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マーフィーの日々是好日

トレードにおける心の管理(1)

トレードにまつわる心の管理(コントロール)について考えてみたいと思います。

トレードしていて大事なのは、心を平静にして、マーケットを冷静に判断し、柔軟、かつ、臨機応変に対応出来ることです。そんなこと言われなくても分かっていると仰る方もいらっしゃるかもしれませんし、逆に、そんなことはどうでも良いと主張されるかもしれません。

ただ、実際にそのように感じられる方は要注意かもしれません。と言うのも、トレードしている時は、自分が自覚しているよりも遥かに熱くなっているものです。相場を見ているようで見ていないものなのです。収益を上げたいという情熱があるのは良いことですが、相場に向かって熱くなるようなことは避けたいところです。

私などは、自分では比較的冷静、沈着な人間だと思っていますし、長年に亘ってトレードしてきて、少々のことでは驚かないぞ、と言える自信めいたものはあるのですが、それでも、実際問題、平日、マーケットがオープンしている時に気が付かなかった重要なポイントに週末になって初めて気付くこともあるのです。つまり、平日、マーケットが動いている時には、トレードしたり、レポートを書いたりして、それこそ、心が忙しい状態になっているわけです。忙しいの「忙」という字は、心を亡くすと書きますから、まさに当てはまっていると思っています。

もっと冷静になって相場を観測することが出来れば、あのような失敗はしなくて良かったのに、と思うこともあります。結局は、自分が意識しているよりも、無意識に自分を追い込んでしまっていることが意外と多いということです。

ところで、心理学で「フラストレーション・トレランス(欲求不満に耐える能力)」という用語があります。人が些細なことに腹を立てて、小さな不満や不足に我慢できず、ちょっとした抑圧やストレスに耐えることが出来ない、その度合いを計るものです。そして、昨今、この「フラストレーション・トレランス(欲求不満に耐える能力)」が低下の一途を辿っているという報告があります。

時代の背景として、日本のような先進国において、現代社会は、様々な技術の進歩によって、あまりにも快適な社会であることが要因となっているようです。特にIT技術の進歩によって、人は誰でも居ながらにして世界のあらゆる情報が簡単に手にすることが出来ます。携帯電話で何でも出来るようになったと思っていたら、今度は、スマートフォンなるもが誕生し、携帯でパソコンを操ることが出来る環境になったわけです。

昔は、高額なコストを払ってロイター、テレレートなどの情報端末が、銀行や証券会社のディーリングルームにのみ設置されていたのが、今や、同程度の情報は、各家庭のリビングに座っていても得ることが出来る時代なのです。そして、トレードをしている人々は、お腹が減ればコンビニに行けば食べ物が簡単に手に入るし、冷暖房もゆきとどいている恵まれた環境の中で、誰でも好きな時にマーケットに入っていけるわけです。

このような快適なトレード環境にいると、人間というのはどうしても甘えてしまう傾向にあります。そして、ちょっとしたことに不満を覚えるようになるわけです。何もかもがインスタントに、お手軽に手に入ることを当然のごとく要求してしまうという悪い癖が付いてしまっている気がします。FXをトレードするに際しても、携帯電話、スマートフォンを使って、それこそ片手で一瞬にしてトレード出来てしまいます。

このように、私たちは皆、トレード環境だけをとれば、昔では考えられないくらい「楽ちんな、恵まれた条件」を享受しているわけで、そんな中に慣れてしまった人々は、実際のトレードでも、簡単に、インスタントに収益を求めようとしているようです。何やらいつの間にか、お金儲けは簡単に出来るものだという、誤った認識が広がり過ぎたきらいがあると思えるのです。

確かに、トレードというものは、FXでも株式でも商品でも、全て、買うか売るか、何もしないかだけのことであり、これほど簡単なことはありません。クリック1つで全て完結してしまうわけです。ところが、このような状況にて、「フラストレーション・トレランス(欲求不満に耐える能力)」を既に低下させてしまっている個人投資家がトレードすると一体どのようになるのか、少し考えるだけでも、結果は押して知るべしの気がします。

と言うのも、本来、相場とは、大いなる忍耐を必要とするものです。激しいストレスに耐えなければならないものと考えます。正しい「トレード技術」を習得することが出来たとしても、それを実際にトレードで活用する際には、やはり、ストレスを伴うものです。ストレスを感じながら、実際に、トレードしながら、本当の意味で身に付けていくものです。正しい「トレード技術」を知識としては持っていても、それを正しく活用して実際にトレードするに際しては、フラストレーションに耐える力がどうしても必要となってくるわけです。

ところが、現実はと言うと、IT技術の進歩の恩恵を受けて何をするにも便利な世の中が、人々から「心の耐性」を奪っていると言っても過言ではないということです。この辺りの認識を持って相場、マーケットに臨むかどうかで、結果は大いに異なってくると私は思うのです。

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プロフィール

柾木利彦(マーフィー)

Toshihiko Masaki

インテリジェンス・テクノロジーズ代表

1980年、大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。
ニューヨーク支店、東京本部の ドル円チーフディーラーを経て、1992年米銀大手の『シティバンク』や欧州系大手の『オランダ銀行』東京支店などで外国為替部長として外銀最大級のトレーディングチームを率いて活躍、現在に到る。その間、「東京市場委員会」での副議長や「東京フォレックスクラブ」委員などを歴任。卓越した市場関連知識でもって、テレビ、ラジオ、新聞などで数多くの情報発信を行い、東京外国為替市場の発展に貢献。自身、過去24年に及ぶトレード経験に基づき、独自のチャート分析 (「スパンモデル」「スーパーボリンジャー」等)を確立。
個人投資家に向けて最強の投資法を伝授することをライフワークとして、現在も精力的に取り組んでいる。

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