絶対に上がると思う、だから下がると思う?!
これは、私がまだ正式のディーラーになる前のディーラー研修生の時にあった実際の話です。将来のディーラー予備軍として、東京本部に集められ、ディーリング業務に関して、集中的に研修を受けていた当時、以前にロンドン支店にてチーフディーラーを務めたことがある先輩の方がマーケットについての講義をしてくれました。
その方は、周りからたいへん頭脳明晰と言われ、部(国際資金証券部)内でも、随一の理論派として一目を置かれていました。その上に、元ロンドン支店チーフディーラーという実際の現場経験も踏まえた上で、講義をしてくれるのだからよっぽど 為になるだろうと期待して傾聴したわけです。
正直、ひょっとしたら、相場の予想方法など、「秘伝」も教えてもらえるかもしれないと思っていたのです。将来、ディーラーになりたいと秘かに思い始めていた私にとっては、素晴らしい機会を与えられたわけです。
ところが、氏は、講義の最中、相場の予想に関する話の中で、いきなりこのように仰いました。「私が、ある時、相場が絶対に上がると思ったら、その相場が下がる可能性はかなり高いでしょう。」と。ロンドン支店でチーフディーラーまで経験した人が、自分の相場観がそれほど酷いものだと自ら認める発言だったのですから、私は、正直ショックで、目を丸くしました。
氏は、確か、「私が絶対にこうなると確信した時に相場がその方向に動いたためしはないですよ。」と仰っていたのを記憶しています。かなり、謙虚に、そして、話を誇張して、私達研修生に真意を伝えたかったのでしょうが、それにしても、驚いた次第です。
つまり、氏はマーケットの難しさを、身をもって実感していたのでしょう。そのことを、正直に謙虚に認め、相場に対して「絶対こうなる」などと思って臨むと大怪我をするということを私達に伝えようとしたのだと思います。
そして、氏は「相場なんてものは一寸先は闇です。」と言い切ったのです。そこまで言うのかと内心思ったのですが、これからマーケットの世界に入っていく後輩に向かって、「決してマーケットをあなどるな」と言う、せめてものメッセージだったのでしょう。
確かに、為替相場を理詰めで考え抜いた揚句に持ったポジションは利益につながりにくいというのが私の経験則でもあります。かつて、友人でもあった、機関投資家の代表とも言うべき生命保険会社の外国為替担当者と話した時に、「経営陣を相手に為替相場のことを説明する際は、本当に苦労するよ。理屈が通る説明をしないと納得してもらえないから。」と嘆いていました。
だからこそ、生保等の日本の機関投資家は、外国為替のヘッジではいつも後手に回ってばかりしていたのでしょう。債券投資では上手くいっても為替ではいつもやられていた背景事情がよく分かります。
ところで、私は、結局、2か月の「ディーラー見習い研修」を経て、ニューヨーク支店に配属になったのですが、研修期間中に聞いた様々な「机上の知識」だけを頭の中に携えて、荒れ狂うニューヨーク外国為替市場に放り込まれたという次第です。そして、案の定、ニューヨーク外国為替市場では手洗い洗礼を受けたのは言うまでもありません。
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