価レート
クローズレートとはここでは評価レートとしてクローズレートを使うという意味。評価レートはクローズレートの仲値を使うのが一般的。これは相手が客でもCPでも同じものを使わないとおかしい。
以上が、簡単な説明になるが、多通貨決済をしている場合はここからが大事。
EURUSDの取引を対顧客でやっている場合で、USDの売買損益はそのまま客のUSD口座に反映する場合、この業者は負債勘定にUSDを持つことになる。一方、CP側でも同じことが起きてUSDの残高を持つ場合、資産勘定にUSDを持つことになる。
つまり、オフバランス取引をしたいとしながらも結果的に、バランスシートの資産と負債に外貨残高をもつことになる。この場合は、その残高について「資産USD – 負債USD」をしてその額に相対する円の額が経理システムから算出されるはずである。それがオンバランスでもつ外貨USDのイクスポージャであり、その対価がそこに出てくる円の額である。そのいわゆる“キャッシュポジション”も一方で見ていかないと、日々クローズレートの仲値で円に変換して積み上げられていくディーリング損益だけがすべてだと思ってはいけない。前者のオンバランスの評価と後者のディーリング損益を合算したものがこの業務(ビジネス)から生まれる本来の(全部の)損益になる。
CPに預けているUSDの残高が50,000USDあった時、顧客のUSDの残高(現金見合い分)が24,000USDだった場合、この業者のUSDキャッシュポジションはロング(+)26,000USDである。そのドルのコストは日々日々仕訳されていった円の額の積み上げで計算されるはずである。仮にそれが、-307,9898円だったとしたら、平均コストが118.457615となる。当日の評価レートが120.00だったとするなら、このキャッシュポジションは含み益40,102円を持っていることになる。この含み益もディーリング損益の一部とするかあるいは別の科目やモニタリング科目を当てるかは業者の経理基準の問題である。
実際私が業者としてやっていたときは、多通貨決済だったので、上記のようなオペをしていた。自己資本規制比率を計算するときの市場リスク額の計算とまったく同じ式(ロングとショートに分ける前まで)で外貨のイクスポージャは算出できる。勘違いが多いのは、「客のEURUSDはCPのEURUSDで100%カバーしているので市場リスクは生まれない」という考えである。これは間違いで、必ずUSDのでっぱりひっこみが生まれる。それをちゃんと抽出してかつ現金のキャッシュポジションと合算すると上記の法定の計算式通りの結果が出てくる。その計算を日々やるか、一時間ごとにやるか程度の違いである。
で、出てきたポジションを私は“NOPヘッジ”と称して定期的スクエアにする取引をCPでやっていた。いわばキャッシュ(オンバランス)の外貨ポジションをオフバランスでカバーするということである。特別なことではない。
補足の説明としてなぜ上記のようなNOPヘッジがいるかと言うと、
昨日のUSD100ドルは@120.00で円価額にして記帳した。
今日のUSD100ドルは@121.00で円価額にして記帳した。
とする場合、同じ100ドルでも違う円の価値で記帳されていく。そのずれを補正するためにNOPの額の算出とその外貨に対する持ち値(円)と現在の市場価値との差額を損益として認識するのである。一般にこうした科目は「外貨差損益」(損益)/「外為仮勘定」(資産)等の科目で処理されているだろう。こうした外貨の円コストを追いかけるには、「外貨取引補助簿」は不可欠となる。経理の専門家なら特段珍しい話でもなんでもない。
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